冒険者たちの賛歌【Adventurers 二次創作】

「なんだお前、今日もミルクかよ?」

 カエルレウスは、今日も王都一賑わう酒場・ウルヌンガルの片隅で、ちびりちびりとミルクを飲みながら、溜息をついているスチールの肩をバシンと叩いた。

「だから、私は下戸だ。水を飲むくらいなら、ミルクだろう」

 相変わらず冴えない顔のスチールが、ミルクをこぼさないようにひょいとグラスを動かした。


「今日はどうした? またオルテンシア嬢の尻でも眺めてるのか?」

「きょ、今日は見ていない! 違う! あの角に座っている人が気になって……」

 カエルレウスは『今日は』という言葉に思わず苦笑を漏らしつつ、スチールが指さした方を見てみた。

 女が、羊皮紙に向かって、何かを書いていた。


「誰だ、あのご婦人?」

「私も詳しくは知らないが、サイカチという名で、今は『ゲンサクシャ―』というジョブについているらしい」

「ゲンサクシャー? 聞いたことないな……」

「なんでも、全ての理を変える力がある、らしい」

 スチールの話がずいぶんと謎めいているので、カエルレウスは眉をひそめた。


「で、何が気になるんだ?」

「王宮前の掲示板に、彼女の名があった。どうやら何かのランキングで一位になったらしい。相当な実力者に違いない、そう思って……」

「なんだ? オルテンシア嬢から乗り換えようってのか?」

 カエルレウスが不敵な笑みを浮かべる。


「違う違う! オルテンシアは綺麗で可愛くて、眺めているだけで幸せだから。ただ、おめでたいことがあったのなら、サイカチをなんだか祝ってやりたくなってさ。ちょっとだけ、寂しそうだから……」

 はにかむスチールの姿は、カエルレウスの好物のひとつだった。


「そういうことなら任せな! 金貨一枚……いや、二枚寄越せ」

 カエルレウスがウインクして、手を差し出す。

「いったいなにを……?」

 戸惑いつつもスチールは金貨を渡す。カエルレウスが動くとき、物語が動くことをスチールは知っている。


「アレグリアちゃーん、一曲いいかーい?」

 背負い袋の中から、よく手入れされたリュートを取り出すと、店の奥で忙しそうに酒を運ぶアレグリアに声をかけた。

 アレグリアも「せっかくなら派手なの頼むよー!」と、弾ける笑顔で応えた。


 カエルレウスが、リュートをかき鳴らし始めた。

 リズミカルに、そして、音で語り掛けるように。

 がやがやと騒いでいた酔客たちが見事な演奏に注目し始めたところで、カエルレウスがスチールの背中を軽く蹴った。『お前が歌え』と目で語っている。


 突然の展開に呆然としつつも、周囲の視線が痛くて、覚悟を決めるしかなかった。

 手拍子を取り、リズムを合わせる。


「ヨーホー!」

 大声を張り上げた。

「ヨーホー!」

 冒険者たちが一斉にジョッキを掲げた。

 ウルヌンガルでも定番の曲が始まったのだ。


 ♬

 ヨーホー!(ヨーホー!)

 冒険者なら旅をしようぜ

 罠にかかってしまうって?

 敵に首を飛ばされるって?

 そんなの気にしていたら

 目の前のお宝を逃しちゃうぜ

 無事に生きて帰ったあとは

 いつもの酒場で乾杯するぜ


 自然と冒険者たちが一体となるなか、サイカチは突然の出来事に戸惑っていた。

 しかし、彼らの生き様を厳しくも明るく歌う姿に、自然と笑みがこぼれた。

 カエルレウスがアレグリアに目配せすると、彼女は、さらにちょこんと乗ったデザートをサイカチのテーブルに乗せた。


「あちらのお客様から、ですって。よくわからないけど『おめでとう』だってさ」

 アレグリアの美しい指の先に、照れ笑いするスチールがいた。

 どうしていいかわからず、おずおずと頭を下げると、スチールもぺこりと頭を下げた。


 歌が終わっても、リュートが鳴り響き、リコーダーが旋律を奏で、冒険者たちは踊り騒ぐ。

 楽し気な雰囲気に乗せられたオルテンシアは、スチールの手を取って踊り出したものだから、スチールは顔を真っ赤にして不器用なステップを踏んだ。


『悪くない、誕生日だな……』

 サイカチは心のなかでそう呟き、再び羽ペンで物語を紡ぎ始めた。

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二次創作してみた 羽鐘 @STEEL_npl

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