第五話 ディナーはフルコース?

 帰途に着いた二人は、夕闇迫るメインストリートをぶらぶらしていた。


「ところで」


 男が、切り出す。


「なんで、お前、来たんだ?」


 少女は、首をかしげる。


「なんでって……。課長が、あいつは何やらかすか判らんからって」

「ったく。言ってくれるぜ」


「親友なんでしょ? 性格、よく知ってるわよ」

「ふん。あいつは、昔から俺を信じた試しがないんだ」


「あたしに言うなって言って飛び出したこと? かっこつけちゃって……」


「声が出なくて泣いてる奴を連れて行く訳にゃいかないだろ? それに、俺は、いたって紳士的にだな……」

「うそばっかり。か弱い相手にタンカ切ってたくせに」


 ルドガーは、どこがか弱いんだよ物の怪だぞ、と言いかけたが、やめた。


「ま、とにかく、お前が無事でよかった」

「え? なによ、いきなり……」


 少女は、照れる。なんだか彼の口調が、恋人みたいだったからだ。

 頬を染めた少女を見て、男は、ニッと口元を笑わせた。


「なんたって、セラのおごりで、フルコースだもんなぁ」

「ちょっとぉ、あたしの心配じゃなくて、夕飯の心配してた訳?」


 唇が、つんととんがる。

 彼女の得意な、不満の表情だ。


 男は、笑った。


「俺、もう、腹へっちゃって……」


 これも、少女の声が無事に戻ったからこそ、そんな事が言えるのだ。少なくとも、彼女の声を取り戻すため、単身、危地へ乗り込んだ時の彼は命がけだった。


「ふうーん」


 少女は、いたずらっぽく笑った。


「多分そうだと思って、これ、持ってきたわ」


 ポン、と小さなパックを男に放った。

 男は、それを受け取って、絶望の声を上げる。


 それは、ディナー・キャンディと呼ばれる代物で、パックには、フランス料理コロニアル風フルコースとある。


「ばかにしちゃ駄目よ。本物を食べた時と同じ栄養が摂取出来るんだから」

「う……」


 男は、絶句した。こう、無邪気にやられてはたまらない。

 とうとう彼は、観念した。


「判ったよ。俺がおごる」

「ほんとう? わぁ、ラッキー!」


 少女は、ぴょんと飛び上がった。

 通りをスキップする少女を見て、男は少し不安になる。


「セラ、判ってんのか? フルコースじゃないぞっ!」

「判ってるって。桃源楼でバラそば食べよっ」


 夕焼けが、少女の銀の髪をオレンジ色に染めた。それは、きらきらと炎のように輝く。


 たったったっ、と男の前を走って、くるりと振り返った。


「ごちそうさまぁっ!」


 そう言って、少女はひときわ鮮やかに、笑った。


                         幕

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【カクヨムコン11・短編】銀髪の『唄』と吸血鬼 東條零 @Lei_Tojoe_09

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