第2話 詩「桑染」より着想

「桑の実」


桑の実 食べものと思うた

白い手ぬぐいに ぎょうさん包んで帰った

濃い紫が 母の眉を曇らせたて

叱られたのは 布の価値やった

よう忘れん あの日のかなしみ


「血筋」


喰わせてやるから はたらけと

母は 嫁ぎ先で 声を失った

恩に着せる その言葉の冷たさ

百姓やれとは言わんでな と笑う義父

その笑みが 祖父の影を連れてくる


「黒ずんだ棚」


ああ、おかいこさんの 素色(白色)の繭

薄暗い家屋に黒ずんだ棚の奥

深緑の葉に もそもそと命が這う

その気配に 胸が凍った

幼い私と母の里


「門」


桑の葉を摘んではいないのに

胸の奥で おかいこさんが這い回る

もそもそと 記憶の葉を食べながら

どこからか 桑染の手ぬぐいが差し出され

私は また門をくぐる



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五行歌 tokky @tokigawa

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