第1裁 後編 虚言の人間商人 ―嘘は魂を縛る
『雅閻魔大王の裁きの間』
後編 虚言の人間商人 ―嘘は魂を縛る
【開廷】
(重く鳴り響く鐘の音。漆黒の法廷の扉が左右に開かれ、冷気が傍聴席まで流れ込む)
エリック
「皆さん、ようこそ! 黄泉の第五裁判所――雅閻魔大王の裁きの間へ。本日より始まりました、黄泉チューブ史上初の生中継リポート! 私エリックと、相方の妖狸・ぽん吉が傍聴席から熱気をお伝えします。記念すべき番組初回、最初の案件は……『虚言の人間商人』。業の深い魂が引き出されますよ」
ぽん吉
「地獄中のモニターに、ワイらの顔が映っとるかと思うと、尻尾が震えるわ。見てみぃ、傍聴席は獄卒から亡者まで超満員や。皆、雅閻魔大王様の裁きを心待ちにしとるんやな」
(雅閻魔大王が重厚な玉座に腰を下ろし、鋭い眼光で場を圧する。その背後で、巨大な二つのペンチが意志を持つかのように蠢く)
雅閻魔大王
「静粛に。……これより、第五裁判所・特別審理を執り行う。開廷じゃ」
ベロス
「被告人ガルネ、前へ!」
(鎖の擦れる音。絹の服に金鎖を巻きつけた、脂ぎった中年の男・ガルネが引き立てられる)
ガルネ
「お、お慈悲を……! 私はただ経済を回していただけの、善良な商人でございます……!」
【罪状読み上げ】
ナラカ (書記官)
「被告人ガルネ。この者の罪状、人間界において虚偽取引、詐欺、価格操作、脱税を行い、弱き者を欺き、富者を悦ばせた罪でございます」
雅閻魔大王
「ガルネよ? 汝は誠実を謳い、裏で虚言と私利を貪った。その行為、成功か破滅か?」
ガルネ
「そ、それは誤解でございます! わたくしは皆に喜びを――」
ぽん吉
「もう嘘ついとるやん」
エリック
「まだ開廷2分ですよ……!」
【口頭弁論】
雅閻魔大王
「ふむ、ガルネよ弁論を許す。主張や意見があるなら申すがよい」
ガルネ
「はいっ! 私は正直一筋! 皆に感謝される商いをしておりました! お客様を差別なんてとんでもございません。たしかに……少し値を上げたこともありますが、それは世の常、商人なら仕入れ値が上がれば、売値も上げざるを得ない。商いをするなら普通の事であり、それが人の社会の理というものでもございます。ゆえに私は無罪を主張します」
雅閻魔大王
「ふむ、そなたの言い分はしかと聞いた。では浄玻璃の鏡、開け。虚言は光に曝せば消え去るもの――」
【浄玻璃の鏡・映写】
(中央に浮かぶ水晶の鏡が青白く輝き、ガルネの過去が投影される)
エリック
「……これが、商人の取引記録?」
ぽん吉
「まるで地獄のレシートやな」
浄玻璃の鏡には、雨の中、ガルネが倒れた旅人に水を与える善行の映像。
そして別の映像を映し出す。
ガルネが豪商や貴族には笑顔で商品を安く売り、市井の老人や孤児には二倍の値で売りつけている悪行の映像が流れる。
シメイ (善行記録官)
「ガルネの善行。彼は時に、旅人や道端でお腹を空かせている子供たちに、パンや水を提供していました」
ガルネ
「そうですとも! 私は人助けをしていたのですよ」
シロク (悪行記録官)
「ガルネの悪行。商売の仮面と三枚舌で、他人の命運を値札に変えた」
ガルネ
「それは、違いますよ……仮面だなんて人聞きの悪い、商売の基本は笑顔でございます。それに取り引き相手により口が変わるのは当然でございます。常連様と一見さんへの対応が変わるのは、商売するうえで必要不可欠でございます」
【善悪比率判定】
雅閻魔大王
「ふむ、なるほどな、取引先により態度を変えるか⋯⋯では善悪を評する因果の天秤よ! 真を示せ」
(光と闇が天秤に降り注ぎ、天秤が揺れ、やがて――止まる)
…………。
(法廷が、静まり返る)
判定、ガルネが人間界にて行った善悪比率
善行33% 対 悪行67%
(ざわめきが遅れて広がる)
ベロス
「虚言の代償、魂の三分の二を占める悪」
ぽん吉
「典型的やな……」
エリック
「……本人だけが、まだ助かると思ってますよ」
【弁明】
雅閻魔大王
「ガルネよ? なにか弁明があるなら申してみよ。無ければ判決を言い渡す」
(ガルネ、青ざめながらも口を震わせ、手を合わせる)
ガルネ
「ま、待ってくださいませ閻魔さま! この比率には、きっと誤解が! あの、孤児に高値で売ったのも……そう! 人は高い物ほど価値を感じるもの! わたくしは彼らに自立心を育てて差し上げたのです! それに善行33という数字……見てください! 私は見返りも求めず、道端の子供たちに水やパンを――」
ベル
「見返り求めずって、ぼやいていたよね? 宣伝になるからって♪ 鏡に映っていたよ♪」
ガルネ
「い、いやそれは経費の話でして! た、確かに……多少は不当な取引も……ありました。しかし、しかしです閻魔さま! 商売とは戦! 弱肉強食の世界! 私が悪いのではなく、社会が私をそう――」
