第10話王との邂逅・その二
莉緒は朝から、家の近くの庭、正確に言えばその一角にある畑に来ていた。
理由は簡単。フィーリアスが薬学を教えてくれるというのだ。
ちなみに、他の王たちも来ていたが、いつもフィーリアスの傍にいるシルフィアがいない。
理由をフィーリアスに聞いてみれば、
「昨晩、お楽しみだったみたいでさ。さっき覗いてみたらとても幸せそうだったよ」
とケラケラ笑いながら言った。ここで莉緒や眷属たちが顔を赤らめたのは言うまでもない。
「あの・・・、今日はここで一体何をするんですか?」
「ああ。なんとなく付いて来たが・・・」
「そこ、なんとなくでついてくんな。さて、、ここは僕の畑だよ。基本的な薬草はここで採るんだ。市販より効果が出易いんだよ」
そう言われて、莉緒は周りを見渡す。左は温室の特大ハウスが三つ、右は大きな畑が二つあった。どれもきちんと手入れされており、薬草、野菜が立派に育っていた。
「・・・・・・広くないですか?」
「ま、まあね。なんか家買ったら付いてきたんだよね」
どうやらこの畑の広さは、買った本人であるフィーリアスも予想しなかったようだ。
「何を育てているんだ?」
「ん。一つのハウスを二つに分けて春と夏の野菜、もう一つで秋と冬の野菜を育てているよ。あとの一つは果物だったかな」
「そんなに・・・!」
「開放している畑は、薬草だね。睡眠薬、滋養強壮薬、風邪薬などいろんな薬に使うものを育てているね。マンドラゴラもたくさん育てているよ」
「マッ、マンドラゴラもか・・・・・・」
「あれ? 嫌いだったっけ、バルディス」
「いや、嫌いではないが・・・、生は刺激が強いからな」
「ふむ・・・・・・」
バルディスの一言に、フィーリアスは顎に手を当て、考え始めた。時々うろうろし始め周りがソワソワする。
「あ、あの先生・・・?」
「師匠?」
莉緒とウルバトロクの声が聞こえたのか、不意に立ち止まる。
「「⁇」」
その瞬間、土の中に手を思い切り突っ込んだ。
「「⁉」」
バルディスを除く全員が驚く中、フィーリアスはその腕を引っ張り出した。
掴んでいたものが見えてきたと同時に、申し訳なさそうにシルフィアがやってくる。
しかし、それのある行動によって、失神してしまった。無論バルディスを除いた莉緒たち全員も、である。
では、それとは何か。
「「ギィィィィィィィィッィィィィィッィィ・・・・・・」」
人の形をした大根が二つ。共に目と口が雑に描かれている感じであった。
つまり、マンドラゴラが二つ抜けたのである。
「・・・・・・・・・」
全員が沈黙する中、フィーリアスがあーあと首を振った。
つまり、ある行動とは何か。
「「ギィィィィャァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアア」」
結果だけオブラートに包んで言おう。
・・・・・・そういうことである。
閑話休題
最初はアクシデントがあったものの、フィーリアスの薬学は滞りなく進んだ。また薬学と並行して、シルフィアから農業学についても教わった。
薬学では、薬の調合、薬草の種類、効能の付与など。農業学では、野菜を採り、調理、栽培方法などである。
「いやー、まさかここまで物覚えがいいとは・・・」
『はい。びっくりです』
楽しそうに薬学、農業学を学んでいた莉緒は、もう一人で調合ができるレベルに達していた。そのレベル到達速度に、フィーリアス、シルフィアは驚きを隠せない。
「いえいえ。先生たちの教え方が分かりやすくて上手だからですよ」
莉緒は謙遜するかのようにフィーリアス達のおかげだという。しかし、フィーリアス達は首を横に振って否定した。
「教え方がうまかったとしても、知識の吸収速度や実践までのレベルに到達できるかの技量は君個人の力でしか発揮できない。君にしか分からない。だから、誇っていいと思うよ」
