氷も時も溶けゆく【カクヨム短歌賞1首部門応募作】

天野せいら

氷も時も溶けゆく

 昼下がり、部屋の空気はぬるく重く、じっとりと肌に張りついて離れない。朝までは確かに動いていたエアコンが、昼過ぎに突然うんともすんとも言わなくなった。

 リモコンを何度押しても、沈黙だけが返ってくる。


 「……やばい」

 ひとりごとが、空気に溶けて消える。窓を開けても、外は熱の塊。蝉の声すら煩わしい。


 冷たい飲み物を求めて冷蔵庫を開けると、昨日買った氷の袋が光って見えた。グラスに山盛りの氷を落とし、水を注ぐ。カラン、と氷が鳴る音だけが、この部屋で唯一の涼しさだ。


 汗は止まらない。頭がぼんやりしてくる。それでも、氷水を飲みながら思った。

――この暑さも、いつか笑い話になるだろうか。

いや、修理が来るまでに倒れなければ、の話だけど。


・・・・・・・・・・


灼ける日を 逃げ場もなくて 汗にじむ

風は止まりて 時も溶けゆく


・・・・・・・・・・

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