(言い逃れを続けるガルネの言葉を遮るように、雅閻魔大王が立ち上がる。その瞬間、法廷の温度が急激に下がり、大王の放つ神威にガルネは息を呑んだ)
雅閻魔大王
「黙れ! 俗物が。――先ほどから聞いておれば、吐き気のするような言い草よ」
ガルネ
「ひっ……!」
雅閻魔大王
「汝は『商売は戦』と言ったな? ならば問おう。戦とは、己を信じてついてきた者を後ろから刺すことか? 汝が『理』と呼ぶものは、ただの『卑怯』の言い換えに過ぎぬ。商いとは本来、信頼という名の魂の取引。汝はその尊き信頼を泥で汚し、あろうことかこの厳格なる法廷においてさえ、己の舌を金に替えようと試みた!」
(大王の瞳が紅く燃え上がり、法廷全体が地響きを立てる。その様子にガルネが膝から崩れ落ちた)
ガルネ
「わ、私は……私を信じてくれる人間が……怖かっただけなんだ……ど、どうかもう一度……! 善行を……善行を足して……! 無罪に……!」
雅閻魔大王
「善は積むものであり、盛るものではない! 虚飾で塗り固めた帳簿が、この閻魔に通用すると思うたか! 汝の魂、もはや救うべき一滴の誠実も残っておらぬわ!」
ぽん吉
「ヒェッ……! 大王様、マジギレや……! 初回からフルスロットルやで!」
ベロス
「静粛に! これより、雅閻魔大王様から判決を承る!」
【判決】
雅閻魔大王
「被告人ガルネよ――その舌は金に染まり、真実を売り払った。その業が魂の秤を決定的に悪へと傾けさせた。さらにそなたは法廷の場で虚言を申した罪にて、今すぐ舌を引き抜き、八大地獄・第二階層・黒縄地獄にある、十六小地獄・
(鏡が上に上がり、証言台の床に黒い縄が伸びる)
ガルネ(叫び)
「ま、待ってくれぇっ! 再審をっ、裁定のやり直しをぉぉ!! グッへっ」
(雅閻魔大王の二つのペンチが空中を舞い、一つはガルネの身体を抑えつけ、もう一つはガルネの舌を引き抜いた直後、地獄の黒縄が巻きつき、彼の体を地の底へ引きずり込む。ガルネの断末魔が勘定熱縄の間へと消えて行き、堕ちたガルネが浄玻璃の鏡に映し出される)
【勘定熱縄の間アフター】
灼熱のそろばん、計算し尽くせぬ罪の帳簿。
執行場所:八大地獄・第二階層・黒縄地獄
十六小地獄・勘定熱縄の間
刑罰内容
1. 灼熱の座: 全裸で、赤く焼けた鉄玉の巨大そろばんの上に正座させられる。
2. 終わらぬ検算: 鬼の獄卒から、生前の全詐欺取引を正しく計算するよう命じられる。
3. 黒縄の制裁: 計算を一桁でも間違えるたび、熱せられた黒縄が指に食い込み、一本ずつ指を焼き切る。
ガルネ
「ひぃぃ、指が! 計算が合わない! 痛い! 熱い、熱いっ……! もう嘘はつきません! お慈悲を〜再審のお慈悲を!」
地獄に慈悲はない。
商人の命である「指」を失う恐怖と、焼ける肉の臭い。彼が騙した人々の怨嗟が詰まった帳簿を前に、ガルネの終わりのない「地獄の残業」が続くのであった。
雅閻魔大王
「商いの道は善悪の狭間。真に誠実な者のみ、魂を利とできるのでな。――これにて第1裁、結審とする!」
ベル
「雅閻魔大王様の御宣言により、裁判は正式に結審いたしました~♪ 本日、ここに黄泉の第五裁判所は閉廷となります♪」
【傍聴席リポート】
ぽん吉
「……再審、通るわけないやろ」
エリック
「嘘で作った人生、最後は縄で縛られる……皮肉ですね」
【エンディング】
エリック
「……結審しました。圧倒的な迫力でしたね。大王様の一喝、傍聴席まで魂が震えました……」
ぽん吉
「あの商人の顔、最後は真っ白やったな。地獄の生中継、初回からとんでもないもんを見せてしもたで」
エリック
「コメント欄も、今の判決で大盛り上がりですよ。次はどんな魂がこの法廷に引きずり出されるのか……生放送ならではの予測不能な展開を、これからも見届けたいですね」
ぽん吉
「番組をご覧の皆様! 初の生中継、最後まで付き合ってくれておおきに。地獄ではどんな虚言も通用せえへん。次はあんたの隣の席の奴が呼ばれるかもしれへんで……。次回の審理も、絶対に見逃したらあかんで~!」
エリック
「視聴者の皆様、あなたの帳簿は――今、何割でしょうか?」
ぽん吉
「自分は違う思っとる奴ほど、危ないんやけどな」
エリック
「それでは皆さん、また次回、この『雅閻魔大王の裁きの間』でお会いしましょう。地獄の沙汰も、すべてはライブで決まる。あなたの魂の行方を、次回もどうぞお楽しみに!」
提供
この番組は――黄泉チューブ株式会社、閻魔庁、そして黄泉の国の未来を支える冥府ホールディングスの提供でお送りしました。
来世もあなたの隣に――魂の行方を、また次回お会いしましょう。
次の更新予定
雅閻魔大王の裁きの間 ―第五裁判所・魂の最終審判 かみちん @kamitin
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