二十五封 ただの傍観者。
唐突に現れたカラス、お誘いの手紙、導きの指環。森をくぐり輪をくぐり、辿り着くお館。そこで行われる探し物と、魔女との御茶会。私の日常へ、入り込んで来た非日常。誰も知らない、私と魔女さんとの、秘密の時間。
それからというものの実に順調。だとは言えなかった。中々見つからない探し物。周り切れないお館の大きさと、開かずの間。刻一刻と迫るその日と、つい怪我をしてしまった時。日によっては泊まり込みで、なんて日も。
それでも、仲睦まじく魔女さんと話す時間は、何にも代えがたいほどに幸せな時間で、それでいて日常になっていた。ただお菓子やご飯を食べながら話すだけ。遊びもしないし、出かけたりだってない。それでもいい。世間を知らない彼女へ私があれこれ教える、時には愚痴にだって付き合ってもらう。魔女さんの話を聞く、過去何があってどうしたか。あっと驚く魔法だって見せてもらえた。そんな日々が一日、一週間、一か月だって続いた。この均衡が壊れるときがあるとするならば、その日が来た時か、私が命を落とした日だろう。
数か月の日数を経て、得たものもあれ、明かされたものもある。それが嬉しいことでも、悲しいことでも。今からその数々の出来事について振り返ろう。なに、お伽噺程度にでも思ってくれればいい。到底、信じられる話なんかではないからね。
とある日。変わらずお館の魔女さんの部屋に来ていた。
「私、生まれてこのかた、良い夢って見られたことがないんですよね」
作ってくれたお菓子と紅茶を飲みながら、他愛もない話題を口にする。
「たまには良い夢も見てみたいし。そもそも何も見たくないんですけどね」――寝て起きたらすぐ朝。なんて生活を毎日送りたいです。愚痴を零す。それを不思議そうに聞く魔女さん。
「どんな夢なんですの?」
「うーん、毎日見るので、全部覚えてるわけじゃないんですけど。毎回似たような夢なんです」
一人の女性と、一人の男性? 女性? 性別の分からない人が主な夢。ほかの人も勿論出てくるけれど、印象に残るのはこの二人だけ。私はその二人の姿や会話を「第三者」として、傍観している。ただそれだけの夢。
「不思議ですよね、ほんと」
ふーん、なんて顔をしながらこちらを見つめる魔女さん。魔女さんは夢とか見ないんだろうか。いや、そもそも寝るのか?
「加護、差し上げましょうか? 夢を見なくなるように」紅茶を置き、にやりと口角を上げる。
予想外の提案だった。魔法が使えるのだから、そういうことも容易いのだろうけど、そこまでしてくれるなんて。
「いいんですか? そんなことしてもらっちゃって」
「いいんですのよ、ぐっすり眠ってほしいですから」
私の目の先、頭の斜め上に手をかざす。――「少し、ふわっとしますわよ」
痛みはない。眩暈もない。足から頭へ、湧き上がる風に髪を揺られる。赤く染まる指先を見つめる。何が見えるわけでもないが、私のためと添えられるその手から、微かに優しさを感じて。
「はい、終わり。これでしばらく夢は見ないと思いますわよ、一週間くらい? 効果が切れたらまた言ってくださいな」スッと手が引かれ、椅子に身を下す。
特に身体に変わりはない。けど、夢を見なくなったというのに、気が軽くなった。
「ありがとうございます! あ、そろそろ行きますね」探し物の時間だ。お菓子と紅茶で腹も膨れたし、加護ももらえたし、絶好調。
「えぇ、いってらっしゃいまし」
笑顔に見送られ、フューレンと共に部屋を後にする。
――ふむ、道理で。これはまた……厄介だな。
一人手を見下ろすその姿を、気にかけることはなく。
手紙と魔女と御茶会と 野花 智 @sat0r1
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