ドジっ子ヒロインの胸の内

真野魚尾

ヒミツのおまじない

 こんにちは! 私、ミナミ!

 うちの職場は今日もてんてこ舞いですっ!




「ミナミさん! あなたという人は、いちいち声に出さないと数も数えられないんですか!? 聞いてるだけでイライラするんですよ、こっちは!」

「ま、誠に申し訳ありませぇん……」


 ひぃ~ん。お局の小言がキツいよ~。




「ミナミさん、荷物運びキツそうですね。僕も手伝いましょうか?」

「だ、大丈夫ですぅ。私は元気だけが取り柄なので、お構いなくっ!」


 後輩くん優しい~。好きぃ~。




「作業終わったならボーッとしてないで! さっさと書類の仕分け進める! アンタでもできる数少ない仕事なんだから!」

「主任っ、ご、ごめんなさぁ~い!」


 ふみぃ~。これってパワハラ寸前だよぉ~。




 あ~あ。今日も会社じゅう走り回って髪の毛が乱れちゃった。てへっ。


 私はトイレに駆け込んで、洗面台の前でコームを取り出した。

 鏡を見ながら、額に貼りついたバーコードヘアを丁寧にセットし直す。


(私はドジっ子ヒロイン……ちょっとあわてんぼうだけど、ひたむきで頑張りやさんなミナミちゃんなのだ……!)


 鏡の中の自分と向き合い、しっかりと暗示をかける。こうでもしなければ、とてもじゃないが、私はつらい人生を乗り切れる気がしない。


(……よぉ~し! 準備おっけー!)


 ミナミちゃんことみなみ信三郎しんざぶろう55歳、午後のお仕事もがんばるぞぉ~!

 お~っ!



〈おしまい〉

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ドジっ子ヒロインの胸の内 真野魚尾 @mano_uwowo

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