02話:赤い空、黒い雲
外へ出ると大学内は騒然としていた。
至る所に、草木の生えた肉塊が転がり血だまりが広がっている。
「いったいどうなってんだよ……」
「な、なにこれ? 何なのこれ!」
カオルも半泣きで怯え自然と俺の服を掴んでいた。
いったいどうなっているんだ?
先ほどまで、何も無い平凡な日常だったはずなのに……
「ね、ねえカツヤ君! う、上見て!」
怯えていたカオルが真上を指さす。
俺も空を見上げた。
「空……だよな?」
今現在は昼前のはずだ。
俺の目に映る昼の空は、決して群青なんていう平和的な色はしていなかった。
赤だ。
夕日のような暖か味のある橙色でもなく、血で染まった赤い空。
雲は黒ずんで世界が反転してしまったかのようだった。
まるで……ここは地獄だ。
これは夢か?
これは夢ではないのか?
人を押しのけ我先にと逃げ惑う人々を避けるため、俺達は一旦物陰に隠れた。
「くそッ……何が起こっているんだ」
「私達も……死んじゃうのかな?」
頭を抱える俺にカオルが心細そうに呟く。
このままでは死ぬかもしれない。
でも、このまま何も分からないまま死ぬ何て嫌だ。
「心配するな……俺達は必ず助かる」
俺は根拠も何も無い言葉でカオルを励ます。カオルとは腐れ縁の仲だが、それなりに愛着は持っている。
カオルまであんな死に方をするなんて想像したくない。
「……警察に電話しよう」
混乱する頭の中で助けを求めることを思い付く。
携帯を取り出し110番に連絡をするが、いくら待っても電話が繋がる気配がない。
「ダメだ、繋がらない」
一応119に連絡しても繋がらなかった。
公的機関が動いてくれないと、ますますどうすれば良いのか分からなくなる。
助けたいと思うばかりで、良い考えがまったく思い浮かばない。
どうする……どうすれば……
「あ!」
カオルがいきなり声を上げた。
「ど、どうした!?」
「こ、こういう非常時になったら、連絡して集まってくれってサークルの先輩に言われてるんだった」
俺は「はぁ?」と思わず声を上げてしまう。
「それは地震とか火事とかの話だろ! 今はそれどころの話じゃない。テロとか、細菌兵器とか……とにかく今すぐ逃げなきゃいけない時だろう!」
俺は思わずカオルを怒鳴りつけてしまう。
それにカオルは涙目になりながらも言い返してくる。
「で、でも! 逃げるって言っても何処に!」
「そ、それは……」
俺達が不毛な言い争いを続けていると、突如カオルのポケットからコミカルな音楽が流れてくる。
「うわっ着信!? だ、誰?」
「こんなタイミングで?」
カオルは慌てて携帯電話を取り出す。
「大野先輩!? さっき言ってたサークルの先輩だよ! グッドタイミング!」
カオルは急いで電話に出る。
「あ、おい!」
電話をしている場合ではないという前に彼女はとってしまった。しばらく何かを聞いているように「はい!」と連呼を続けた。
そしてカオルは携帯をしまい、こちらを向く。
「先輩が、安全な場所を見つけたから一緒に行こうって!」
「安全な……場所?」
こんな状況で安全な場所なんてあるのか?
「大丈夫! 大野先輩は変人だけど嘘は吐かないし、凄く信用出来る人だから! だからカツヤ君も一緒に来て!」
カオルは涙を拭い俺の手を引いてくる。 引っかかる所は沢山あるが、正直藁にも縋りたい思いだ。
「……仕方ないか」
正直行く当ても無い、
俺はカオルの後に付いていく事にした。
◇◆◆◆
カオルに連れてこられたのは部室棟の一角の部屋。
何の部室だか見忘れてしまったが中を一言で表すとごちゃごちゃとした事務室だった。
そして気になる事がある。
「……血の臭い?」
外が血だまりだったせいで鼻についたのかもしれないが、部室にこもっているのかより濃い鉄の臭いを感じた。
この部屋にも……あの木の苗床となった死体があるのかもしれない。
「あれ? 誰もいない? 皆いるって言ってたのに……」
カオルも部室を見渡す。
皆いると言っていた?
そして、このクラクラしてくる血の匂い……
俺は嫌な予感がしてカオルに話しかけようとした。
その時だった……
「……ッ!?」
突然カオルの背後に高身長の人影現れ、彼女の口を押さえた。
「……え?」
俺が呆気に取られると、少量の液体が顔に付着した。
生温かい鉄の匂い。
目の前には口を塞がれ喉元にナイフを突き刺されたカオル。
血を浴びながらも無表情にカオルを……刺すボーダーの服を着た男が立っていた。
男はナイフを抜くとおびただしい血が噴き出し糸の切れた人形のように彼女は倒れた。
「カ、カオル!?」
「今回は居るパターンだね……松本カツヤ君」
高身長に短髪黒髪眼鏡男。
男はまったく感情を出さない淡々とした口調で俺の名前を呼んだ。
「どうして……俺の名前を……」
「そりゃね……覚えるよ。竹人君と一緒だし……」
そう言いながら、カオルを刺したナイフをこちらに向けようとした時だった。
「……くっ」
彼は急に腹部を押さえ始め片膝を突く。
「今回は……早いな」
訳のわからないことを口にすると、突然彼の腹から例の木の枝が生え始める。
「君を殺せなくて……すまないね」
俺に何故か申し訳なさそうな顔を向け、カオルを刺した男も動かなくなった。
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