第2話 陰膳の食卓に座る女子校生
そんな鬱祭りと、雨でビショビショに濡れた状態のおかげで、なぜか最高にハイって奴だぁー!なテンションになって自宅に辿り着く俺。
自宅――っても古い2階建てのアパートだ。と、急に冷静になる俺。若干や説明入るからね。
一ヵ月前、ここに引っ越して来た。
いかにも、幽霊が住んでそうなボロボロの外観だが、室内はリフォームされまくったおかげで、意外にも快適に過ごせている。俺は外見よりも内面が良ければ良い方なタイプです。
それでいて、家賃はなんと、10円!
10円です!
一か月分の家賃が、10円!!!
おかげでフリーター生活が大分楽になりました。
以前まで住んでいた家の家賃は、75000円。
それが、ここに引っ越したおかげで、オッサンとおかんが残したお金が、なんと10年は持つ計算になりました。これであと10年は生きられる計算だ。
なので――ありがとう……大家さん……それしかいう言葉が見つからない……
……と、心の中で感謝しておく。
無論、良い話しには裏がある……それは――
それなりのデメリットも、この10円の物件にはあった。
でないと10円にはならないしね。
……それに耐えられるか、が住み続ける条件だった。
そのデメリットとは――
あー、ごめん、やっぱ説明面倒臭くなったので閑話休題。
ともかく、早く風呂に入りたい……雨で全身がびしょ濡れでヤバイ。しかもTシャツだから、〇首のところが透けて――いや、なんでもありません。
だから、鍵を開け、ドアを開くと――
「――おっかえりー! 正三っ、バイトどうだった?」
と、真夜中なのに元気よく、そして明るい声が俺を出迎えた。俺も負けじと返事をする。
「そうさ、俺の名は橘正三……しがないフリーターさ!」
「なに急に自己紹介し始めてるの? 毎度のことだけど」
「そういう君は、ジョジョジョージョ・ジョージョジョ」
「白石美華だよっ!」
「そうともいう」
「シ○ちゃんみたいに言わないでっ!」
うむ、今日もパーフェクトコミュニケーションだな、と腕を組み頷くポーズをしながら、透け○首を隠した。
……あ、紹介遅れたね。
俺は
んで、今は話してるのは――
「もう! 正三ったらっ」
と、その前に、文句を言っている間に俺は部屋の電気を付ける。
6時間ぶりに明るくなった部屋、その目の前に、彼女の姿は相変わらず見えた。
あの紺のボタン2個のブレザーと、例の短く折り曲げやがったスカート、その下はすらりとした白い裸の太ももの先には紺のハイソックス、そして、首を隠すように、首輪みたいに巻かれた太いリボン――
長く綺麗な黒髪、整った美形な顔――そして、笑顔で俺を出迎えてくれる彼女。
――
俺んちで同棲している、17歳の女子高生だ。
……そう、身寄りもいない、孤独な俺と共に住む、女子高生だ――
「……ただいま、美華さん」
「うん、おかえり、正三!」
素直にデレてみたら、いい笑顔でデレ返しされた。うむ、全くこの子は卑屈じゃないから好感が持てる。
別に好きじゃないけど。
と、腹黒い要素を取り入れながら、ドアを閉めると、目の前のJKが腕を後ろに組んで、頭を傾けながら満面の笑みでこう言ってきた。
「ねえ正三♪ ご飯にする? 夜食にする? そ・れ・と・もぉ~、飯テロ~?」
最後の方は可愛くウインクしながら、突如、新妻ごっこをし始める美華奥さま。
しかも、言ってることは全部メシ関連である。
少しは『ナ・マ・タ・マ・ゴォッ』くらい言わんか! てっ、これも食べ物じゃん!
