1−5−2
バレンタインデーから約2週間が経過した。
特段大きな変化は無く、今日も俺は通わなくても良い学校に通い、時折下される任務に従事している。
強いて言えば、傷与係の運用方法に少しばかり変化があった。
これまで『痛みを与ること』だけを目的に運用してきたが、この春からは『痛みを与た上で癒しを与えること』を目的に運用されることになった。
バレンタインデーで突発的な依頼を方々に行ったがために悪目立ちした事もあり、他部署からは『自作自演係』『余計なお世話係』などと揶揄されることになった。
一方でセンパイは『ま、それだけ名が知れた存在になれたな』と苦笑した。
そして、今日も今日とて任務が下る。
2月27日 9時―――
【雑貨屋の店員をとして、対応に当たれ。】
これは俺ではなく、センパイ自身が受けることになった。
なんでも白井芽衣ご用達の雑貨屋の店員として、ホワイトデーのお返しを選定するものらしい。
該当の店にはセンターの力を借り、短期バイトとして雇ってもらっていることにした。
「ま、ホワイトデーに花束を送るような君に、務まる任務ではないな。」
タイトなジーンズに厚手のTシャツ、その上にエプロンをかけた上に、ポニーテール……
普段から滲み出ている凶悪さは鳴りをひそめ、すっかりバイト仕様になったセンパイが店の裏まで自転車で運んでやった俺をイジる。
「サラッと黒歴史を掘り返さないでください。」
「それはそれとして」
「流して良い話題でも無いですよ?」
「その……どう思う?」
センパイは俺の話題を無視して、控えめな態度で尋ねてくる。
俺は(任務の事かな?)と予想して、適当な回答する。
「どう思うって……まぁ、今回は無難なものを買わせておけば良いと思いますよ。
前にセンパイが言っていた通り男は単純ですからね……『ドラゴンと剣が融合したキーホルダー』でも買わせれば良いんじゃ無いですか?」
「ここ、ファンシー雑貨の店なんだが……?というか、そういう話じゃない!」
「えぇ?」
「実は……普段こういう服を着る機会がなくてな……その、似合っているだろうかと思ってな?」
ようやく質問の真意を知った俺は「あぁ……」と声を漏らし、率直な感想を思い浮かべる。
その感想に『礼を欠いた表現』は見当たらなかったので、そのまま答えた。
「似合っていると思いますよ。思った以上に。」
俺の回答を聞き入れたセンパイは、にへらと笑う。
「そうか……それは良かった。」
その笑顔はこれまでの『切れ者』というイメージに対し、存外かわいらしく見えた。
「じゃ、こっちも任務に行ってきます。」
「あぁ『舞台課の応援』だったな。……時期的にたぶん『桜の開花調整』だろうな。」
「まって、そんな事もやってるんですか?」
「大変な任務だとは思うが、そっちは頼んだ。」
「大変というか、そんなことが可能なんですか?」
「心配するな、こっちも17時までのシフトが終わり次第向かうから。」
「別にシフトまるまるやらなくて良いですよね?白井芽衣の対応終わり次第、来れますよね?」
俺の正論に一瞬目を逸らすと、徐に腕にない腕時計を確認し、「……もう時間だから。」と言って目にも止まらぬ速さで店へと消えていった。
完全に虚をつかれた俺は「え、ちょ、センパイ……!」と言って引き留めを試みも、失敗に終わる。
「はぁ……しょうがない……行くか。」
後頭部を掻きながら早々に気持ちを切り替えた俺は、まだ冷たい春の空気をかき分けるように自転車を漕ぎ始めた。
(そもそも『価値ある青春』とは何なんだろうな。)
信号待ちの最中、ふと疑問が浮かぶ。
それは任務をこなして行く中で抱き、時折思い出す疑問であり、納得する答えはまだ糸口すら掴めていない。
でも、一つわかったことがある。
それは『何かを懸命に成そうとする彼らの姿は、とても煌めいて見える』ということだ。
(『彼ら』を追っていった先に、疑問を解消する言葉が見つかりそうだな……)
自らの中で新たな方針が決まったところで、ちょうど信号が変わったため、俺は再び自転車を漕ぎ出した。
今日も『青春保全センター』は『青春ユニバース』の裏側で、『価値ある青春』のために慎重かつ大胆に行動する。
何の変哲もない小道具にこだわりを込める者
『お約束イベント』を意地でも発生させる者
別ジャンル同士を合流させないために調整する者
変わった役割が少なくないなかでも、人の青春を壊してまで『価値のある青春』を送らせようとする変わった者たちがいた。
傷つけ、与え、かかわっていく。
『全身全霊の青春』をさせるべく組織された『傷与係』
そんな彼らの次の標的にされ『未知なる青春』を紡いでいくのは誰なのか……
それはまだ、誰も知らない物語である。
こちら青春保全センター~青春不適合者のモブ、青春の裏側で奔走する~ 山坂良樹 @yamasaka_yoshiki
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