第2話 起動
アークの秘密基地から3km先――新国連軍横浜基地、日本における宇宙怪獣に対する最前線基地である。
「宇宙怪獣出現!かなり大規模です!」
警報が基地内に轟き、赤色灯が壁を染める。
基地司令官の神城セイイチロウ中将は、重い足取りで司令部に入室する。
「現状を報告しろ!」
すぐさま参謀の三輪アヤト中佐が情報を提示する。
「南西方向より、大規模な宇宙怪獣の集団が進行中。第三航空隊は出撃準備完了です」
「よし、急いで発進させろ!他の部隊の出撃を急がせろ!」
「了解しました」
神城は敵影を写すモニターに視線を向ける。
「…念のため霧島大佐に連絡を取れ。アークを使わざるを得ない可能性がある」
「接敵まで残り3kmだ!全員引き締めろ!」
戦闘機のコクピットに、部隊長からの指示が届く。
新国連軍の戦闘機パイロット、神谷シンは操縦桿を握りなおす。
目線の先に、宇宙怪獣の壁としか表現できない敵が現れた。
「今回は数が多い。全戦力を投入するようだが…それでも厳しい戦いになるだろう…無駄死にをするなよ!」
「「「了解!!」」」
部隊長の指示で、部隊は隊列を維持しながら展開する。
直後、ビームの嵐が襲来する。
「隊列を崩すな!迎撃しろ!」
十数機の戦闘機から、一斉にミサイルが放たれ、命中する。
「くそぉ!数が多すぎる!」
宇宙怪獣の壁が破壊されたかと思われたが、次から次へと爆炎の中から後続が現れる。
「キリがない!このままでは…」
爆炎の中から、影が揺れる――。
「…あれは!」
――全長50Mに迫る巨大な宇宙怪獣が、ゆっくりと姿を現した。
「大型宇宙怪獣…簡単にいく相手では――!」
更に一体、一体と現れる。
「…五体…こ、これまで、こんな戦力は確認されてないぞ!」
「航空機隊の損耗三割!壊滅状態です!」
「迎撃ミサイル全門稼働中!」
「巡洋艦雪水中破!後退します!」
「宇宙怪獣!最終防衛ラインまで侵入!」
司令部は、叫び声と警告音に溢れていた。
「航空隊は全機を一時後退させろ!戦車隊出撃!地表で迎え撃つしかない!」
神城は椅子に沈み込むように座り、隣に立つ三輪に視線を向ける。
「…このままでは…負けるな」
「…はい。勝ち目はよくて二…一割あればいいといった所でしょうか」
神城は再び前を向き、大型のモニターを見る。
「…アークを出撃させろ。全責任は、私が取る」
「どうしたの、ユナ?」
「……」
寄り添ってきたミナに、ユナは不安げな表情を見せる。
少女たちはナツメの指示で、基地内の部屋に集められていた。
「…わたし達、この後どうなるのかなって…」
「……」
ミナは答えられなかった。自分も同じ不安でいっぱいだからだ。
「…ユナさん」
部屋の端っこでうずくまっていたセイが、ユナの前に立っていた。
「…きっと何とかなる…そういう精神を持ってる方が、生き残りやすい…え、偉そうでしたね。すみません!」
「そ、そんなことないよ!」
急に謝りだすセイを、ミナが止める。
「…昔、両親が死んで路頭に迷っていたわたしを助けてくれた人の言葉なんです…」
いつも以上に挙動不審なセイの姿を見て、リオはかまをかけた。
「…なるほど。セイちゃんはその人のことが好きだと」
「!!どうして分かっ…!」
顔を真っ赤にしてその場にへたり込むセイを、リオは慌てて励ますす。
「ごめんって。ちょっとした好奇心からだよ。別に好きな人一人や二人いたっておかしくないよ」
「二人以上いるのは普通じゃないと思うぞ」
ミナがツッコミを入れる。
「セイちゃん」
ユナがセイの前に顔を出す。
「ありがとう。きっとその人は良い人なんだね。わたしももう少し気楽に考えてみるよ」
笑顔のユナに、セイは安心したように笑みで返す。
平和な室内を前に、ナツメは尻込みしていた。
「…なるようになる。そうだよね」
ナツメは勢いをつけて入室する。
「――ユナ、出撃だ」
「もしもし?」
