アニメージング・グレイス!!

ノウセ

1章 ぺん子のハートフルな日常は崩壊して

1-1

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鉄は鉄によって研磨する。人はその友によって研磨される。

箴言:27-17


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「うぇーい!」


 

 おおっと。どした?

 反応なし。



「おっはよー!」



 やっぱ、反応なし。

 どういうこと?


 しょうがないからさ。挨拶はやめた。で、ちょっと苦笑いして、「‥‥‥んー、君ら、今日さ。テンション低めな感じなのかな。もし?」て、フツーに声をかけたんだけれども、それでも返事はなかった。

 この子ら何なん? ウチと顔を合わせると、急に押し黙ったように思えた。今の今まで騒がしく雑談してただろうに。変なの?

 朝、ガッコーに登校すると、教室を入ったすぐのトコには、いつものように三人の女子生徒がたむろしていた。ウチが教室に入るまで机の上に腰掛けて、三人で笑い転げていたのだと思う。今はなんでか黙っているけど。

 ウチとざっくばらんな関係のこの子らは、一目で他の女子生徒よりもわかりやすい容姿をしている。教室内にいる他の子らはちょいちょい小物を身につけるだけなんだけど、三人は校則ギリギリを攻めて、––––派手さを抑えたネイル。少し明るい色をした髪色。それぞれ制服を着崩して、自分の好みにコーデしているからだ。ウチもなんだけどね。

 んで、通りががかりに流し目でサッと見たら、三人の制服の着こなしに昨日と違う変化が見つかった。なので今日のオサレポイントについて、ちょっと話したかったんだけれども‥‥。ま、後でもいっか。

 ウチは首を傾げて、黙ったまま目を合わせようともしないその友人たちをチラ見しつつ、横を通り抜け、教室の奥に入ってゆく。そいで自分の席の前まで来ると、鞄を雑に机の上に投げ放り、チェックのスカートをひらめかせ、勢いよく席に座った。




          ⚪︎



 

 うーーん。


 ウチは腕を組んで考えてみる。

 いつもならあの子ら「うえーい」て言ったら、「うえーい、うえーい」でしょ。

 で、「おはよー」なら、「ウッスぅ〜」「オッス、ぺん子」「おー、おはよー」ていう軽い感じだったはず。

 なんかさー。気のせいかな? あの子ら返事しないどころか、ぜんぜんこっち向こうともしないんだけれども。これっておかしいでしょ? 調子狂うわ。


「ん〜〜。ウチ、なんかやらかした?」


 ウチさ。みんなのこと、怒らせることなんかやったっけ? 

 んー、なんもないよね? ウチら昨日までフツーに仲良しだったもんね。


「えーと、待って待って。昨日か。やべ。知らんうちにやっちまった感じか?」


 いや、ないわ。思いつかん。

 それに昨日はみんなとは、フツーに挨拶して別れたはず。つか、あの子らメッチャ笑顔だったじゃん。それでなんで今日、塩対応なん? 意味わからん。落差コワイわ。


「うーん」


 そんな感じでウチは席に着いてから、ずっと唸っていた。なんで朝から自分が、こんなにしょっぱい扱いをされているのかまったく思いつかないのだ。そいで唸りながらも、無意識に教室を見回して、視界に入る他のクラスメートたちをじっと見つめるのだけれど‥‥‥。

 

 ‥‥‥あれ? 今、あの子。あの茶髪のボブの子。ウチを一瞬だけ見て、すぐに目を逸らした。なんなん? うわ、何? その隣の男子もだよ。おーい、名前も知らん喋ったことない子までやってくるよ。何これ? ハッ、まさかウチの眼力か? ウチってば、知らん間にメンチ切りまくって連戦連勝しちまったぜ。でへへ。

 冗談はさておいてさ。コレ、ぜんぜん気のせいじゃないよね。みんな、ウチと目が合った途端にそらしてくるし、こんなん気のせいであるはずがねー。違和感ありありじゃん。ヤッバ、超ウケる。クラス全員でウチを見ないようにしてるみたい。


「ん〜〜〜。なんじゃらほい?」


 思わず口から出てきたその独り言に、組んでいた腕がさらに力強くなる。

 うん、でも把握した。だいたいの状況はわかったよ。どうやらウチはあの子らだけじゃなく、クラスのみんなからも無視されているみたい。

 やー、ウケる〜。ケラケラケラ。ウチ、こんなん初めてだわ。ガン無視されてやんの。シカトとかガキンチョとか中坊がやることだべ。コーコーじゃ、こんなん絶対ねーと思ってた。それもクラス全員でシカトとか。労力スゲーな。一致団結しすぎだろう。いや、マジか〜。ウチを無視するためにさ。逆にみんなしてウチをメッチャ意識してんのマジでウケんだけど。ケラケラ。ウチがクラスで人気者すぎる。ケラケラケラ。

 ‥‥‥‥でも何で?