『それなりの才能がなければ扱うことはできません。自分次第ってことです。これからも頑張ってください』
「・・・・・・はい‼‼」
彼女は嬉しいのか笑顔で、元気のいい返事をした。その輝いている笑顔に、フィーリアスは撃ち抜かれる。
「・・・ガッハァ‼‼」
『王? 王⁉ しっかり‼‼ お気を確かに‼‼』
切羽詰まった表情でシルフィアと莉緒がのぞき込む。すると、彼の眼からは涙が溢れていた。
「か、母さんとおばあちゃんが呼んでる・・・」
「誰の事ですか⁉」
『お婆様もお母さまもいませんよね⁉ 逆に気になるんですが!』
そんなこんなで数分後・・・
「いやー、莉緒の無意識の魔力にあてられて、参ってしまっていたようだよ。見てごらん。彼らも悶絶しているよ」
見ればバルディスもウルバトロクも前のめりに倒れ、気を失っていた。傍らでは、眷属たちがオロオロしている。
莉緒はその光景を見て、何度も思い切り頭を下げていた。
「すいませんすいません!」
「アハハ、別に気にすることじゃない。これからだよこれから」
「そうよー。今のうちに魅力を出しとけば彼ら、あなたにメロメロよ?」
「そうそう――ん?」
「あ、はい。そうですね――ん?」
莉緒とフィーリアスの会話の中に誰かが割り込んできた気がする。フィーリアスは咄嗟にシルフィアの方を見た。しかし誰もいない。すると、莉緒の方から小さな悲鳴が聞こえてきた。
フィーリアスは彼女にまとわりついた気配を感じ、呆れながら振り向く。
「早すぎないかい? 亡霊王」
そこにいたのは、莉緒に抱き着いている女性――亡霊王だった。傍らには滅亡王がいる。
「待ちきれなくなって・・・、来ちゃった♡」
「やあ、彼女がかの花嫁かい? 麗しいねぇ。亡霊王の次に」
「もう、お上手なんだから」
キャッキャッといちゃついている二人の間に挟まっている莉緒。困惑している。
フィーリアスはそんな彼女を自分の方に抱き寄せながら、呆れる。莉緒は、いきなりのことで心臓が高鳴る。
「‼‼」
「イチャイチャするなら、余所に行ってくれ」
「釣れないわねぇ、不明王。今何してるの?」
「見たところ、薬学かな?」
「そう、彼女に教えていたんだよ」
フィーリアスはそんなことよりと話を切り出した。
「さ、紹介しよう、莉緒。彼女たちは僕やバルディスと同じ王さ」
「え⁉」
「彼女が亡霊王。彼が滅亡王だ」
「よろしく」
「よろしくね? 莉緒ちゃん?」
「・・・・・・」
亡霊王は黒を基調としたモノクロドレスのスカートを摘まんで上げてお辞儀をする。しかし顔がデレデレとしており後ろで束ねた黒く長い髪がぴょんぴょん揺れていて少し気持ち悪かったのは端から見ていたオウリアの心の中に留まるところである。
滅亡王は肩や肘の銀色のプロテクターが付いた灰色のコートを揺らしながら紳士みたく礼をする。背中には彼よりも大きい大を背負っていた。
二人の王に挨拶されても莉緒は答えない。
その様子を見ていた亡霊王が彼女の顔を覗き込む。
「どうしたの?」
「あ、いえ、その・・・・・・」
「莉緒」
言いにくそうにしているところにフィーリアスが莉緒に助け船を出す。
「先生」
「いいよ本音言っても。彼女はちょっとの事じゃ動じない」
「え、でも・・・」
「大丈夫」
「・・・分かりました」
首をかしげる亡霊王に莉緒は意を決したように言う。
「正直、この人本当に王なのか疑っています。今も」
「なんで?」
「だって・・・威厳なくて、変態っぽいから・・・」
ピシィィィッッ‼‼‼ という音が聞こえた気がした。
亡霊王が俯き肩を小刻みに震わせ、滅亡王が顔のみならず体ごと白くさせ、莉緒は「何かまずいこと言ったんじゃないだろうか」とオロオロし始める。