「無事だったかユナ?どうかしたのか?」
「うん…これから出撃することになった」
「…やれるのか?」
「自信はないけど、やるしかないよね。タカシさんを守ってあげるよ」
「それは頼もしいな…絶対かえって来いよ」
「…保証できないかな…けど…わたしが死んだら誰がタカシさんの面倒を見てくれるんですか?」
「なんか生活力バカにされてる気がするけど、娘の面倒見ていたんだけど」
「けどサボり魔でしょ」
「…否定できないな」
「……」
「……」
「…帰ってくる。絶対。こんなところで死なない」
タカシとの通話を終え、廊下を歩いていたユナをリオが呼び止める。
「…ユナ…大丈夫なの?」
「たぶんね。わたしが何とかしないとみんな死んじゃうでしょ!諦めるわけにはいかない――ッ!」
平然を装うユナに、リオは抱きつく。
「大丈夫だから!逃げたいならわたしが連れて行くから!だから――」
「リオ」
ユナの目は、リオの涙を流す目を見る。
「わたしは守りたい人達がいる。それはリオもだよ。だから逃げない。みんなが笑顔になれる未来があるならそれに向かいたい」
リオは涙を流したまま、ユナに笑いかける。
「…ごめん…わたし、色々おかしくなってたみたい…」
「……」
ユナは無言でリオの涙をぬぐい、笑顔を向ける。
「大丈夫。すぐ戻ってくるから待っててね」
ユナは廊下を駆けだした。
「…ユナ…」
「電話は済んだ?」
「はい」
アークの格納庫に入ってきたユナを、ナツメが迎える。
「残念だけど他のメンバーは出すことが出来ない。まともに準備できていないが、緊急時だから出さなきゃならない。…ごめんな、色々と」
ユナはナツメに笑みを向ける。
「大丈夫ですよ。まあ任せてください!ナツメさんもわたしが守って見せます」
『第三発進口から出てもらう。もう目の前まで宇宙怪獣が迫ってきている。慣らし運転すらできずに戦うことになるだろう。基本はシミュレーションと同じだから気負い過ぎるなよ』
ユナが乗り込んだアーク、識別番号アーク01は、巨大エレベーターが軋む音を立てながら上昇する。ユナの視界に、鋼鉄の壁がゆっくりと流れていく。
「わかりました」
ゆっくりと上昇していくアーク01の中で、ユナは溜息を吐いた。
「なんだっけ…おばあちゃんが言ってた…逃げれば一つ、進めば二つ」
ガタンッ!
アーク01が地表に到達する。ユナは周囲を確認する。どうやら大型の建物の中のようだ。
ユナは操縦桿を握りなおし、前を向く。
「とりあえず外に出ないと――ッ!」
外側から扉がねじ開けられる。
「…大型宇宙怪獣!」
目の前に現れた自分が乗る巨人より大きな化け物を前に、ユナは息を呑む。
「…う…うおぉぉぉぉ!!」
ユナの叫びに呼応し、アーク01の右腕が前に飛び出す。
右拳は大型宇宙怪獣の腹部に炸裂し、建物の外まで吹き飛ばす。
「あ…あれは⁉」
低空で交戦していたシンの瞳は、吹き飛ばされた大型宇宙怪獣と、巨大建造物からアーク01が現れる瞬間を写した。
「巨大…ロボット…?」
「これがアークの力…超スーパーすげェどすばい…感動の嵐。アークってなんてパワーなんでしょ…」
『敵はまだいるぞ!腕部のエネルギー砲を使え!』
「りょ、了解!」
ユナが頭の中でイメージし、アークがそれに追随する。
殴り飛ばしダウンしている大型宇宙怪獣に狙いを定め、トリガーに指をかける。
「これでもくらえ!」
引き金が引かれ、アーク01の腕からビームが――。
警告 警告 警告
「!」
『システムトラブルです!出力低下!70%65%60%止まりません!』
『急いでシステムを復旧させろ!』
アーク01のシステムが沈黙する。
「動かない⁉このままじゃ――きゃぁ!」
攻撃が殺到する。
「――このままでは!」
ユナは歯を食いしばり、震える手で操縦桿を握りなおす。
「こんなことで死ねない!わたしはまだ生きるんだ!生き残るんだ!」