ともかく、そう言われたならば仕方ない……こちらも抜かねば無作法というもの……
「じゃあ、風呂入って、自己発電して、リプレーのレモンティー飲んで寝るわ」
「なんでそうなるのッ!!?」
表情が(゚Д゚)になった美華さんのツッコミが部屋中に響く。騒音レベルで。
うむ、相変わらず表情が豊かなので面白いね。
あ、隣には美形夫婦が住んでいます。ですがモーマンタイです。
この部屋、かなり防音対策はされているので、お経を大声で拝んでも聞こえることはないです。
まあ、それはともかく、
「ねえ、一生懸命働いて、お腹空いているでしょ! 食べようよ~!」
「大丈夫です。いまお腹空いていませんので平気です」
「わたしが平気じゃないよぉー!」
「なら自分で作ればいいでしょ、もう女子高生でしょ、貴女は!」
「それが出来たら苦労しないよッ!!!」
と、もうJKなのに床に寝転んでジタバタし始める制服姿の少女。
あのスカートを折り曲げているせいで、アレが……いや何でもないですはい……
因みに暴れても近所迷惑にはならないです。かなりリフォームが(略)
……まあ、何が言いたいかって言うと……
うん、やっぱこうして人と会話をするのは楽しいな。
おかげで、鬱々とした気分はすっかり忘れることができた。
そんな訳で、仏壇に手を合わせて、ポッドに水を入れて沸かしている間に風呂入ってサッパリした後、遅い夕飯を食べる時が来た。
……そう、問題の食べる時が……
「いただきまーす!」
「へいどうぞ」
ようやく5分が経って、蓋を開けると、すっげえ湯気を放つ赤いうどん。
それをいっちょ前に手を合わせてから、食べる美華さん。
そんなJKの食事シーンを頬杖で眺めるフリーターさん。
……うん、今日も美味しそうに食ってやがる。
いいね、気持ちのいい食い方をする子を眺めるのも案外悪くないかも。
……案外、こういう視〇プレイ――ゲフンゲフン!
観察するのも悪くないなと最近思い始めました。なんつーか、ペットが食べるところを見るような気分?
まあ、ペットなんて言ったら美華さん怒りだして、ポカポカしてくるから言わんけど。
けど、そう言われても仕方ない食い方をしてるからね、仕方なくね?
だって――
あ、皆さん知ってる? 最近のJKのトレンドはね――
箸使わずに、手で食べるんだよー
アツアツのうどんを。
火傷しそうな、アツアツのうどんを手ですくって食べる――そんな未開の原住――ゲフンゲフン!
男よりも漢らしい、漢の中の漢の食い方が、最近の女子高生の流行りらしいっス。
ハンパねぇな、女子高生……
その証拠に、いま目の前でそういう光景が見せつけられている……
「う~ん、おいしいね~」
と幸せそうに、とても美味しそうに130円に寝上がった赤いうどんを、手で食ってやがる……
「……ねえ、美華さんや」
「ん、なあに?」
「熱くないの? それ」
「すっごく熱い、けどそれがイイ!」
「へぇ……」
……熱いのがイイんだ……もしかして、美華さんってMなの?と心の中でメモった。
まあ、そんな冗談はともかく、俺たちの食事は、いつもこんな感じだ。
今、俺たちが座っているコタツの上には、赤いうどん一個のみ。
二個じゃありません。一個です。
……つまり、具体的に言ったら、一人分の食べ物を二人で食べています。
JKが手で食った後の赤いうどんを、この後、
そんな同棲生活を、僕たちはしています……
ふふっ、ふらやましいと思うだろ?
でも実際は――
……うん、改めて意識すると、生理的嫌悪感が増してくるわ……
流石にJKだろうと、他人の食いかけを喜んで食べる性癖は持ち合わせていない……
しかし、それでも食わざるを得ない……
それは、もったいないってこともあるが、そもそも第一――
「ふう、ごちそうさまでした!」
と、その前に美華さんが食い終わりました。ブレザー越しに、お腹に手を当ててさすっている。なんだかエロいね、それ。赤ちゃんできたみたいでゲフンゲフン!!!
