第3話 宇宙より遠く、宇宙より近い深淵へ
「アーク計画第一作戦?」
ユナたち五人は、会議室に集められていた。
「ああ、まずこれを見てくれ」
ナツメはディスプレイを五人に見せる。
そこに映し出されたのは、大きさが図れないほどの巨大な宇宙怪獣だった。
「全長2kmの弩級大型怪獣。宇宙から襲来する宇宙怪獣の中継地点の役割を果たしている。この作戦でこの弩級宇宙怪獣を破壊するのが、君たちの役割だ」
「弩級宇宙怪獣…」
リオは声を漏らす。
「こいつらは新国連軍の活躍で、五体あった中、三体は破壊された。だが残りの二体が厄介なことに太平洋の海深くとヒマラヤ山脈の奥地にいる。現行兵器じゃたどり着くことさえ困難だ」
ナツメは画面を切り替え、アークを表示する。
「この厄介な奴をアーク五機による同時攻撃で地球から宇宙怪獣を完全に駆逐する!それが作戦概要だ!」
ピーンポーン
家のチャイムが鳴らされる。
「はいはーい!よく来たねみんな」
タカシの家に訪問してきたリオ、ミナ、セイを、ユナは出迎える。
「こんにちは。よく来たなみんな」
タカシも後ろから顔を出す。
「タカシさん!」
セイが笑顔になる。
「分かりやすいね」
「分かりやすいな」
リオとミナは、セイの完全な恋する乙女反応に苦笑した。
「どうしたお前たちぃ?」
部屋の奥からさらにナツメが現れる。
「ナツメさん⁉どうしてここに?」
「友達の家で酒飲んでてぇ、文句言われる筋合いはないだろぉ」
ナツメは、よく見たらビール缶を持っている。
「こいつの酒飲み相手に選ばれたんだよ。せっかくの休日に唯一の友達と酒を飲むとは、悲しい奴だよ」
タカシは呆れながらナツメを押し返す。
「リビングでこいつと飲んでるから、悪いけどユナの部屋に行ってくれ」
「そうだよ、私がタカシと愛し合うから邪魔するなよぉ」
「!!」
「黙りやがれ酔っ払い」
タカシはナツメの頭をひっぱたき戻ろうとしたが、セイの声が引き留める。
「わたしも一緒にいます!」
「いやまだ二十歳じゃないでしょ」
「一緒にいます!」
必死な様子のセイに、全員が反応に困る。空気の読めない酔っ払い以外は。
「いいねぇ、3Pかぁ、(自主規制)も(ピー)に(禁則事項です)でぇ――」
「酔っ払いは、黙っていろ!ここは女の子がいるんだぞ!」
タカシの全力のゲンコツが、ナツメの脳天に直撃する。
艦隊が、大海原を駆ける。
「主砲!一番三番撃て!」
艦砲射撃が、水平線の彼方に放たれ、爆砕する。
「宇宙怪獣、撤退していきます」
「第一種戦闘配置を解除しろ」
艦隊の中央には、大きなタンカーがあった。
ユナは、甲板の上からその様子を眺めていた。
「ユナ~そろそろ作戦開始だよ~」
「…もうこんな時間か」
リオの声掛けに振り返り、ユナはドアをくぐる。
「もう作戦水域です。早く準備してください」
神経質そうにハルは、ユナに文句を言う。
「……」
『――あの子…ハルは父親がアーク計画の研究者でね、それで、その父親は家庭を顧みない性格で…それで、父親に認められたい一心でアークに関わってるんだ…だから…あんまり悪く思わないでくれ――』
ユナはハルの顔を見ながら、ナツメの過去の発言を思い返す。
「どうかしましたか?」
「…いや~古いタンカーを改造してアークの輸送船にするなんて、よく考えたよね~」
「まあそうですね。それより急いでコクピットに向かってください。作戦開始時間ですよ」
「了解!」
『よし三人、繋がったな』
アークのコクピット内に、ナツメの声が響く。
『先ほどミナとセイがヒマラヤ山脈に突入した。次は君たちの出番だ』
ナツメは画面にデータを写す。
『作戦概要を確認しよう。君たちは原子力潜水艦レゾリュートの案内で弩級宇宙怪獣に向かい、それを破壊する。海中は通信が通じずらい上、宇宙怪獣のジャミングがかかるから私とは通信は出来ないだろう。レゾリュートと君たちだけで作戦を実行するんだ…健闘を祈る』
「艦長、作戦開始時間です」
原子力潜水艦『レゾリュート』の中で、副長のマーカス・グラントンは、艦長のジョナサン・ブレインに時間を伝える。
「…新兵器に少女兵を乗せ、敵陣に単独突入…人間が考えた作戦とは思えないな…」
「それ以上の発言は粛清の対象になりますよ」
「…ああ。よしレゾリュート、前進だ」
「この!」
ユナが乗るアーク01から魚雷が発射される。
「――ッ!機体が重たい!」
リオが乗るアーク02は大型宇宙怪獣を殴る。
「アークは本来宇宙用の兵器として開発されたのです!水中戦も対応していますが万全とは言えないですよ!」