「ん、ん、ん? マジでなんなん?」


 ドッキリかな? あー、そうかも。クラスのみんなして、ウチの隙みてて、冗談だって切り出すタイミング見計らってたりする? だったら、みんなしてウチのリアクション待ち? ウチがへこんだりすんの、内心でえへらほくそ笑んで待ってんのかな? やべ、プレッシャーか。サプライズが分かってての、ウソ演技のリアクション芸とか、チョー苦手なんだけど。なんかウチのためにメッチャ用意してて、メッチャ期待しててくれたらまじでゴメンだわ。ワリーけどそれ、ウチは降りるわ。でへ、君らのプレッシャーに負けたぜ。リアクション芸はできん。


「まさかドッキリか」


 て、ウチがネタばらし言っちゃったら台無しなんだけど、周囲の子らに答えを問いかけるようにボソッと言ってみた。

 そいでちょっと期待してキョロキョロ見回してみたんだけど。誰からも反応なし。


「え、違うの?」


 それも反応なし。

 さっきから、独り言をチョー言ってて恥ずいんだけれども。

 ‥‥‥‥あーでも、今ので分かっちゃった感じ。うん、ダメそう。ドッキリ違うかな。ヒリヒリと肌に感じるんだよね。これ多分ガチな。ヤバい感じじゃねって。ウチはさ。勘はいいところあるからそういうのなんとなくわかるんだ。あー、空気かな? なんか謎に重いよね。ウチが入った途端に、教室にいた全員に圧がかかった感じだったし。なんかさ。さっきまではいつもの見慣れた風景だと思ってたけど、やっぱ今日の教室おかしいわ。うわ、うっすらと淀んでる? さすがに錯覚っしょ。ウケる。ケラケラケラ。‥‥でも、よく分からんヘンテコな緊張感があるよね。そんなんを段々と実感してきたらさ。ヤバっ、空気がメッチャ重くなってきた。マジで潰れそうになってきたわ。


 気のせいなのにツラー。

 ウチ、無視されてだいぶ気が滅入ってんのかな。これもし?


 んー、やっぱり、ウチはなんかやったんかな? ウチ、ぜんぜん知らんのだけどさ。でも、それだったらさ。ウチが何かをやらかしちまったその子が無視してくんのは分かるけど、その子だけじゃなくて、クラスのみんなしてウチを無視すんのは何で?



          ⚪︎



『ここさ。この学校。兄貴も通ってたコーコーで、そこそこの進学校なんだけど。ウチは勉強できんくて入るのすっごい無理ゲだったんだけれども。制服の可愛さに一目惚れして(チェックのスカートとブレザーな訳。いろいろコーデしたら最強な訳じゃん)、そいで必死こいて受験勉強してさ。やっとこさ、兄貴と同じコーコーに入学したんだけれども。あ、兄貴はウチより勉強できるけど超アホね。で、だいたい1ヶ月ぐらいかな。トモダチいっぱいできて、ウチなりにけっこう上手くやってきたと思ってたんだけどね。なんか知らんけど、急に非日常ドラマが始まっちまった。

 

 で、これ。非日常系の––––何のジャンルだろ? 突然のサスペンス? 怪怪ミステリ? 知らん間に日常が180度回転したみたいな? そんぐらい今日の教室はいつもと雰囲気が変わっていた。


 ウチは学校好きで。

 教室入るとめっちゃテンション上がんの。

 んで、せっかくの朝なのに。

 友達と挨拶もなし。

 お喋りもなし。

 これってウチにとって一大事だよ。


 何なのか知らんけどさ。こんなん、ぜんぜん面白くないよ! 昨日までメッチャ楽しくやってきたのにさ。ウチのハートフルなガッコー生活、どこ行ったん?』



          ⚪︎

 


「ん〜〜〜〜?」


 ウチは唸る。頭はあんましよくないのだけれども、思い当たることをいろいろ推理してみることにした。


 思いつくこと‥‥。

 思いつくこと‥‥。


 あー、あるわ。もしかして昨日のあれかな?。

 でもそうだったら、なんでなん。

 だって昨日のアレって、クラスのみんなには関係ないべ。


「なあ、みんなさー。コレ、なんなんー? やめよーよ」


 思い当たる節がないわけじゃなくなくなったけど、とりあえずウチは声をあげて、さっきシカトこいてきたトモダチたちにもう一度声をかけた。やっぱりただの気のせいかもしれんし。

 まだ教室の入り口付近でたむろっているあの子らは【カー子】【ラン】【スーたん】ていう、名前の頭文字を取って三羽(バ)カラスとか言われている同中の面々だ。中学の時は他にマブたちがいて、顔見知り程度だったのだけれど、一緒の高校に入ってからはクラスで一番つるんで、くだけた調子でも話せる仲の良かったトモダチだった、‥‥はず。


「おーい、みんな。いい加減ネタばらししろよ〜。わかんないんだけど」


 で、フザケンナ。

 こんだけ大声で直接訴えても、思っ切りシカトされる。 

 あいつら、ちょっとこっち見て、一斉に顔を背けやがった。




          ⚪︎



 え、え? 

 もしかして、イジメかよ。

 ヤベ、ウケる。絶賛シカトされ中なんだけど。wwwww。

 ‥‥‥‥やっぱ笑えね。


 ホント、コレ何?

