第6話:甘酒さんの思わぬムーブ!

 甘酒はシメに頼む。

 そう宣言した甘酒さんは本当に実行へ移し、甘酒を口に運ぶと幸せそうに目元を緩めた。


 その表情は無邪気な子供のようで、なにも心配事なんてないように見える。

 とても彼女がタイムループなんて厄介なものに悩まされているなんて思えない。

 朝の屋上で聞いた限りではかなりの回数のループを重ねているみたいだけど、今さらながら本当なのかと疑いたくなってきた。

 

「うん? 私の顔に何かついてる?」

「え? なんで?」

「なんかじっと見て来るから」


 しまった、無意識のうちに凝視してしまっていた。

 普段は女の子はおろか他人の顔をこんな間近でじっくり見ることもないから、言われて気が付いた僕は大いに焦ってしまった。

 なんて答えたらいいんだろう。

 タイムループで困ってる割りには幸せそうに食べるね、ではちょっとデリカシーに欠けているか?

 

「まぁかがみ君の気持ちも分かるよ。可愛い女の子に、男の子はつい見惚れちゃうもんだよね」

「甘酒さんって本当にタイムループで困ってるの!?」


 思わず言ってしまった。

 さっきから甘酒さん、僕の考えを当ててみせるとか、気持ちが分かると言っておきながら全然的外れだ。

 

「困ってるよぉ、困ってるように見えない?」

「見えないから言ってるんだけど?」

「そっか。気を付けるよ」


 緑茶を飲んで、むつかしい顔を浮かべる甘酒さん。でもチーズケーキを食べるとまた破顔し、すぐさまハッとした表情を浮かべて言った。

 

「かがみ君、これ難しい!」

「……それだけチーズケーキが美味しいってことだね」

「そうじゃなくて。いや、それもあるけど……」


 いつも物事をはっきり言う彼女が、急に言葉を濁して「あー」とか「うー」とうめき始めた。

 さらには妙にもじもじとして、困ったように視線を空中で散歩させる……これはまさか陰キャのお家芸・コミュ障ムーブ!?


 コミュ障キャラと言えば『学校生活は時空少女とともに』にも、ひとりいる。ファンの数は二大人気キャラとは比較にならないものの、代わりに熱狂的な信者が多い。

 かく言う僕も決して嫌いじゃない。と言うかむしろ好き。モブキャラという同じような属性の持ち主としては、なんというかホッとするんだよね。

 

 というわけで、天然アホ可愛い系陽キャな甘酒さんが突如と見せた意外なコミュ障ムーブを前に、甘酒を飲んでさらなる和みを堪能する僕。

 ああ、いろんな意味で美味しい。

 

「むぅ、なんだかとても楽しそうだね、かがみくんっ!?」

「え? そうかな?」

「そうだよ、人が困ってるのにニマニマしちゃってさ!」


 いやいや、そんな人聞きの悪い。僕はただ甘酒さんの貴重なコミュ障ムーブを堪能してるだけですよっと、ここで甘酒をもう一口。

 

「ああ、もう! あのね、私、嬉しいんだよ! 今まで誰も私の言うことを信じてくれなかったから、かがみ君が初めて信じてくれたのが嬉しくて嬉しくて、つい笑顔になっちゃうの!」

「…………」


 僕は甘酒の入ったお茶碗を口に当てながら、思わず固まってしまった。

 甘酒さんこいつ、突然のコミュ障ムーブだと思いきや、実は正統派ヒロインの照れ照れムーブを放っていただと!? 

 それは美少女キャラの必殺技だぞ?

 甘酒さんみたいな天真爛漫アホキャラがやっていいものでは……ああ、でもそんな属性を持っていても可愛いから可能なのか? 

 

 モブキャラとして生きてきたこれまでの人生で、陰キャのコミュ障ムーブに出くわすシーンは何度かあった。

 何故ならモブキャラと陰キャは相性がいいし、コミュ障ムーブとは相手が陽キャとか陰キャとか、そしてモブキャラだろうが関係なく発生するからだ。

 

 しかし、照れ照れムーブは違う。

 発生条件も受ける相手も限られている。決してモブキャラなんかに発生するイベントじゃない。

 

 ああ、まさかこの僕に、その必殺技を向けられる日がくるとは思ってもいなかった。

 これが主人公……主人公ってホントいいものですねっ!←まだ何もやってない人


「あー、いや、その……」


 僕は頭がふやけるのを実感しつつも、なんとか言葉を返す。


「僕が初めてって言ったけど、あんな未来予知を見せられたら普通誰もが信じてくれるんじゃない?」


 口元を茶碗で隠しているのは、気にしないでほしい。


「ううん、マルもあんこも『ユウなら何か裏があるに違いない』って信じてくれなかったよ?」

「…………」


 あれで信じてもらえないなんて甘酒さん、友だちからどのように思われているんだろう?

 

「だけどかがみ君は私を信じてくれた。これできっとループから抜け出せるよ!」

「そうは言うけど、具体的に僕は何をしたらいいんだろ?」


 ようやく出てきた本題に、甘酒さんがぱあぁと表情をさらに弾けさせる。

 言っておくけど、なかなか本題に入れなかった理由は君にあるんだからね、甘酒さん。

 

「うん、かがみ君には犯人を捜し出す手伝いをしてほしいの!」

「犯人? えっと、それってどういう意味?」


 意図的にタイムループを起こして実験しているマッドサイエンティストでもいるのか、それとも意図的ではないけれど誰かがタイムループを引き起こしていて、甘酒さんだけが繰り返される世界を認識しているのか。

 ラブコメ的には後者の方が望ましいな。最後はマッドサイエンティストとの対決とか勝てる気がしないし。


「犯人は犯人だよ。私をいつも金曜日になったら殺してくる奴!」

「……はい?」

「だから殺人犯!」


 え、てっきりラブコメだとばかり思っていたら、実は殺人ミステリー!?

 僕なんかが主人公で大丈夫な奴なのか、これ?

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2026年1月10日 12:05
2026年1月11日 12:05
2026年1月12日 12:05

モブキャラな僕が、アホ可愛い系ヒロインのタイムループに巻き込まれた件 タカテン @takaten

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