アーク01が再起動される。
『何とか動けるだろうが出力が上がらない。機体のパワーが低いどころかエネルギー兵器は使えないから気を付けろ!』
「どう気を付ければいいんですか」
ユナはモニターの一つを確認する。出力34%。
「やって見せろよわたし…やってやる!やってやるぞ!」
アーク01は目の前の倒れている大型宇宙怪獣踏みつけ、とどめを刺す。
「!」
モニターに敵の接近が警告される。
全長10Mの中型宇宙怪獣の集団がアーク01に肉薄する。
「ターゲットロック…!」
アークの肩に内蔵されているレールガンが炸裂する。
次々と放たれた弾丸は、宇宙怪獣の外殻を貫通していく。
「ミサイル発射ぁ!」
体勢をとったアーク01から、ミサイルが大量に発射される。
ミサイルは軌道に乗りながら、全長5Mほどの小型宇宙怪獣を破壊していく。
『敵の戦力が46%まで低下しました!』
『…アーク…ここまでと…これでも全力ではないんだぞ…』
ナツメは鬼神の如く宇宙怪獣を破壊していくアークを前に戦慄した。
「すげぇ…」
空を飛ぶシンは、一騎当千の働きをするアークを前に、言葉を失った。
「この勢いに乗ればいけ――きゃああ」
大型宇宙怪獣が、アーク01に飛び掛かられる。
ユナは頭部に内蔵されている機関砲の砲門を向け、発射する。
だが外殻を貫通することが出来ずに弾かれてしまった。
「このぉぉぉお!!」
左腕が軋みを上げながら大型宇宙怪獣の顔面を押す。
「やられてたまるか!」
左腕の肘から火が吹く。スラスターで加速したパワーで押し返す。
そのままつかんだ顔面を握りつぶす。
「ぅおおおぉ!」
右の拳が胴体に炸裂し、沈黙する。
「…はあ、はあ、はあ…」
ユナはゆっくり周りに視線を回す。
アークの活躍に宇宙怪獣の連携は崩れていき、人類は押し返すことに成功していた。
「!!」
大型宇宙怪獣がアークに飛び掛かろうとする。
だが横からの攻撃に体勢を崩し転倒する。
「た、助かった!」
戦車の砲撃と戦闘機のミサイルの集中攻撃が、大型宇宙怪獣を粉々にしていく。
ユナは上空を見上げる。そこには戦闘機のパイロットがこちらにサムズアップをしていた。
「…まだ…動け…」
アークは膝をつき、動きを止めた。
「…勝敗は決したな」
横浜基地司令室の中で、神城は後退していく宇宙怪獣を眺めていた。
「我々の勝利です。被害は軽視できませんが、あそこまでの集団を撃退できたのは称賛に値します」
「そうだな…それもこれもアレのおかげだな…」
神城は手元にある小さなディスプレイに視線を落とす。そこには膝をついて静止しているアークに、研究者たちが集まりデータ収集を行っていた。
「秘密兵器…切り札…まさにスーパーロボットだな」
机の引き出しを開き、神城は中から書類を取り出す。
要機密と書かれたその書類には、「アーク計画」と書かれていた。
「…アークの力をこう見せつけられたら…勝率はかなり有ると判断せざるおえんな…」
医務室は静かで、落ち着きを保っていた。
「検査の結果異常はなかったけど、大事をとってもうしばらく寝ていたほうがいいです――あ、起き上がらないでください」
ベットに身を預けていたユナは起き上がろうとしたが、女医に止められた。
「…あぁ…すみません…ええぇっと…」
「中村エミです。とにかく休んでくださいね」
「分かりました」
「それと見舞いのお客さんが来てますよ」
中村が部屋の外に合図を送ると、タカシが入室してくる。
「タカシさん!」
「私は少し席を空けますので」
中村は部屋を出ていく。
「……」
「……」
「なあ」「ねえ」
「…タカシさんが先に行ってよ…」
「…分かった」
タカシは椅子に座り、ユナに視線を合わせる。
「言いたいことも、聞きたいこともたくさんあるが…とりあえず…ありがとな…」
タカシはユナに笑顔で語りかける。
「あのロボットの活躍を見たぞ…被害は無いわけじゃないが…お前のおかげで今生きれてるんだ…だから、ありがとな」