ハルが乗るアーク03は手に持っている巨大な銛を突き刺す。
アークの戦場は、光の届かない深海だ。
アーク01の肩から、レールガンが放たれ、宇宙怪獣の外殻を破る。
「暗くてよく見えないし、レーダーもよく効かない!これでどう探せばいいんだ!」
ユナは中型宇宙怪獣を握り潰す。
「一体どこに――!」
周囲を見渡したハルは、大きな影に気が付く。
「間違いない!あれだ!」
「――ハル!一人で前に出ないで!」
リオは呼び止めるが、ハルはそれを無視して突撃する。
「奴を倒せば宇宙怪獣を地球から追い出せる!それなら父さんに――!」
アーク03に触手が迫る。
いや、触手というにはあまりにも鋭く、金属的だった。
「――ガァ!」
「ハルゥ!」
装甲を貫かれたアーク03に、ユナは魚雷を撃ちながら盾になる。
「グッ――今だ!」
攻撃を受けながら、アーク01は弩級宇宙怪獣の口のような構造物に突っ込む。
「全門発射!」
アーク01に搭載されている全ての火器が火を噴き、口を破壊する。
「ユナ避けて!」
アーク02から魚雷が発射され、肉を抉る。
「ハル!止めだ!」
「――!」
ハルが――アーク03が持っている銛を投擲して弩級宇宙怪獣の傷口に刺さる。
「どりゃぁ!」
アーク01の膝が銛にぶつけ、さらに奥まで刺さる。
瞬間、弩級宇宙怪獣の顔のような部分が爆散する。
「魚雷全門発射!」
後方に待機していたレゾリュートから魚雷が放たれ、直撃。
弩級宇宙怪獣は崩壊していく。
「機体が動かない…」
攻撃を受けたアーク03は、深く深く沈んでいく。
「…バカなわたしにふさわしい最後かな?」
ハルは操縦桿から手を放し――。
コクピットに震動が起こる。
「ハル、帰るよ」
「…ユナ…さん…」
アーク01は、アーク03の腕をつかむ。
「…どうして助けてくれたんですか?…わたしなんていない方が――」
「わたしはハルが大好きだ」
「…!」
「だからみんなで帰って、おいしいご飯でも食べよう」
「…はい」
「作戦成功に~かんぱ~い!」
「「かんぱ~い!」」
ナツメの掛け声に、飲み物が上にささげられる。
「弩級宇宙怪獣二体は破壊さえ、地球からの宇宙怪獣の排除に成功した!完全な安全というわけではないけど、宇宙怪獣の襲来頻度は大きく減るだろう!」
ナツメはそう言い、ビールを一気飲みする。
「ユナ?」
「どうしたのお父さん?」
何故かパーティーに参加させられたタカシが、ユナの隣に立つ。
「お疲れ様」
「…うん!せっかくだしわたしの武勇伝――」
「タカシさん!」
セイがタカシの前に立つ。
「わたし頑張りました!ヒマラヤ山脈の弩級宇宙怪獣を倒すこと出来ました!」
「ああ。ご苦労様」
「…それで、ご褒美的な…頭をなでてほしいです!」
セイはもじもじしながら頭を前に出す。
「……」
「ナツメさん、子供相手に嫉妬とか大人げないですよ」
不満げなナツメを、ミナが制止する。
「ユナさん…」
「どうしたのハル?」
「…ありがとうございました」
「いいってことよ」
「それで…その…わたし…あなたのことが…好きになりました」
「ブフォ!」
顔を真っ赤にするハルに、ユナは飲み物を吹き出す。
「ええっと…」
「ダメ!」
リオがユナに横から抱きつく。
「ユナはわたしの物だから!」
「!」
ハルもユナに抱きつく。
「わたしのです」
「…え?」
ユナは声を失った。
「…両手に花エンドだね!」
ナツメはサムズアップする。
「どうしたのお父さん?」
「いや…色々あったなって」
「そうですね」
「…ありがとな。お前のおかげで、過去を乗り越えることが出来た」
「それはこっちのセリフですよ」
「全部解決したわけじゃないけど、少しは良い方向に動いた」
「そうだね…お父さん?」
「なんだ?」
「正式に娘になってあげようか?」
「…いいのか?」
「うん…」
「分かった…そうしよう」
「それでお父さん」
「次は何だ?」
「もしお母さんが出来るとしても、年下はちょっと…」
「俺、セイに手を出すと思われてんのか⁉」
「……」
「黙るなよ!」
これは、彼女たちの戦いの始まりに過ぎない。
これから彼女たちがどのような戦いを繰り広げていくのかは、誰にもわからない。
しかし一つだけ言えることがある。彼女たちの心は――決して負けないだろう。
アーク すゆる @SuYuRu
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