第25話 仲間と紡ぐ未来
港町の空は淡い朝焼けに染まり、潮の香りが街全体に漂っていた。ルクシアは小型飛行機の座席に腰掛け、窓の外に広がる港の景色を目に焼き付ける。波のきらめき、停泊する船、港町独特の活気――どれも彼女の胸を高鳴らせた。
「わぁ、すごい……港町って、思ってたより賑やかね!」ルクシアは思わず声を上げた。
リーナは運転席から笑顔で振り返る。「でしょ? この町なら、きっと情報も集まりやすいわ。さ、降りましょうか」
飛行機が滑走路に着地すると、ルクシアは慎重に足を踏み出した。砂混じりの港の地面は、冒険者としての足取りを確かめるように感じられた。
「ルクシア、まずは市場に行くわよ。地元の人がよく集まる場所だから、情報収集には最適よ」リーナは手早く街の地図を広げ、指で目的地を示す。
二人が市場に到着すると、色とりどりの屋台、行き交う人々、魚の匂い、香辛料の香り――すべてが入り混じり、港町ならではの喧騒を作り出していた。ルクシアは胸の中で小さな興奮を感じながら、リーナに続いた。
「ねえ、リーナ。この街でリア、ミルダ、アッシュのこと、聞けるかな?」ルクシアは期待を込めて尋ねる。
「大丈夫よ。まずは噂話を聞き込むの。市場の人は色々知ってるから」リーナはそう言うと、屋台の店主に向かって挨拶した。ルクシアも自然に笑顔を作り、隣で聞き耳を立てる。
情報収集は思ったよりも早く進んだ。港町に滞在しているトレジャーハンターや、商人、劇団関係者などから、少しずつ手がかりが集まってくる。ルクシアはクロックハートが指で淡く光るたび、少しずつ胸の高鳴りを感じる。――あの力が、ここでもきっと役に立つ。
「ルクシア、この街に来ている人たちの話を総合すると、リア、ミルダ、アッシュは近いうちに港の劇場に顔を出す可能性が高いわ」リーナが地図を指しながら言った。
ルクシアの目が輝く。「本当に会えるかもしれないの……!わくわくするね、リーナ」
「ふふ、楽しみね。でも油断は禁物よ。港町はただの町じゃないから」リーナは注意を促すが、ルクシアの心は冒険の期待でいっぱいだった。
二人は市場を抜け、宿屋や港に停泊する船、船員たちの集まる酒場を巡りながら情報を精査した。ルクシアは街の人々に自然に溶け込み、笑顔で話すたびに信頼を勝ち取っていく。リーナもその様子を微笑ましく見守った。
「ルクシア、あなたって本当に人を惹きつけるわね」
リーナが感心した声を漏らす。「こうやって情報を集めるのも、あなたなら簡単にできそうだわ」
ルクシアは少し照れながらも、心の中で決意を固める。――クロックハートの力を持っているからって、ただの道具じゃない。私自身の力でも、人の役に立つんだって。
夕暮れが港町を包み始める頃、二人は小さな港沿いのカフェに腰を下ろした。リーナは持ってきたメモ帳に今日の情報を整理し、ルクシアは指についたクロックハートをそっと見つめる。
「ねえ、リーナ。その人たちに、早く会いたいね」ルクシアの声には、期待と冒険心が溢れていた。
「ええ。でも準備は万端にね。次に会うときは、私たちももっと強くなっていなきゃ」リーナの瞳もまた、決意に満ちている。
港町の灯りが少しずつ輝き始める中、ルクシアとリーナは情報収集を終え、次の行動を思案する。北の港町での冒険はまだ始まったばかり。二人の心には、再会の期待と、新たな冒険への希望がしっかりと息づいていた。
その時、港町の広場の一角で突然の騒ぎが起きる。数人の粗暴な男たちが、荷運びをしていた商人に因縁をつけているのだ。ルクシアの心は即座に反応した。
「……また、助けなきゃね」小さく呟き、ルクシアは手首のクロックハートを握る。
男たちは近寄ってきたが、ルクシアはすかさず『重力操作』の力を使った。周囲の空気が微かに歪み、男たちの足元に圧力がかかる。男たちは突然転倒し、慌てふためく。
「な、なに……!」男の一人が叫ぶ。
「私はルクシア、トレジャーハンターよ。悪さは許さない♡」ルクシアは軽やかに飛び退きながら、クロックハートの光を手首に集中させる。男たちは全力で逃げ出した。リーナも驚きと共に拍手を送る。
「すごい……本当に力を使えるんだね!」リーナが笑顔で言う。ルクシアも息を整えながら微笑んだ。