「…フフ…ふはははは!」
少し照れながら言葉をひねり出すタカシに、ユナはおかしく思い爆笑した。
「何が可笑しい!」
「別に何もおかしくないですよ…タカシさんって結構かわいいですね」
「なっ!」
ユナはひとしきり笑った後、タカシに顔を向ける。
「タカシさん…お父さんって呼んでいいですか?」
「…好きにしろ…」
「そうツンケンしてぇ~素直じゃないんだからお、と、う、さ、ん」
「ウザイなぁお前!」
ユナはタカシをからかい続ける。
「おーいユナ!ご苦労様!」
リオとミナが医務室に入ってきた。
「じゃあここらで帰るよ」
「分かったよ。わたしがいない間もしっかりしてくださいね」
「分かってる分かってる」
タカシは立ち上がり、入室してきた二人の前に立つ。
「えーと、藤沢タカシだ、あいつが世話になってる」
「ああ、こちらこそですよ!いつも助けてもらってるのはこちら側です!」
「それならいいんだが…まあそれでは」
タカシは二人の脇を通り退室する。
タカシは警備員に先導されて出口に向かっていた。
立場はどうであれ機密施設にいる民間人なので、この扱いに文句は言えない。
「…あの?」
目の前に小柄な少女が現れる。
「どうかしたのか?」
「…藤沢タカシさん…ですよね…」
「ああ、そうだがどうかしたのか?」
少女は返答を聞くと笑顔になり、タカシに一歩近寄る。
「わたしです!青木セイです!」
タカシは少し考えた後、申し訳なさそうに答える。
「…申し訳ないけど、どなたでしょうか?」
タカシの謝罪に、セイは衝撃のあまり硬直する。
「両親が亡くなって路頭に迷っていたわたしを助けてくれました!」
「…ごめん、覚えていない…」
「そ…そんな…」
セイは膝から崩れ落ちた。
「これお見舞いの品」
ミナがユナに紙袋を見せ、机に置く。
「何持ってきたの?」
ユナの疑問に、ミナが笑顔で中身を取り出そうとする。どういうわけかリオは顔をしかめている。
「えーと…まずはこれだね!ハンバーグ味のアイス!なんか売ってたんだ!」
「……」
「次はこれだね!古のセガのゲーム機!中古ショップで見つけたんだ!」
「えぇ…」
「とっておきはこれだ!うちが欲しいぐらいだよ…倒産した会社のスケールモデル!これは貴重だよ」
「タカシさ…お父さんが喜びそうなセンスだな…え~リオ。帰ってきたよ」
反応に困りユナはリオに会話を振る。
「……」
リオはユナの笑顔に、無言で抱き着く。
「リオ!何してるの⁉」
ミナはいつもと様子が違いすぎるリオに慌てる。
「不安にさせたね、ごめんね」
ユナはリオの全力の抱きつきに、いとおしい表情で頭をなでる
ミナは若干混乱しつつ、二人の様子に一つの感情を得た。
「尊い」
ユナは子供のように甘えるリオの相手をしつつ、ミナに質問する。
「ナツメさんはいずこへ?」
「ナツメさんはなんか緊急の要件で海外に行ったよ」
「…海外?」
「…分かった、この作戦を実行しよう」
国連本部の会議室。新国連軍司令官のアレクサンドル・イワノフが部下の提案にGOサインを出した。
彼は現在、世界中の実権を握っている組織、世界救済会議の代表でもあり、実質的な世界の支配者である。
「宇宙怪獣の生体データ、付けられている武器。それらを解析して生み出されたアークは素晴らしい兵器だ。これがあれば宇宙怪獣を殲滅するのも容易いだろう。そうだろ、霧島中佐」
「…確約は出来ませんが、アークは現行兵器と一線を画すモノです」
ナツメは冷や汗をかきながら、世界の支配者相手に会話を続ける。
「そこは嘘でも肯定してほしいが…まあいい。出撃可能のアーク五機、それに例の新型戦闘機も実戦に投入しよう」
「了解しました。我々が出せる全力で、作戦を成功に導きます
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