泣かせたい女と泣きたくない女
お嬢
第1話 泣き顔を見せて
「ねぇ我慢しなくてもいいのよ、泣きたい時は泣きなさい」
「...いや。泣かないわ、子供じゃないもの」
「...ふぅ。よしよしいい子ね、繭は頑張りものね」
(はやく、はやく)
「ぅ...」
目の前で泣くのを必死に堪えている、愛おしい女の子。
彼女は私が高校に入ってからの友達で、初めて会った時から本当に可愛かった。
いじっぱりな顔をして現れたから、すぐにちょっかいを出したくなったけど――ぐっと堪えて優しく接してきた。
その結果、今ではこんなにも弱音を私にだけ見せてくれる。
“私にだけ”
あと少し、あと少しで泣きそう。
「っず、何でそんなに凛子は優しいのよ」
「繭にだけよ、優しくしたい子には優しくするものよ」
目がうるうるしちゃって、あぁ可愛い。
はぁっ早く泣いてみせて。貴方の綺麗な顔がぐちぐちやになるのをみたい。
「っずび。ふん...あっやだ鼻水が...見ないで」
片手で鼻を隠すようにかざし目が合わないように下を見ている姿にときめく。
はぁはぁはぁ、はぁっ。
「ねぇティッシュ持ってない?やばい、どうしょう」
「...もってないわ。ごめんなさいね、ちょっとかして」
繭の手をどかして親指で鼻下をそっと拭く。
「んっ、汚いから。早く拭いて洗ってきたら」
「大丈夫、汚くないから。ね、泣き止んだ?可愛い顔が台無しよ」
「ほんと天然タラシって罪だから。自覚ないとか関係ないからね」
キッとこちらを睨むようにして私の手を掴み鼻を拭いた手を自分の制服に擦り付ける。
あ、もったいない。
あとで味見しようと思ったのに....
「凛子...なんか目がキマってるけど...」
「え?あぁなんでもないわよ。どう落ち着いた?」
「ん...まぁ。これ以上学校にいたら見られちゃうかもだし...もう帰ろ...ありがとね」
下へ俯き髪で顔全体を隠しぼそっとお礼の言葉を伝えてくる。
「繭の力になりたいからやってるだけよ。泣きたくなったら教えてね。私が側にいるから、ずっと」
「私も子供じゃないもの!ずっとなんていらないわ!すぐに泣かないように強い女になって見せるから優雅に待ってなさい!!」
ダメ、強くなんてならなくていいの。
そのいじっぱりて弱くて、情けなくて、頼れる人も私しかいない。
そんな繭でいて。
もし、強くなろうとするんなら私が弱くさせないと。
誰にも強くなんてなんてさせない、繭にも。
「ええ、でも鼻水を出ないようにしないとよ。そんな顔してるうちはダメダメね」
「うっ、もう出さないし!!さっきのは花粉症よ!もう記憶から消して!」
また涙目になり恥ずかしそうにほっぺを赤らめる。
あぁ、それそれ。たまらない。
「嫌よ、あんな情けなくて可愛い顔は覚えとかないと勿体無いじゃない。ふふ」
「くっ、その顔は馬鹿にしてるでしょーー!!見てなさい、私が逆に凛子の泣き顔を拝んでやるわ!
「ふふ期待してるね。ほら帰りましょ」
机に放置されたバック2つを持ち教室を後にする。
「ちょっと!私のバック!!」
すぐに後ろから私を追いかけてバックに手をかけようとする。
「先に下駄箱に着いたら返してあげる」
子供みたいに思いっきり走り出す。
別に元気付けようとなんてしてない。
ただ何となく走りたかった気分なだけ。
「何よそれ!子供じゃないんだかーー!!」
そう言いつつも私の背中を追いかけてくる。
文句を言いつつも必死に追いかけてくる繭。
笑顔が戻ったその顔も、やっぱり可愛い。
泣き顔が一番好き。
でも、やっぱり笑顔も好き。
……その後、先生に見つかって二人そろって注意されたのは言うまでもない。
そしてまた繭が落ち込んで、私が慰めて――結局同じ展開になったのも、言うまでもない。
こんな普通で、刺激的で、楽しい日々がずっと続いていくなんて素敵じゃない。
明日もまた、繭の泣き顔が見れたら――きっと私は頑張れる。
泣かせたい女と泣きたくない女 お嬢 @maymyo
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