騒動の後、二人は港町の宿屋に入り、荷物を置いて休息することにした。ルクシアは旅の疲れを湯船に浸かって癒すと、温かさに包まれながら思った――この力は、私自身を守るためだけじゃなく、人を助けるためにも使えるんだ、と。
休息の後、二人は港沿いのカフェに腰を下ろし、今日集めた情報を整理する。リーナはメモ帳に要点をまとめ、ルクシアは指先のクロックハートをじっと見つめる。
日が傾き、港町の灯りがぽつぽつと輝き始める。二人の心は、再会の期待と、未知なる冒険への希望に満ちていた。港町での一日は終わりを告げるが、ルクシアの旅はまだ始まったばかりだった。
北風が港町を吹き抜け、ルクシアの髪を軽く揺らした。彼女は小型飛行機の翼から飛び降り、慣れた手つきで荷物を整える。隣にはリーナが楽しげに笑いながら、次の目的地を指さした。
「さあ、情報を集めに行きましょう。あの三人を探さないと」
ルクシアはクロックハートを指で軽くなぞりながら、胸の高鳴りを抑えた。初めて会う人たちとの出会い、そして自分の力が役立つかもしれない期待。冒険心が身体の奥でうずいた。
街を進む二人。港町の通りは人々の喧騒で溢れ、魚市場の匂いや潮の香りが混ざり合っていた。
「この劇場の近くに彼らがいるらしいの」
リーナの指示に従い、ルクシアは細い路地を抜け、古びた劇場の前に立つ。木製の扉には使い込まれた跡があり、歴史を感じさせる。
「うわ……立派な建物だな」
ルクシアは思わず息を呑んだ。ここで待っている人たちは、どんな力を持っているのだろうか。胸の奥でわくわくと不安が入り混じる。
リーナが扉を押し開け、二人は静かに中へ。暗がりの中、舞台の上にはリア、ミルダ、アッシュの三人が立っていた。ルクシアは自然と背筋を伸ばし、警戒と好奇心を混ぜた目で彼らを見つめる。
「……はじめまして。私はルクシア、トレジャーハンターよ」
小さな声ながらも、自信を込めて自己紹介する。クロックハートが淡く光り、指先で微かに振動した。
リアが驚いた顔でルクシアを見返す。
「……トレジャーハンター?」
彼女の瞳には警戒と興味が入り混じる。ルクシアはすぐに微笑みを返す。
「ええ、旅の途中でリーナと出会ったの。あなたたちに会えるって聞いて……」
リーナがルクシアの横で軽く頷く。
「クロックハートを知ってるって聞いて、彼女も興味津々みたいよ」
ミルダが首をかしげながらも、ルクシアの手元を見て小さく息を漏らす。
「それ……クロックハート……?」
ルクシアは頷き、ほんの少し誇らしげに答えた。
「そうよ。力があるんだ、でもまだまだ使いこなせてないけどね」
アッシュは腕組みをし、少し距離を取りながらも観察をやめない。
「ふーん……なるほど、面白そうな子だな」
ルクシアは胸の高鳴りを感じつつも、自己紹介の最後に一言添えた。
「これから一緒に行動するかも……その時はよろしくね」
リアは少しの間沈黙した後、口を開く。
「……よろしく。あなたがどんな力を持っているのか、楽しみ」
その瞬間、ルクシアの胸に決意が湧き上がる。
「よし、私も全力で力を使おう。冒険は、まだまだこれからだ」
港町の劇場に、静かな緊張と期待が漂った。ルクシアの旅は、新たな仲間と共に一歩踏み出したのだ。
数日前、リア、ミルダ、アッシュの三人は北の港町でひと息ついていた。旅の疲れを癒すために街の宿に滞在しつつ、周囲の情報を集めていたのだ。港町は商人や旅人、そして時折現れる空賊で賑わっており、重要な情報が手に入りやすい場所だった。
その最中、三人はある噂を耳にする。空賊たちが港町の古びた劇場を取引の場として使うというものだった。安全な距離から見張るため、三人は劇場に潜み、動きを監視していたのである。
「ここからなら全体が見渡せるね」
ミルダが低く呟き、目を光らせる。
「情報は命に直結する。油断はできない」
リアは背筋を伸ばし、舞台の奥を見据えた。
アッシュは腕を組み、軽く笑みを浮かべる。
「まさか、こんな場所で空賊の取引を……港町も油断できないな」
そのとき、舞台の入り口に軽やかな足音が響く。扉が押し開かれ、小型飛行機で到着した二人――ルクシアとリーナ――が姿を現したのだった。
