ふしぎスピード解決屋

藤泉都理

ふしぎスピード解決屋




 大学一年生の青年、相場あいばが日傘をさして、大学から家へと帰る途中の事であった。

 お~い、にいちゃん、と。

 やけに間延びした口調で誰かを呼びかけている男性が居たが、相場は自分ではないと判断して、その真正面からやって来た草臥れた男性を素通りしたのだが、その男性は相場の肩を叩いて、おまえさんのことだよと、だらしない笑みを浮かべながら言ったのである。

 おまえさん、おもしろい霊の憑かれ方をしているなあ。




「僕の顔の左右別々に違う霊が憑いているって言うんですか?」

「そうそう。おまえさん。顔に不調が起きてないか? 自分の意思に関係なく、左右の顔が別々に動くとか、動かそうとしているのに動かないとか」

「はい。病院では暑さによるストレスが原因だと言われましたが。まさか、霊のせいだったなんて。あの。僕は何をしたらいいんですか?」

「………おまえさん」

「はい?」

「いやさあ。おまえさん。こんな怪しいおっさんの言葉をそんなすぐに信じていいのかね? いや信じてくれないと困るんだけどよ。おっさん。心配だな。詐欺被害とか遭ってないか?」

「今のところは大丈夫です」

「そうか。まあ。今までが大丈夫だったからってこれからも大丈夫だと思わないできぃつけろよ」

「はい。ご忠告ありがとうございます。それで僕は何をしたらいいんですか? えっと。お名前は何と呼べばいいですか?」

「ああ。俺の名前は高坂こうさかってんだ。そんでちょいと移動しようか」




 高坂と名乗る男性の後について行くこと、十分。

 住宅街の中にある小さな公園の中の小さな泉の前に、高坂と相場は立っていた。

 ちょいと泉を覗いてみろよと、高坂が言ったので、相場はしゃがんでその通りにすると、濁っていた水が突如として澄んだ水に変化したかと思えば、相場の顔を映し出した。

 否、鏡で見るいつもの相場の顔ではなかった。

 右には女性の横顔、左には男性の横顔が、相場の顔に収まって映し出されていたのである。


「不思議なこともあるんですね」

「おまえさんが原因で喧嘩別れした恋人同士の生霊だ」

「僕が原因、ですか?」

「ああ。女性の好みの顔だったらしんだよ。おまえさんは。それをつい男性の居る前で口にしてしまった。自分に自信がなかった男性は、それならおまえさんと付き合えばいいじゃないかってつい口にしちまって。心の狭い男だと思ってしまった女性が、じゃあそうするわって言って喧嘩別れしちまったんだけど、お互いに未練ありあり。どう声をかけようか、悩んで悩んで悩んだ結果、原因であるおまえさんに助けを求めたってわけだ」

「………僕、無関係ですよね?」

「ああ。無関係だ。だが、これも縁だと思って助けてやってくれないか? このままだとおまえさんの不調も悪化するだろうし」

「つまり、女性と男性を探し出して、仲介役を買って出ればいいんですか?」

「そうそう。まあ。安心しろ。俺の心強い仲間がすでにその女性と男性の素性を割り出してるから。さあ。行くぞ。少年」

「はい」






(新手の詐欺師かと思って、騙された振りをして、情報を得て警察に突き出そうと思ってましたが、そうじゃありませんでしたね)


 泉に映し出された男性の元へと高坂に案内され、あれやこれやと策を弄する事なく直球で高坂と共に、女性とよりを取り戻したいですかと快活よく尋ねたところ、よりを取り戻したいとの言質を取り、いややっぱり止めようと弱腰になる男性を応援しながら女性のアパートへと向かったものの、インターホンをなかなか押さない男性の代わりに、相場が押しては男性にがんばってくださいと言い、男性が意を決し自分の名前を告げれば、玄関の扉が勢いよく開き、女性が勢いよく男性を抱きしめたのである。

 滂沱と涙を流しながらお互いに謝罪する男性と女性が居るアパートを後にした高坂は、ありがとなと言っては、去って行ったのであった。

 相場が高坂に声をかけられてから、約一時間。スピード解決であった。


(………幻。白昼夢。とかだったりして。高坂さんもあの恋人たちも)




「………喫茶店に寄ってから帰ろう」


 今まで足を運んだことがない町中にある素敵な喫茶店を見つけた相場。店の前に出されていた黒板のメニュー表を見て、モンブランに決めて、喫茶店の扉を押し開けたのであった。


(来月はハロウィンかあ)











(2025.9.14)



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ふしぎスピード解決屋 藤泉都理 @fujitori

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