ほどけてゆく
Iloha
第1話
昔ある男の人から逃げ出そうと
部屋から飛び出したことがある
裸足で飛び出した
叫んでいたと思う
力の限り叫んだと思う
家から50mくらい離れたところ
私は力がなくて
無様に転んだ
男の人は静かに追いかけてきて
私の胸を革靴で踏み躙った
息が止まった
月と星は見ていた
風は冷たかった
身をよじって体を起こした
目をあげると
自転車に乗った男の人が
自転車をとめて
「大丈夫ですか」
そう声をかけてくれた
私が口を開こうとすると
革靴の男の人は
「大丈夫です」
と私の代わりに答えた
その後はしっかり覚えていない
家族中から私は叱られた
「恥ずかしい」
「みっともない」
そうなんだろうか
あの時「助けて下さい」
そう言えていれば
もう少し違ったかな
涼しい風に吹かれながら
虫の声を聴いている
答えはない
ただ心がほどけていく
ほどけてゆく Iloha @Iloha
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