ルミナスの格納庫の扉が静かに閉じられると、リーナの小型飛行機は音もなく静止したまま、艦内の広々とした空間に溶け込んだ。ルクシアはその光景に思わず目を見張る。金属の冷たい光と、内部の柔らかな照明が混ざり合い、何もかもが異世界のように見えた。
「すごいわ……この艦、まるで空に浮かぶ都市みたい」
ルクシアは胸の高鳴りを押さえつつ、手元のクロックハートを軽く撫でた。淡い光が装置の内部で揺れ動き、まるで生きているかのように脈打っている。
リアはその様子を笑顔で見つめ、肩をすくめた。「ふふ、見慣れた光景だけど、初めて見る人には驚くよね。でも大丈夫、ここは私たちの秘密基地みたいなもんだから」
「リアの秘密基地……なんだかワクワクする言い方ね」
ルクシアは少し口元を緩める。だが、視線を感じて振り向くと、リアとミルダ、アッシュが並んで立っていた。三人とも戦闘経験者の落ち着いた雰囲気で、軽くルクシアを観察している。
「……そのクロックハート」
リアの声は低く、冷静そのものだ。ルクシアが頷くと、リアの視線はさらに鋭くなった。「ただのクロックハートではないよね。持ち主の意志と連動している可能性が高い」
「私、まだ全部使いこなせてないんだけど……この子、いろんなことができるの」
ルクシアはクロックハートを手に取り、ゆっくりと浮かせた。光が彼女の指先から指先へと滑る。ほんの一瞬、重力が微かに歪む感覚が伝わり、ルクシアの心拍が早まる。
ミルダが前に一歩踏み出す。
「これ、戦闘で使えたら……無敵に近いな。でも、制御を誤れば大事故になる。危険も大きい」
アッシュも続けて頷く。「戦略的に考えれば、クロックハートは情報収集や移動支援にも使えるだろう。だけど、依存しすぎは危険だ」
ルクシアは少し俯き、ため息混じりに答えた。「私は……英雄じゃない。だから、無理して人を守るために戦うつもりはない。でも、この力を知ったら、ただ放っておくこともできないの」
その言葉にリーナはにっこり微笑んだ。「ルクシア、わかるわ。力があるなら、自分のためにも、誰かのためにも使いたくなるのよね。無理しなくてもいいけど、一緒に使い方を考えましょ」
艦内の照明が柔らかく光を反射し、五人の影が床に重なった。窓から差し込む光にクロックハートの光が揺れ、幻想的な景色を作る。ルクシアはふと、自分が孤独じゃないことを実感した。
「ねぇ、このクロックハート……どうしてこんなに光るの?」
ルクシアの問いに、リアが腕を組み、慎重に言葉を選ぶ。「クロックハートは持ち主の意思を反映するものだと思うの。光の揺れ方や強さで、使用者の感情や集中度も影響するかもしれない」
「それって……意志を持ってるみたいなものね」
ルクシアは指先で光をなぞりながら、装置の中で微かに脈打つ光のリズムを感じ取る。胸の奥で、心が小さく震える。
「戦闘面だけじゃないわ、この子には可能性があるの」
「……見ぬ世界」
ルクシアは呟き、窓の外の水平線を見つめる。風のように静かな決意が胸に広がった。「私、この力を無駄にしない……必ず、自分の旅のために、そして大切なものを守るために」
ミルダが軽く微笑む。「ならば、私たちも協力する。危険を分かち合い、情報を共有することができる仲間になる」
アッシュも同意し、リアも目を細めた。「慎重に、でも前に進もう。クロックハートの力は計り知れない。だからこそ、扱い方を共に学ぶべきだよ」
ルクシアは深く頷いた。五人の結束が、静かに、しかし確かに感じられる。クロックハートの光が五人の顔を柔らかく照らし、艦内は暖かな空気に包まれた。
「じゃあ、最初に何から始める?」
リーナの明るい声に、ルクシアは少し照れた笑みを浮かべる。「まずは……この子の力をもっと知ることね。そして、皆と一緒に試す。安全に、確実に」
「情報収集も重要だ」
リアが言う。ミルダとアッシュも頷く。クロックハートの持つ未知の力を理解するため、五人の討論と計画は夜を越え、艦内に静かな活気をもたらす。
ルクシアの心には、これまでになかった安心感と期待が芽生えた。孤独な旅ではなく、仲間とともに歩む未来がここにある――クロックハートを巡る物語は、まだ始まったばかりだった。
灰空のオートマタ hajime @hajime0
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