第10話

エピローグ ──伝承


戦争が終わり、幾つもの季節が過ぎた。

かつて血に染まった大地は緑に覆われ、人々は再び手を取り合うようになった。


村の広場には小さな祠が建てられ、そこには一本のタクトと葉を模したネックレスが奉られていた。

それらは今も淡く光を帯び、まるでアリアが人々を見守っているかのようだった。



一人の老人が、杖をつきながら祠を訪れた。

皺に覆われたその顔は、かつて幼くして親の亡骸の前で泣いていた少年のものだった。

彼は震える声で碑文を読み上げる。


碑文


ここに記す。

魔女アリア、命を賭し歌を放ち、

大地を癒し、空を晴らし、心を清めたり。

女神にあらず、聖女にあらず。

ただ、魔女として。


読み終えると、老人の頬を静かな涙が伝った。

「……ありがとう、アリア。

 あの日の歌が、私の人生を導いてくれた。」


彼が深く頭を垂れたその瞬間、そよ風が吹き抜け、どこからともなくハープの調べが響いた。



そして今も人々は歌う。

母は子に子守唄として。

村の人々は祈りとして。


──癒しの魔女と奇跡の詩。

その名は歌と共に、永遠に語り継がれていく。

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癒しの魔女と奇跡の詩〜ARIA @Minoru0927

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