第6話 巫女三姉妹登場
しかし、
家に戻ると、女の子が寝る側で、お
「オッ、
「じゃ、じゃあ何で直ぐ教えてくれなかったんだよ。先に知っていたのなら、多分、僕はお兄ちゃんと話が出来たかも知れないの……」
「純一、多分って、それは
それはそうだ、今迄何年も
「アッ、アラ! お坊ちゃま、足が……また血が出ているようですよ」
僕の足を見て、その
「坊ちゃん、ごめんなさい。私がものを壊したせいで坊ちゃんに
その時、店の方から声がした。どうやら、お客が来たようた。
松子さんは、店の方に行こうとしたが、僕の足が気になり、何度か店のほうと僕の足を視線が行き来して、思いあぐねているようだ。
「
「アッ、志緒梨さん、善いんですか? 本当にすみません。それじゃあ、坊ちゃんのことをお願いします」
そう言って、松子さんは包帯を彼女に渡し部屋を出て行ってしまった。
包帯を受け取って、志緒梨さんは僕に向き直り。
「はい、お坊ちゃま、その足を出して下さい……」
「アッ、ハァ、すみません。はい、ではお願いします。で、でもすみません、僕はお坊ちゃまでも坊ちゃんでもなく、純一、高柳純一と云います。だから、そのお坊ちゃまとかいう言い方はやめて貰えますか? お願いします」
「アッ、はい、分かりました。純一さんですね? これからは純一さんとお呼び致しましょうね。私は、桜志緒梨と云い、今寝てる子は、匂いの香りの香といいます。もしも、此処におられるお千代さんが云うのが本当なのでしたら、どうぞ純一さん、この子、香を宜しくお願い致します」
「エッ! なに? 何が宜しくなんですか?……」
僕は訳が分からず、お千代の顔を見た。すると、お千代が微笑しながら僕に答えた。
「アアー、それはな、此れまでの
お千代の話は、こうだった。それは、僕がいない間に二人は話し合った。
そこで、お千代が言うには、母の志緒梨は娘の香が三年程前から突然、処構わず気を失ったかのように眠り始め、母としては心配で病院に連れて行き、そこでは何も分からず。更に、色々な
それと、娘の香が気を失っている間に見る夢はいつも決まって、
彼女が、突然気を失う奇病を
それから、香はこの店の前の電柱の影から僕に見つからないように
志緒梨は、それを聞き、何故に我が子は人様の旦那様を好きになって仕舞ったのだろうと娘を心配して悩み始めて、その上二、三日前から娘は、突然今迄は夢の中のひとは若武者の姿をしていた者はその男の生まれ変わりだと言い、今では大家の娘婿の姿そのままに出てくるようになり、母としての志緒梨はより娘が心配というより
そのことがあったがために、香の母の志緒梨はお千代の話す
例えば、香は何故に三年程前から急に処構わず寝るようになったのか、その上どうして僕のような、嫌、なぜ純一とい僕なのか、お千代はその他に先代のお千代お婆の記憶にある小夜姫の持っている
そして、母の志緒梨は今、僕の足の傷の手当てをしている。その手の優しい温もりに僕は思わず、僕が七才の頃亡くなった母への記憶の中に
僕の母も、もし今も生きていたとしたら、こんな風に僕が傷ついたり、病気に
「オイ、純一、いずれはお前の母となる、お人だ。だから、今は気を強く持て……なんだよ? その目は。
そして、揺れそうなお前の
ウッ、ウーン、じいが来ているのか?
僕は、仕方なく、じいを迎えてやろうと障子を開けようと手をかざした時に、その障子が一気に開いて、じいがハンカチを手においおい泣きながら部屋へと
そして、じいの身をかわした僕を見つけ、僕の肩に
「純坊ちゃま、その通りでございますよ。
結局、じいの日頃の僕をうんざりさせられる小言の始まりだ。だが、今日はいつにも
その時、大声ではないが
「純一、このじいさんの話は未だ続くのか? もう、うんざりだ。今は、こんな小言に
口を割って来たのはお千代だった。
「嗚呼、もうこんな男が
僕たちは、お千代に
「じいちゃん、余り遅いからどうしたの?」
その声に、振り向いて見た僕の目に映ったのは、懐かしいあの
「おうおう、忘れておった。悪い、わるかった……真一、
「アッ、はい、ぼ、僕は……嫌、私は野中真一といいます。
ぎこちなくたどたどしい彼の挨拶だったが、僕にはとても懐かしい顔がそこにはあった。
しかし、なぜか僕のとなりから何とも言いようもない空気が漂い、その空気のもとにめをやると、お千代が頬をなぜか赤くして真一をまじまじと見つめている。お千代のヤツ、もしかして真一のような顔がタイプなんだろうか? おもしろい、こいつ膝を何度も握りしめてはなにも言えないでいる。その無様な態度は異様におかしい。
僕にとっては本当に真一の顔は懐かしい、何気に
「チッ、とうとう
僕の向かいで腕組をして、誰に言うでもなく意識を外に向けてお千代が舌打ちをしてぼやいた。
外の車は、
障子の向こうの店の入口で、お松さんと誰か女の人が何か掛け合いになって騒がしくなり、そのお松さんの制止を振り切りその人はこの部屋の前まで来て、
