1章:俺達は世界の嘘を暴かなければならない
1節:ようこそ五分前の世界へ
01話:ようこそ五分前の世界へ
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◇◆◆◆
「なあ、おい」
……
「聞こえてんだろ」
……ん?
「お前なら聞こえているはずだ」
……うるせぇな。
「頼む」
……だから、うっせぇって。
「お前の世界は変えてほしい」
……はぁ?
「俺達を絶対に忘れるな」
何言ってんだよ……お前はさぁ?
「カオル、マキ、フウリ、トモミ、そしてユキのことも」
誰だよソイツらは……
「皆がここに居た事を……お前は、お前だけでも」
どうか――
――覚えていてくれ。
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「……」
俺は目覚め、よだれを垂らしながら頬杖を突いていた。
ここは大学の講義室であり、時刻は11:45と針時計が示していた。
教授が描く昔のゲームにでも使いそうなセーブ呪文に俺はやられていた。
きっと魔法だ。
催眠魔法に俺は掛かっていたに違いない。
「目覚めましたね……勇者カツヤよ」
隣に座る腐れ縁の女友達がなんか話す。
眼鏡にくせ毛気味のミドルヘアー中肉中背で近くのホームセンターで安く売っていたと聞いた可愛いワンピースを着る彼女は目を閉じながら優しい声色で語りかけてくる。
「私は大天使サナエル」
コイツの名前は竹人カオル。
俺と同じ年齢は20歳。
「勇者カツヤ、貴方はトラックに跳ねられて死んでしまったのです」
最近web小説にハマっているらしい。SFジャンルがVRMMOばっかりでプリプリしていたが、今は異世界転生して無双するのが彼女の中でブームらしい。
そんなことよりどこから寝落ちしたのか覚えてない。自分のノートと教授の黒板を必死に見比べた。
「哀れな貴方に、転生者特典を授けます。何のスキルをご所望で?」
「すまん、後でノートを写させてほしい」
「フッ……」
鼻で笑われる。
「写映の魔眼……相手の動作を読み取り、相手の体術や魔法詠唱を完璧に模倣し体得するチートスキル! 勇者カツヤはこれを使って俺つえーするんですねわかります。ならばその願い、叶えて進ぜよう!」
「いやーそんな物より金と単位がほしいな」
俺は現実的に欲しいものを伝えた。
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因みにこの竹人カオルという女は小学校の頃からの付き合いだ。
いわゆる幼馴染みである。
小学校では仲良く遊び、
中学校ではネトゲームをし、
高校でもネトゲーをし、
大学進学で、奇跡的に同じ大学に通うこととなったのだが……俺の1つ下
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同学年の為同じ講義を受けている。
「はぁ……夢が無いねカツヤ君。もっと、ノリが良くても良いんじゃ無いですかー? ウオゥオウオーイェイイェーてな感じで!」
不満そうに文句を言う。
「一応ウチ女の子なんだからさ、もっとウェーイ! みたいなさ。大学デビューで茶髪にも染めたんでしょ? 調子乗ってまーす! みたいな元気になっても良いんじゃ無い? あ、でも調子乗りすぎてタトゥーとか止めときなね! それは流石に
「どきゅんってなんだ?」
話が長いがようは元気に喋れということか……。
「まあ、確かにな……髪を染めたのも高校生の時よりも社交的になろうと思ったからだからな。テンション頑張って上げてみるよ」
「ムフフ、もしかして、髪を染めれば格好良いとか思っちゃったやつね! 可愛いなぁカツヤ君」
「なんでやねん」
俺の軽いノリ突っ込みをした腕がカオルの顔にぶつかる。
「いっだぁ!?」
「あ、す、すまん。突っ込みの位置が高かった……」
「のぉ~ずぅ……」
鼻を押さえながらくだらない事を言える余裕はあるみたいだった。
――覚えていてくれ。
「……」
突然頭の中を過ぎる言葉。
どういう夢なのかさっぱり思い出せないが脳裏にその声がこびりつく。
俺の声だったか?
夢にしては妙に現実味があり、今さっきまで何かが起こっていたような……
その時だった。
『鼻が折れた慰謝料として夕飯……』
『ね、ねえ、カツヤ君。あれ……』
「え?」
カオルの声がブレて多重に聞こえた。
気のせいかと思って彼女を観ると講義室の前を指さしていた。俺も視線を向ける。
「……」
俺達以外にも視線が集中していた。
講義を行う教授の目の前を一人の女子学生が通り過ぎた。
髪型はショートポニーテールで地味な服装の学生だった。
講義を途中で抜け出す学生なんて良くいるが、教授の目の前を通り過ぎていく奴はたいした度胸だと思う。
尊敬はしないが。
「まったく、最近の学生は……」
静まり返る室内に教授の呆れた声が響く。
女は振り向かず無言で教室を去って行く。
教室内の学生達も口を半開きにしている者や小さく笑い始めている者達もいる。
不意にカオルが呟く。
「お腹空いてたのかなあの子?」
「ブッ!? ……それ、面白いな」
俺は思わず吹いてしまった。
あと20分ぐらい我慢しろよとかいろいろ突っ込みを入れたかったが……
異変が起きてしまった――
「あ……ああ……あ……」
俺達は……いや、教室の皆が唖然としたであろう。
教授が急に動かなくなり身体の形状が変わっていく。
何かが皮膚を突き破り、変な物が体から生えてきた。
枝?
植物なのか?
皮膚が破れ、教授だった肉の塊が血を吹き出しながら倒れた。
「あああああああああああああああああ!」
今度は違う場所から絶叫が響きわたる。一番前の席に座っていた生徒が首を押さえながら暴れ狂い始めたのだ。
「あ……ああ……あ……」
そして彼も動きを止め、体中から木の枝が生え始めた。
枝の生えた肉塊はその場に倒れる。
「う、うわああああああああああ!」
「きゃああああああああああああ!」
もはや講義どころの騒ぎではない。
学生達は散り散りに教室から飛び出し、その場で嘔吐しうずくまる学生もいた。
「……」」」
俺とカオルは、状況が掴めないまま、その場から動けなくなってしまった。
だが、ふと教室の出入り口に立つ人物の姿が視界に入った。
「……」
ポニーテールのあの子が俺達をジッと見て立っていた。
華奢な体付き。
その顔はよく見ると可愛いらしい顔立ちで、優しそうな印象を受ける。
俺と目が合うと、それに気づいたのか無言で教室から立ち去った。
「アイツは……」
「カ、カツヤ君、し、知り合いの人?」
と、カオルに尋ねられるが俺だって彼女のこと何て知らない。
ずっとここに居るわけにもいかない。
俺は首を振り席から立ち上がった。
「俺達も外に逃げよう!」
「う、うん!」
俺達は教室から逃げることにした。
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