【海洋恋愛短編小説】世界の果ての凪を、君と（約16,000字）

　気象庁のエリート予報官・天樹航は、最新AIの判断を信じた結果、73名の命を奪う大水害を引き起こしてしまう。一方、国際医療NGOの医師・海部美憂は、アフガニスタンの診療所で世話をしていた21人の命を空爆で失う。

　科学を信じられなくなった男と、神を信じられなくなった女。
　
　絶望から逃げるように、二人は北太平洋の観測船「凌風」に乗り込んだ。誰もが過去を抱える、世界の果ての漂流者たち。そこで二人は、互いの傷の深さを知りながら、少しずつ心を通わせていく。

　しかし運命は残酷だった。

　観測史上最強の台風が「凌風」を襲う。中心気圧870ヘクトパスカル、最大風速85メートル、三重の眼壁構造を持つ怪物。全ての予測システムがダウンし、船長は重傷を負う。

　絶体絶命の中、航はアナログ観測だけで台…続きを読む