Ep.11 事件が起きたら何をしますか?(2)
「いやぁ、まさかこんなことになるとは。私的には小さい子にいきなり話しかけて、きゃー、ロリコーンって言われる未来が見えていたんだけどなぁ」
「……どんな未来なの……ってか、自分はまぁ、年下には興味がないから」
「そうなの? まぁ、いいや。さっきの話の続きをしましょ? まぁ、聞き込みや証言を聞くはずだけどさ。それにだって限界があるんじゃない? この手紙の犯人だって普通は見られないように犯行をしてるはずよ……」
実際証言で犯人を見ていたとなれば、大抵の事件は解決してしまう。というか、だからこそ人は見られない場所で犯罪をするか、見た人を襲うかするのだろう。
その場合にすることとして一つ。
「遺留品を確かめるってところだね」
僕が出した言葉に彼女は少し悲しそうな顔を。
「今にも、輝明くんが遺留品になりそうな顔だけど、大丈夫?」
「僕は物かよ……!? 遺留品って言ったら、この手紙の方でしょうが……」
「本当に大丈夫? だいぶ参ってるようだけれども」
「そりゃあ、あれだけ問い詰められたらな……」
「ここは手紙の犯人、絶対許すまじ、ね」
「いや、それよりももっと遺留品を見てみてよ」
「アンタ、悔しいとかそういう感情はないの?」
いや、時間がもったいない。こんなに遺留品を例えにできる良い機会があると言うのに。
「……とにかく、この字に残された文字とかに見覚えはある?」
「これだけでっかくマーカーで書かれちゃうと……ね。あれ、でも。これってマーカーよね」
何か考えているようだが、僕は首を横に振る。
「考えてる暇はないよ。見覚えなんてどうでもいいんだから」
「いや、どうでもよくはないわよ? 少しは自分が被害者だっていう自覚はないの?」
「えっ、被害者なの?」
「何でこんな奴にミステリー教わってんだ……? 私……」
とにかく手紙から犯人の痕跡が分かることもある。警察のDNA捜査から指紋などが見つかればかなり有力な証拠になる。だからと言って、指紋が付いていたイコール犯人とは言い切れない。犯人が凶器などに別の人の指紋が付いているのを確認してから、行動に移しているかもしれないのだから。
「と、とにかく遺留品や現場を調べることは大事なのよね」
「うん……風村さんの小説ではテンプラ屋の厨房だね。そこでも色々証拠は残ってると思うよ。爆発したのなら、その火元は何処か。被害者に使われたテンプラ粉は一体どういうものだったのか、とか」
「まぁ、そうね。そんな大量のテンプラ粉は普通は置いてないでしょうから……何処から犯人が持ってきたかとか調べないといけないし」
「そうそう。探偵をそうやって動かしていけばいいんだよ。だいたい基本の捜査だね。聞き込みと探索を繰り返す。その中で自然な会話と思考の回転、トラブルを入り混じらせるっていうのが大事だね」
「トラブルって、さっきのみたいな?」
僕は頷いた。
例を挙げれば、探偵が揚げ物の油に指を突っ込んで大火傷しそうになるだとか。その舞台にあったトラブルに合わせれば。そのうち探偵は犯人の行動も見えてくるようになることが多い。
生徒会室の方で話をした方が良いかと移動しつつ、説明を。また小説を例に出す。
「探偵があっちっちってなってる合間に被害者の指はどうやってテンプラになったのか。もしかしたら、このフライヤーで揚げられたのではない……みたいなね。テンプラは衣がぽろぽろ落ちるからね。普通に揚げたら、被害者が揚がった分の衣が落ちていない……特に揚げ玉もないしってなって」
「それって、探偵油に指入れる必要あった? 普通にテンプラを揚げてるの見とけば?」
「だって事件後はお店が閉鎖しちゃうからね。テンプラになって大火傷してる被害者の前でテンプラをやるなんてサイコパスに近い所業だよ」
「た、確かに」
「その方が面白いでしょ」
「アンタもサイコパスに近いわよ!?」
いやいや、キャラに対してはその位でいないと、と思う。探偵のキャラを可愛がって、危険に晒さないなんて甘すぎる。リアルを感じさせられない。探偵と言うのは犯人に殴られることもあれば、車に轢かれそうになることだってあるだろう。猟銃で狙われてもおかしくない。それを生みの作者の考え方だけで危険な目に遭わせないというのは少々過保護のような。
その考えが声に出てたのか。
「所説あるからね。所説! 所説! 私の場合はそこまで探偵を間抜けに見させたくないわよ。せめてまぁ……テンプラが美味しかったなぁってことを思い出しながら、にするわよ。「そうすれば、自然になるし……日常シーンのフラグをしっかり成立させられるし」
「事件現場でテンプラのことを思い返すのも結構まぁ、ヤバいような気もするけど」
「うるさいわよ!」
と言って、彼女は勢いよく近くにあったマーカーペンを僕の近くへ投げつけていた。そのマーカーがコロコロ転がって、僕の手元へ。
それでこんこんとマーカーペンで机を叩きながら話を進めていく。
「まぁ、って言っても、探偵もので不謹慎っていうのを咎めるのもナンセンスだとは思うよ。特にコメディ系のミステリーで、不謹慎不謹慎言ってたら、全然話の方は進まないと思うし」
「確かに、ね。そこはうまくキャラクターを自然にしないといけないわね。まぁ、そういう名探偵は何度も事件に遭ってるから、そういうのは慣れてると思うし。性格としても、『亡くなった人のために明るく事件を解決させなきゃ』っていう考えを持ってるでしょうし……」
そうだ。もう明るく行かなくては、だ。手紙についても、そう。気にすることはそこまでない。
前へ前へ落ち着いて、捜査を進めていく。最初のうちはそれを何パターンも繰り出して。それから次はこんな方法で証拠を見つければ面白いのではないかという発想をどんどん思い付いていくのが良かろう、なのだ。
「……そういや、なんだけど」
彼女が重たい口を開く。
「私、犯人分かっちゃったかも」
「そっ、そういう風に閃くっていうのを今度は説明していきたいな」
「いや、そうじゃなくって……手紙の犯人がぴかっと。だって、そのマーカーペンじゃないかな? あの手紙……。普通ホワイトボードにしかマーカーペン使わないし……生徒会室にしか……ホワイトボードが」
「そうそうそう!」
「だから……だから、今はそうしている場合じゃ……」
彼女がまた震えて指を差してきた。窓の外。何がと思ったら、修羅の顔した女の子が。
「覚悟ぉおおおおおおおおおおおお! 秘密の密会はこれで終わりだっ!」
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