Ep.12 真相に気付くきっかけは何ですか?
「さぁて、ここから煮るのか、焼くのか。三実先輩の清純を汚した奴の処罰はどうしましょう?」
何故か僕は今、一人の女子に拘束されている。と言っても、縄とかは使われてはいないのだけれども。目線だけでもう逃げられない。まるで蛇のような威圧感。見た目的には小柄で猫のように可愛らしい少女だけれども。黒髪ポニーテールをまるで何かの尾のように振り回し、こちらを圧倒せんとする。
当然、風村さんの命令ではない。
「ちょ、ちょっと……ちょっとちょっと。ここまでしなくてもいいっていうか……」
「そうはいきません! この前だって、この人三実先輩がいない生徒会室で何かやってたんですよ!? きっと不埒で不純な妄想に違いありません」
彼女が以前、生徒会室に乗り込んだ時の話だ。あの時は僕は何とか逃げられたのだが。
その話で痛いところを突かれるのは、僕……ではなく風村さんだ。
「あれは……いや、不埒とかじゃ……!」
そう。ある意味不埒な想像をしていたのは彼女の方だ。ミステリーでテンプラ屋の人間を殺害するとかという犯行計画を立てていたのが彼女。僕がそうさせたところもあるけれど。妄想は彼女が望んだことでもある。
「あらぁ、せんぱ……お姉様も催眠術か何かで操られてるの!? この男、殺処分以外にやむなし!」
「おいおい……」
「ちゃんと手紙で伝えたはず。その命、奪うと」
「いや、予告すれば殺人オッケーとか、そういうのないからねっ!」
そんな僕の制止を聞かず、彼女はそのまま向かってくる。アサシンか、バーサーカーか。勢いは誰にも止められない。
と思っていた。
「やめなさい!
生徒会長の鶴の一声と言うべきか。水野と呼ばれた彼女は止まっている。水野さん自身も催眠術が存在しているかは確信してはいないよう。
「そんな……男に脅されているとは言え、庇わなくても」
「いや、庇うとか操られてるとか、そういうのじゃないからね……私を守ろうとしているのは分かるけど、やり過ぎよ」
「や、やり過ぎ……!?」
「そっ、実は」
彼女は僕に一言「ごめん」と謝っていた。裏切って僕を襲うつもりか、と思ったがそんなこともなく。
ただここで行われていることの顛末を彼女にも話しただけだった。僕と彼女だけの秘密が無くなることについての謝罪だったのだ。少し寂しい気もするが、この状態を何とかするためであれば、仕方あるまい。
ただ、水野さんは鼻を鳴らすだけ。
「この男にミステリーを教わっていたって……? 何でこんな男なんかに! 相談してくれれば、このあたしが完璧に! ミステリーを教えていたのに!」
「み、ミステリー読むの?」
「全く読んでませんが! 生徒会長の頼みであれば今から読んできます!」
風村さんの呆れるような、その視線にゾッとしたのか。
「その視線、もっとください」
いや、違った。
水野さんはどうやら見下されたことに関してもまた快感に繋がっているよう。僕の方はとんでもない奴と繋がってしまったらしい。
とにかく、だ。こうして時間を無駄にしている暇もない。
解説を続けよう。
「じゃあ、水野さん。僕の説明を聞いて、納得してくれれば邪魔はしないでくれるかな?」
「どんな解説をするのよ」
「今の今まで探偵が事件を解く流れを解説していたんだよ。だから、今はどうして探偵は真相に辿り着くことができるのか。推理シーンや閃くシーンの解説をしようと思って」
それを風村さんが同調する。
「なるほど。それって、よくアニメとかだと主人公の頭にピンと来て、そういうことだったんだってなるシーンよね」
「そうそう。主人公がふとした一言を聞いて、捜査したことがこういうことだったんだっ気付くシーンだね。点と点が繋がるシーン」
そこに腕を組んだ水野さんが入り込んでくる。
「閃くって何よ。閃くって……」
例えばだ。
「さっきも風村さんが手紙の件で閃いていたじゃないか。あっ、犯人はあの人しかいない、みたいに。今回はマーカーペンがきっかけだね。マーカーペンを見て、あっ、これを使えるのは動機がって……犯人っぽくて……この人だってなったんだ」
「犯人ぽくって、って何よ!? もっとちゃんと追い詰めなさいよ!」
「じゃあ、コンビニの時から分かってたよ」
「えっ?」
「僕はコンビニで聞き込みしてた時から気付いてたんだ。ポニーテールで僕を襲う人はそういう人しかいないかなって……犯行。結構バレバレではあったよ。後は下校時刻をちゃんと知ってないと、他の人にバレて騒ぎになっちゃうって言うのに、ちゃんと僕が一人で帰る時間を選べたっていうのは……ね。僕と生徒会長との秘密を知って、予定とかも分かってる人かなぁって思って。ちょっとずさんな犯行だった……あれ……?」
彼女の顔が何だかとろけているようになる。
「あっ……あっ……」
僕は固まってしまった水野さんについて、風村さんに尋ねてみる。
「ど、どうなっちゃったの? これ……?」
「あっ、いや……あの子、とんでもなく責められるのが大好き……なのよ。それについ、目覚めちゃったらしいわ」
「えっ、僕で? 生徒会長に怒られるんじゃなくって?」
すぐ水野さんは表情を元に戻していく。
「おっと……今の何も見てないわよね」
平然を装っているが。
「今のは見ないでっていうのに無理がある……」
「じゃ、とにかく忘れなさい!」
「あんな間抜け顔一生忘れられねぇよ」
「ああ、もっと言って……もっと……」
「やべぇ奴」
「ああ……」
閃いてしまった。こいつやっぱ本当に危ない奴だったわ、と。閃きはこういう風に使うのだと僕は思ったのである。
「ちなみに閃きってどう閃くのってなると思う。だから、何度も驚いてみるのがいいと思う。これはこういうことだったんだっていうのを日常でも何度でも驚くんだ。まさかテンプラはここで揚げられた訳じゃなかった、とか。まぁ、事件のトリックになることで探偵を驚かせてみるんだ。犯人はこういう手を使ったんだとか。犯人はこの人だったんだとか……」
「日常で驚く練習ね……真恩ちゃん、こんなことで快感に浸れるんだ……とか」
「もう、それはやめてさしあげよう」
彼女はもう、椅子に座って何処か見ちゃってる。何か薬か何かやらかしてハイになってる顔だ。もう帰ってもらわないと、たぶん僕達が薬物中毒の危ない輩か何かと勘違いされてしまう。
と思ったら、「お、覚えていなさいよー! 後、もっと悪口考えときなさいよー!」と言って出て行った。
「な、なんだったんだ……」
「なんだったんでしょう……?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます