小さな世界で生きる私たちは

有木珠乃

理解者を求めている

 毎日、同じ時間に新聞を読んで。

 毎日、載っている企画が目に留まる。


 四角い枠に区切られた、小さな相談所。けれど毎日、違う種類の悩みが書かれていた。


 失恋、不倫もあれば、切ないの恋や初々しいもの。夫婦間の問題や、家族間の問題も。仕事の相談だってある。

 回答者は解決策を答えるわけではない。ただアドバイスを書くだけの記事。それがこの企画のルールなのだ。だから回答者の欄を読みながら、「そうきたか」「ちょっと違うんじゃない?」とか、私も他人事のように読んでいく。


 おそらくそれが良くて、この企画は長く続いているのだろう。


 それなら、なぜ私はその企画を毎日、読み続けているのだろうか。答えは簡単だ。私と同じ悩みを持っている人を探している。そしてその解答を求めているのだ。


 一度だけ、似たような相談を見かけた。読み間違えていなければ、私と似た境遇だと思った。短い文字数だから、得られる情報量は少ない。だけど、この人の悩みは私と同じように感じたのだ。


 回答者は、果たしてどのように受け取ったのだろうか。ワクワクとドキドキで視線を横に流すと、そこにあったのは、私が予想していた通りの文章が並んでいた。


「あぁ、やっぱり理解していないんだな」


 そう、頓珍漢とんちんかんな回答がそこにはあったのだ。


 過保護と過干渉。私たちはそこから逃げられないところで、必死にSOSを出していても、『愛されている境遇=幸せ』という概念には勝てないらしい。被害者の方が、頭がおかしいと認識されてしまうのだ。


 そういう人間にしたのは誰か、そういう発言をさせているのは誰か。小さな世界で生きている私たちを、誰も知ろうとはしない。


 それでも求め続けてしまう。理解者を。


 創作活動を通して、何人かその理解者に出会った。その理解者もまた、同じ被害者であり、そうでなければ出会うことができなかった人たち。

 皆、自分の境遇など、何かがなければ発信しないからだ。


 だから理解しなければならない。私たちの世界を理解できるのは、同じ世界を知る者だけだということを。


 なんて世界は狭いのだろう。

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