心を満たす最後のこと

 “復讐”

僕は自然とこの言葉を知った。

便利な言葉だよね

怒りが力になるんだ

不思議と力が湧いてくる

気分がいい。


 その方法はパッと頭に浮かんだ

先回りするのが吉。

枯れた大地を精一杯走って草を求めた。

その道中で仲間に何人も会った。

協力する者も居た。

ひとりじゃない

でも心は満たされなかった。


 そして着いた。

そこではチョウが戯れ

トンボが水辺に訪れる

カラスがまさに毛をむしりに背中に乗った。


ここだ ここがいい

よく似たこの地に腰を下ろした。


いつしか僕の頭には立派なツノが生え

肉食動物も手出しできない安泰の地になった。

そうして“そのとき”をじっと待った。




 むせかえりそうなにおい。

耳が痛くなるほどの爆音

大きな乗り物

人間

復讐のときは来た。

仲間を素早く水辺へ逃した。

人間の取り巻きがにおいを辿って追い詰めるからだ。

僕ひとりでじゅうぶん。

きっと僕を生んだ人も

おじさんも

こうして守ってくれたのだろう。


でも僕は誰も守らない。

ふふっ…鬱憤晴らしもいいところだ

でも、

僕が幸せであれる地を

僕が守ってなにが悪い。

これ以上灰に変えさせない

人間だって肉食動物なんだから立ち入り禁止さ



木漏れ日が味方する。

陽が当たって気持ちがいい


風が味方する。

人間に向かって吹いて立っているのもやっとらしい


そして僕のツノ

取り巻きにはよっぽどこわく見えるらしく

きゃんきゃん泣いて行った。


さあ、人間。

お前はどうする

逃げないなら僕はツノで吹き飛ばす

逃げるなら追わない

僕はここから動かないぞ。


「……??!?」


やっぱりなんて言ってるか分からない。

でも、そのまま乗り物に乗って逃げていった。


「…たすけてー!」

振り向く。

途端、あの嫌なにおいがした。

水辺の方だ。



 自慢の足で駆けつけると灰になるところだった。

これは人間のせいじゃない。


「急いで水の中へ!そして水を撒いて!」

おじさんがそうしていたから。

この灰になる途中は水で消えると教えてくれたから。

ときには草を踏んで消すのも。

蹄はそこまで熱さを感じない。

こんなに消すのがこわいんだ。

おじさんはためらいなくやってくれたんだ




さて、僕の知りたいことはもうない。

あとはおじさんのお土産でもゆっくり考えようかなぁ!


 そう思い木漏れ日に目を瞑る

だんだん体の力が抜けてくる。

濡れた体ももう乾いた頃。




「おつかれさま」


「待っててくれてありがとう、おじさん」

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愛を知らない私へ 柳 アキ @Aki_Yanagi

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