第3話 外来種
「じゃあ、悪いけど私もう、」
そう言いかけた優寡にかぶせるようにして、なあ、と切り出す。一番後戻りのできない質問を投げかけた。
「その剣、あの化け物みたいなやつと戦ってたのか?」
瞬間、彼女の顔が凍り付く。数秒の沈黙がその場を支配するなか、風だけが、何も知らないような顔で二人の間を悠々と流れていく。
「なんで?もしかしてあれがみえるの?」
「みえる、ってどういうことだよ。見えないことなんかあるのか?あの化け物は幽霊か何かなのかよ。」
「...幽霊、とは違うと思うけど。」
ふと気づく。そういえば今の状況を把握できていない。彼女が怪我をした原因が、本当に夢で見た通りの化け物なのかを確認したい。おれは河原のほうに足を向ける。が、袖をつかまれて引き留められた。
「まって。おねがい。あんまり見てほしくないの。」
「なんでだよ!もうどうにかなったんじゃないのか?」
「友達が、」
「ん?」
「友達が、しんでるから。」
ああ、なんて察しの悪い。あの夢の通りなら、ここに彼女一人しかいない時点で気づいてしかるべきなのに。
「わ、わるい。」
「ううん。」
また、沈黙がながれる。しかしこのままではらちが明かない。彼女はおれが化け物について知っているのを訝しんでいるようだし、おれは状況の確認がしたい。意を決して再び切り出す。今度は慎重に、言葉を選んで。
「えと、確認がしたいんだけど、おれがしってる化け物はなんかこう、毛むくじゃらで、でも硬そうで、足が四本に手が二本あって。犬みたいな顔をしてた。」
「うん。それが私たちが外来種って呼んでる人間を襲う化け物。どこでみたの?口ぶりからしていまの戦いを見ていたわけじゃなさそうだけど。」
「それは...」
「外来種はね。基本的に人間には見えないの。どうしてそうなってるのか詳しいことはわからないけど、あいつらが擬態したくてそうしてるのかも。でもそれには例外があって、外来種に襲われたり、親しい人が被害に遭ってるのを目撃したり、そういうショッキングな出来事があるとね、そのひとはある種の覚醒を経て外来種を視認できるようになる。でもそんな状況から逃げ切るなんてそうそうできないから、あいつらを見ることができる人は稀なんだよ。」
たしかにおれは夢で、外来種とやらが教師を押しつぶしたのを確認している。でもそれはゆめの話だ。現実でもそいつらを見ることができるのだろうか。おれが考え込んでいる沈黙をどう受け取ったか、優寡はさらに続ける。
「それに、もし逃げ切れたとしても騒ぎになることが多いから、私たちが捕捉できるようになってるはずなんだけどな。」
「えーと、信じてもらえるかわからないんだけど。」
「なに?」
「実はな、おれは実際にその化け物、外来種?をみたわけじゃなくて、」
おれは頭のおかしいやつだと思われやしないか―もう手遅れかもしれないが―と思いながら夢について語ることを決めて、口を開いた。しかしその決意は、途中でさえぎられることになる。
ガン!
と強い衝撃音がして近くの地面、アスファルトが揺れる。
「ぅわあ!?」
情けない声をあげてたたらを踏んだおれは、結局バランスを保てずにしりもちをついてしまった。そして、目の前の砂ぼこりを見て思う。
―ああ、なんて察しの悪い。
あの夢が本当なら。化け物がこの河原にいた一匹だけであるはずがないのだ。
君の為の末路 @minamomeguru
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