そこに立っていたのは、お千代と同じ格好をした巫女姿の女の人だが、茶髪の長い髪をカールしていてフェロモンがムンムンとお色気たっぷりと言った感じだ。しかし、やはりお千代と同じ様に言葉が荒かった。
「おう、お千代、待たせたな。お前に頼まれていたヤツを持って来たぞ。三日も掛かって、やっと今だ……俺たちの苦労に見合うように、大事に使えよ」
そう言って、お千代に持っていた布の袋を投げて渡した。それを、お千代は胸元で受け取ったが、何か重いものが入っていたのか、彼女は「グフッ」っと
「おっ、こいつが正太郎とかいう男の生まれ変わりの純一というヤツか……ふうん、なかなか甘いマスクをしているなぁ、好い男じゃん。俺は、お千代のすぐ上の姉で
目を梨緒と名のる人の背に隠れるようにして、もう一人女の人がいた。その人もまた、お千代たちと同じく巫女姿で、姿格好は梨緒と
「ンッ、コホン……ンッンッ、もう好いだろうに、俺の姉貴たちに眼を奪われなくても……それより、此方におわす香様が寝ていると言うことは、小夜姫があの
お千代は、そう言い、袋から何やらジャラジャラと音と共に親指大の小石を取り出し、手を
すると、受け取った真一は最初物珍しそうに
傍で見ていたじいは、吃驚して真一の肩を支えて心配をした。
「真一、大丈夫か……な、何が起きたのだ。オ、オイ、真一、しっかりしてくれ。し、真一……」
真一は、暫らくして後ろ手に手を突き、白目だった眼を戻し、天井をキョロキョロと眺めた後、視線をそこにいたみんなに合わせ、お千代と目を合わせ目を潤ませたが、何故か僕を見すえ、目を
「わ、若……やっと、また御会いできることが、出来ました。若様、真之介は、う、嬉しゅう御座います……ですが、私は、わたしは、く、
そう言って、僕に縋りついて来たが、僕にはどう返せばいいのか分からず、じいに目をやると、じいも堪らず真一の背中を擦るようにしながら言葉を吐いた。
「真一、どう言うことだ……何が、どうなっているんだ。何が、悔しいと言うんだ……それにお前は、純坊ちゃんと会うのは今日が初めての筈……そ、それに、若とはなんじゃ……ンッ!? わ、若……若様。お、おおう、若様、正に若様じゃ……
更に、じいまでもが、僕に縋りついて来た。じいに、胸元と左肩を
「若、吾等が、こうしてまた巡り逢えたのもこの石のお蔭で御座いますのじゃ。何処の何方かは存じませぬが、有難う御座い、ま……ンッ! そなた等は、見たことがござる。確か、そなた等は、桜城の
「フンッ、お前のような
「な、何と、吾を糞とな……この
梨緒に
「何だと、このヨボヨボの爺が、お前なんか今その手に槍があったとしても、俺なんか刺せないで地面を突く
梨緒を押し退けて、真沙美さんが割って前に出てきた。
「梨緒、今はもうそんな
「お、
「もう、いちいち
じいが、ぐだぐだと質問を始めようとするのに、お千代が痺れを切らし怒鳴ったのだが、途中から梨緒も声を
「う、うぬっ、こ、このー……言わせておけば、こ、このー……」
「あ、あのー、申し訳ありませんが、私は、この私の娘の香の運命が
口を挿んで来たのは、香の母の志緒梨さんだった。彼女の要望に、お千代は勿論だと答えて、それからそれぞれみんなは……特に、じいは努めて冷静さを装おい麓の祠跡へと行く仕度を整えた。
僕はお松さんに、このことは誰にも内緒にと口止めをして、寝ている香さんを抱きかかえて外に出た。
外では、バイクが三台アイドリングを始めいて、それぞれにはお千代と梨緒、それに真一が
「純坊ちゃま、アレを見て下さい。アレは、純坊ちゃまに何かごとがあれば、いつでも駆けつけることが出来るようにと、私めが真一に買って遣ったものです。オートバイとは、好いもんですなぁ……何か、
やはり、自慢だった……しかし、じいの言う僕の”何かことがあれば”というのは……。
僕とじいの話を
真沙美さんの指差す車を見ると、色はシックな黒ではあるが、
真沙美さんは、軽くクラクションをパーンと鳴り響かせ合図を送ると、真一がヘルメットのシールドを閉じる時に、お千代に目を遣り何かはにかんだ表情を見せ、それに応えるようにお千代もまたその年頃の乙女の表情で返して、シールドを下ろした。
ンッ? 何だろう。この二人に漂う妖しい空気は……次の瞬間、二人は息を合わせたようにエンジンのスロットルを全快に開け走り出した。二人は示し合わせたかのように同じリズムで時にスラロームをしクロスを
「オーイ、馬鹿野朗。この俺を忘れて往くな……」
梨緒は叫びながら、彼女もまた一気に加速を付けて後を追って往ってしまった。
「あらあら、流石にあの二人はどんなに時を超えても、息がぴったりだこと……それでは、私たちも往きましょう。権左衛門様、シートベルトは大丈夫ですね……それでは往きましようね」
思った通り、真沙美さんの車も爆音を轟かせ、ハンドルを握る彼女の表情も
「グゥ・グォォォー……」
僕等は、シートに背中を押し付けられるようにくっ付き、じいの
タイム トゥ ソウル Ⅰ (彷徨う魂) 天上 雅雅 @miyabick23
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