そして、さすった手を、今度は俺の方に差し出して、さあ、どうぞのポーズで言った。
「さ、今度は正三だよー」
「お、おう……」
……というわけで、JKが手ですくって食べた食いかけを、
今度は俺が食べる時が来ました……
とりあえず、うどんを俺の方に寄せて、中身を見る。
別に見る必要もないのだが、つい見てしまうのが人類ってものでしょー
伊達にパンドラの箱も、玉手箱も、擬人化した鶴の着替えシーンをつい見ちゃうわけですしなー。
人類って奴は好奇心があるからこそ、文化が発展するし、滅ぶんですなと、わけわからん言い訳を思いつく。
……あれ? パンドラの箱って見たんだっけ? ま、それはともかく……
というわけで……うん、そこには、汁が見えない程、長く伸びきったうどんがあった。
物理的に減ってもいない、長く伸びきったうどんが――
それを、俺は箸で食べ始める……
ごめんね、俺は漢の中の漢じゃないから、箸で食わていただきます。はい……
……伸びきったうどんは、ふやけていて、箸でつまんだら一部の麺が千切れた。
けど、別に美味しくないわけじゃないから、平気で食べ続ける。
……まあ、あんな光景を見た後で食うのは、少ししんどいが……
「……ごめんね、正三」
「ふえ、ふぁにが?」
食ってる最中に、話し掛けてくる美華さん。
その表情は、心苦しそうな表情だった。
「うどん、伸びてしまって……美味しくないよね……?」
……多分、顔に出てしまったのだろう。俺よりもまだ多感な歳の美華さんは、読み取ってしまったか……
美華さんは、そう謝った。
……別に、謝る必要はない。だって、美華さんは――
だから言った。
「いいさ、伸びたうどんも美味しいもんさ。それに、増えた感じがして、お腹が一杯になった感じがするしね!」
「ならないよそれっ!」
と、元気を取り戻してツッコミをかます美華さん。
……うん、やはり、美華さんは切なそうよりも、そう元気そうにしている方が似合っている。
そっちの方が、俺は好きだった。
なのに、彼女が首元のリボンに触れる。ふっと、布がずれた。
そこに――細い黒い線が、首についていた。
「あ……ごめん、正三……もしかして、見えた?」
首に巻かれた太いリボンを直す美華さん。うん、美華さんが食べている途中から、リボンがわずかにずれて――そこに、細い黒い線がのぞいていた。だけど、
「まあ、見えたけど、見慣れているし、気にしてないよ」
「けど、気持ち悪いよね……ごめんね、食欲失せるよね……」
……うーん、なんか今日の美華さんはネガティブだねぇ。
そんな状態で、正直にJKが手で食べるところにちょっと――と言える程、男じゃないので、とりあえず言った。
「いや別に、グロ画像で散々見慣れているから平気だよ」
「……や、なんでグロ画像なんて見てるのよ」
ジト目で俺を見てくる美華さん。俺はちょっと頬を赤らめたながら答えた……
「……そういう性癖も持ち合わせている」
「へ、変態だー!!!」
……また、大声で部屋中を騒ぐ美華さん。
しかし、その声は、隣に聞こえてこない。
それは、この部屋が防音仕様だからという理由ではない……
――美華さんの首には、
つまり、首を吊った後。
浅黒くなった一線の後が、生々しく残っていた……
――
亡くなった人の為の食事。
仏壇にお供えして、少し時間が経ったら、下げて、もったいないから生者が食べる風習。
……要するに、死んだ人の分を、こうして生きてる俺が食べる――それだけのことだ。
元々俺の家は、そういう信仰をしている……
『白石美華』――俺と同い年で、
10年前、このアパートで死んだ地縛霊のJKだ。
そして、この部屋の家賃が10円である理由でもある。
※続く?
自己紹介代わりの、止まない雨が降る――そんな日のこと 御伽草子913 @raven913
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