 

「なあなあ、コレなんなん?」


 て、心に思ってた率直な疑問をそのまま口に出して、サンバカたちは諦めて、右隣の席の子に聞いてみたんだけど。あ、この子。いつも席で本読んでて、おとなしめの奥ゆかしい子なんだけど。前にチラ見したら、ウチの大好きなマンガ読んででさ。んで、分かっちゃった。多分、この子と推しが同じだね。大ヒット少女漫画『君キュン』のトオルくん。

 ヤッタ。共通の話題が見つかった。ウチのトオルくん愛を語ったら、きっと喜んでくれるだろと思って、ウズウズしながら話しかける隙を窺っていたんだけど。でもなんだろ? この子には見えないオーラみたいな気品があんの。輝きがこそばゆいの。そしたら、こんな奥ゆかしい子がウチみたいなチンケなヤクザもんと口利いてくれるかな? 嫌な顔されたらどうしよう? とか身の程を考えちゃって、たじろいで話しかけられなかった。

 結局、その時はダメで、その後も狙ってたんだけれども、ずっとダメで、今まで挨拶ぐらいしか、あんまし話せたことないけどさ。ウチには分かる。この子、とにかくすごくいい子なんだ。なんかさ、初対面でも勘で信用できそうな人いるじゃん。最初からなんとなくフィーリング的に合いそうな感じでさ。マジで霊感で判断できんの。マジで。

 ウチはメッチャ、この子と友達になりたいって思ってた。んでも、こそばゆくて話しかけられなくて。んでもでも、同じクラスでこのまま一年アオハルれば、偶然装っていっぱい話す機会ができてさ。隙ついて話しかけまくって。そいできっとその内に仲良くなれて、一年後にはマブなんよ。そんなウチの壮大な計画。

 だからウチは勝手に友情感じていたんだ。けっこう深いのをさ。–––––けれども。  

 その女子はウチを気まずそうにチラ見してから顔を伏せる。


 マジかー!

 アンタ、(心の)ダチじゃねーのか!


 なんでなんで?

 ウチは心の中で大声で騒ぎまくった。勝手にチョー信頼しててさ。憧れててさ。うっすらユージョー感じててさ。そいでそれを全部裏切られた気がして、それなりにショックを受けたのだけど。

 こんチクショー。ウチは負けん女だし。べらんメェ。すぐに気を取り直してやったさ。


 じゃ、しゃーねー。

 喧嘩上等やんけ。


 返事してくれない女子を諦めて、ウチは上体を反対側に捻って、今度は左隣の人に聞いてみることにした。


「おい、男子。デートしようぜ」


 シッシッシと笑いながら、窓際の席に座っている男子を、(えーと、名前は知らん。顔はイケメンを)誘惑してやった。

 さすがに公開でコクったらみんなウチをシカトできねーだろと思って言ってやった。なんか右隣の席の方から盛大にずっこける音がしたけれども、気にせず純情男子の反応を待った。

 そしたらこんのすかした野郎(ぜんぜん純情じゃねー!)、ウチをじっと見てから、ちょっと小馬鹿にするような笑みを浮かべた後、興味なさげにして顔を窓の方へ向けやがった。

 

 マジかーー!

 むっかーーーーー!


 ちょっとは動揺しろよ。焦ろよ。アニメとかなら名場面じゃんか。顔赤らめていいんだぜ。そんなん期待してた反応と違うじゃん! あ〜〜、ウチさ、けっこう自分ではさ、可愛いって自信あったのに。全力でそん自惚れを砕いてきやがった。

 初めて乙女が告ったのに。(ま、テキトーに隣の男子を選んで言ってみただけなんだけどさ)チョー、虫でも払われるような対応とかマジねーだろ。とにかくムカついた。だったらもういいいや。ウチはもうお構いなしでやってやんぜ。

 そいでウチは頭にきて勢いよく立ち上がった。クラスの全員に聞こえるようにして、大声で言ってやったのだった。


「アー、アー! ウチの声、聞こえてますかー? みんなで無視すんの訳分からんし。ウチ、いじめだと思う! なあ、やめよーよ!」


 そこで気づいたよ。

 これガチのイジメだわ。

 だって、こんだけやってもみんなしてウチを無視するんだもん。


「アンタらマジか––––––––」


 ウチは唖然として口を開いたまま硬直する。

 ショック過ぎてそのままなんも考えられんと思ったんだけど。あ、そう言えばと思い出すことがあって、そこでまた気づく。

 ちゃうわ。無視されてるの家を出てからずっとだ。

 そうだ。登校中も通学路で他のクラスの友達からも、がっつりシカトされていたような気がする。

 そういや、気にしてなかったけど、ぜんぜん誰の返事も聞いてないや。

 ウチさ、メッチャ、みんなに声かけてたよね。うん、すっごい挨拶しまくってた。

 じゃあ、もしかしてこれってさ。ウチをシカトしてるのってさ。

 ガッコー全体なの?

 マジ? ありえんのそんなの?









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