しかえし

尾八原ジュージ

みんなで

 ■■ちゃんはいじめっ子でした。みんなをいじめすぎて、どうきゅうせい百二十人中、百十九人にきらわれてしまいました。

 ある日、だれかが手紙を回しました。

『あしたのごご四時、つくしこうえんのぶな林で、■■ちゃんにしかえししませんか。ビニールぶくろをもってしゅうごう』

 と書いてありました。

 つぎの日のごご四時五分前、わたしはビニールぶくろをもって、つくしこうえんのぶな林に行きました。すると、もう九十人くらいあつまっていました。●●ちゃんも▲▲ちゃんも××くんもいました。みんなぞろぞろあつまってきて、ぶな林はわいわいにぎやかになりました。

 四時ぴったりになると、■■ちゃんが来ました。いつもみたいに、いじわるそうにニヤニヤわらっていました。みんなが来た来たと言って、■■ちゃんをとりかこみました。そして、林のおくの方にどんどんつれていきました。

 ■■ちゃんは、何か大きな声でさけんでいました。でも、まわりに百人くらいいるのでぜんぜん聞こえませんでした。どうなってるのかわからないなと思っていたら、前の方からでんごんが回ってきました。

「みんなで一回ずつなぐるって」

 それで、ちょっとずつ林のおくにすすんで、じゅんばんに■■ちゃんをなぐることになったとわかりました。ゆっくり歩いていると、もうなぐりおわった子が、すっきりした顔で林のおくから出てくるのと、何回もすれちがいました。

 きんじょのおばさんが、犬のさんぽをしながら、林のちかくの道をとおりかかりました。

「あらあら、みんなで何をしてるのかしら?」

「レクリエーションです」

 だれかが答えるのがきこえました。▲▲ちゃんの声かなと思いました。

「そうなの。楽しそうでいいわね」

 おばさんはにこにこして、犬をつれて歩いていきました。

 ようやく林のおくまでたどりつくと、■■ちゃんはもう何だかよくわからない赤っぽいかたまりになっていました。

 前の子が「はい」と言って、やきゅうのバットをかしてくれました。だれのバットかわからないけれど、血とかかみの毛とかがついていました。わたしはそのバットで、赤っぽいかたまりになった■■ちゃんをなぐりました。人をなぐったのかどうか、よくわかりませんでした。どろをなぐったみたいなかんじでした。わたしは、すぐうしろにいた●●ちゃんにバットをわたして、じゃまにならないところによけました。

 こんなふうにして、百十九人みんなが■■ちゃんをなぐりました。みんな■■ちゃんに一回以上なぐられたことがあったので、一回しかやり返せないのは、ちょっとつまらないかんじもしました。

「■■ちゃん、どうするのかな?」

 ●●ちゃんがちかづいてきて、言いました。するとまた、でんごんが回ってきました。

「■■ちゃんを、みんなでちょっとずつもって帰りましょう」

 それでまたじゅんばんに林のおくに行って、赤いかたまりになった■■ちゃんを、もってきたビニールぶくろに、みんなでちょっとずつ入れました。

 わたしがもういちど林のおくについたころには、■■ちゃんはほとんどのこっていませんでした。そこで血のついた土やはっぱをひろって、ビニールぶくろに入れました。それがおわると、みんな帰りました。

 わたしはもち帰った土やはっぱを、にわのすみっこにうめました。●●ちゃんも「土やはっぱしかのこっていなかった」と言っていたけど、××くんは、どこかのほねをもって帰ったそうです。それをしんぶんしにくるんで、もえるゴミ入れにすててしまったと言っていました。

 だれがさいしょの手紙を書いたのか、あとでちょっと気になったけど、わかりませんでした。

 ■■ちゃんは、ゆくえふめいということになっています。

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しかえし 尾八原ジュージ @zi-yon

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