世界の中心、君と二人

羽ステップ

世界の中心、君と二人

「お腹すいたね。」

 君が優しく語り掛けた。

「その言葉、昨日も聞いたんだけど?」

 少し笑う。

「忘れちゃった。そんなこと。私はあなたといるだけで十分なの。」

「そういうものなの?」

「そういえば、私たちにも肉があるんだから『自給自足』できるんじゃないのかな!」


 ただ風が吹き荒れる。砂が舞い荒れる。いつからそんな場所になったのか。

 俺が生まれたときには、もう地球は一面砂漠になっていたらしい。

 人間が『戦争』で『核兵器』をたくさん使ったせいなんだって。



「知ってるか?俺たちが生まれるずっとずっと昔、海?っていう水の楽園があったらしい。そこには一生かかっても飲み干せない水があったらしいぞ。」

「おもしろそうだね。」

「死ぬなら腹いっぱい食って死にたいよ。『海』に水があるなら、食べ物もあるだろ。」

「そうかもしれないね。」

「そういやもう食料がないんだけどどうしたらいいと思う?」

「私のを食べておいてそんなこと言うなんて、食いしん坊なんだね。」

 いつも僕に食料を分けてくれる。そんな優しい君が好きだ。

 そんな君を独り占めできるなんて『幸せ』だ。



 ただそれで何が変わるものでもない。

 ただ死んでいく。

 この荒廃した世界でたくさん死んでいった。

 目の前で、静かに逝く人が何人いただろう。

 だいたい死因なんてものはわかりきっている。

「腹減ったな。」

「食べ物が欲しいね。」

「ほしいな。」

「ほしいね。」

 …………。




「どうせ死ぬなら、楽園を探そう。」

「また言ってる。楽園なんてないよw。もう探し尽くしたでしょ?」

「俺はこのまま、お前と一緒にここで死にたくない……。生きたいんだ、お前と。」

「『一生のお願い』ってやつ?大昔の儀式でしょ?そんなものに頼るなんて。……今回だけだよ?」

「ありがとう。」

「じゃあ行こう。」


 ただ歩いた。風の吹き荒れる荒野を。自らの命のその最後まで歩き続ける。

 止まるな。俺たちが生きるために。

 歩いた。

 力を振り絞り、ただ前へと進み続ける。






 ―――あの影は?






 間違いない。何かの建造物だ!誰かいるかも!

 走った。人生で一番早く。誰よりも早く。




 たどり着く。そこはスタート地点だった。

「なんで……これ、なんd…………。」

 後ろを見た。何もなかった。

 歩いてきたと思っていた。一緒に。でもいない。


 そりゃそうだ。ただの幻想なんだから。

 今話している君も。歩いたことも。

 看取ったじゃないか。静かに逝く、あいつの顔を忘れたことなんてなかった。

 幻想に逃げたのは、俺の心の弱さだ。

 そもそもこのくそったれな人生で初めて『恋』というものを知ったのはあいつのおかげだ。

 この『恋』を打ち明けることはなかったけど。


 建物の陰に座り続ける。


 

 横にあるのは、俺があいつだと思っていたのは、ただの骨だ。骸だ。


 そこに魂があるわけでもない。心があるわけでもない。ただそこにある。

 お腹がすいたと言った僕に、いつも食べ物を分けてくれた。



「お腹すいたね。」

「その言葉、昨日も聞いたんだけど?」

「忘れちゃった。そんなこと。私はあなたといるだけで十分なの。」

「そうだったな。」

「そういえば、私たちにも肉があるんだから『自給自足』できるんじゃないのかな!」

「……。」

「そうだよね!おいしそうだよね!」

「………………。」




 あぁ。本当に何回目だろう。この茶番は。

 狂ってるというかい?惨めだと蔑むかい?お前は。


「お腹すいたな。」


 本当にお腹がすいた。

 俺の命もこれまでなのかな。

 これが『人生』ってやつかあ。


 そういや、誰に昔話をしてもらったんだっけ。

 まあそんなことより明日は何の昔話をしようかな。

 そうだ。昔この土地は『太平洋』と呼ばれていた話にしよう。


 明日も横でお前は笑ってくれる。

 それだけで明日が楽しくなる。

 腹がぐぅぅぅぅぅぅぅと鳴る。

 



 よく見ると骨もおいしそうに見えてきた。


 うん。明日は骨にしよう。




 あぁ楽しみだ。

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