実際とても失礼なことを言っているのだが、孤児院で逞しく生きてきて尚、自分より年下の子供にちょっかいをかけられたりしていたので、言動に対する遠慮や誠意、自粛精神はほとんどない。要は超が付くほど鈍感である。
まだ幼かったころは、その美貌と魔力で年上を骨抜きにしたことなど多々あった。故に、ガキ大将になったことさえある。
そんな過去があるということは、その孤児院の最高責任者であった道化王たちとフィーリアスしか知らない。
ちなみにフィーリアスは今、莉緒が亡霊王に吐いた言葉がツボに入り笑い転げていた。
「ハーッッハッハッハハハハハハハハハハハハハハっハハハハハハッハハハハ‼‼‼ アハハハハハッハハハハハハハハハハハハハハハ‼‼‼」
その様子を見ていた莉緒がますます困惑して首を傾げる。
ひと通り笑ったフィーリアスは、いまだ俯いている亡霊王に後ろから近づき、彼女の肩に手を置いた。
そして面白そうに耳元で囁いた。
「面白いだろう? この娘。成長が楽しみだねぇ」
「なにが楽しいものかあああああああ‼‼」
亡霊王は怒りの咆哮を放ちながら、フィーリアスに向かって豪速の回し蹴りを放つ。
「お前はいっつもそうだったわね! 一言多いのよ!」
「いやいや僕何も悪くなくない。悪いのは、莉緒だろう?」
「彼女は可愛いから許す!」
「理不尽じゃない⁉」
あらゆる技を繰り出す亡霊王に対し、フィーリアスはただただ避けるだけだった。
「す、すごい」
「・・・そうだね」
莉緒は目を輝かせて、滅亡王はげんなりとしたように言った。
「じゃあ花嫁、僕たちは行くよ。本当に挨拶だけだったしね」
「あ、はい。また来てください。歓迎しますよ」
「ありがとう」
立ち去ろうとしたその時、どこからともなくシルフィアがやってきた。
『気力を癒す薬草を煎じたお茶です。ティーバッグにしておいたので、好きな時にでも』
「ああ、ありがとう。もう一つあるが、亡霊の分かな?」
『はい』
「僕から渡しておくよ。またね」
「はい。また来てくださいね」
滅亡王は莉緒たちに手を振りながら、いまだに喧嘩している彼らのもとに歩いて向かう。
その時攻防を続けていたフィーリアスは限界という風に、バランスを崩してしまった。
そこを好機とばかりに、正拳突きをする亡霊王。防御も間に合わないとフィーリアスの勘が言っており、ただ見るしかなかった。
あと数センチで彼の顔に亡霊王の拳が突き刺さる瞬間、滅亡王が後ろから彼女の背中と太ももの後ろに手を回し持ち上げた。
「きゃ――」
「そこまで」
「ちょっと! 邪魔しないでよ!」
「もう帰るから止めただけだが?」
「そ、それは・・・。って待ってこの体勢って・・・」
亡霊王がどんな形で滅亡王に密着しているのか気づき、頬を赤く染める。
どんな形か。横抱き――またの名を姫抱きである。
「じゃあな、不明王」
「あ、うん」
そんなことは露知らず、滅亡王はフィーリアスに別れを告げる。
「~~~。覚えてなさい。次はそのおなかに一発重いのぶち込んであげる。――あ、莉緒ちゃんもまたね! また遊びに来るわ」
「お~怖い怖い。お手柔らかにね?」
「はい! また遊びに来てくださいね?」
フィーリアスがやれやれと肩をすくめながら、莉緒が満面の笑顔で言う。
莉緒の笑顔にやられたのか、亡霊王は息を荒くしながらにやけ顔になる。
この時、その顔を見ていたオウリアが、
(うわっ、キッモ!)
と思ったが口には出さずに心の中に留めたのは言うまでもない。
亡霊王達は空を歩くように飛んで帰っていった。
「・・・なんか、台風のような人たちですね」
「あ、わかる? 会議中も仲良くイチャイチャしてるのさ」
談笑していたフィーリアスと莉緒の前に、音もなくオウリアが背を向けて現れる。
その拍子に、莉緒が少しだけ驚き悲鳴を上げ、それにオウリアが謝った。
「・・・すいません」
「ああ、いいよいいよ。それが君自身の特性だからね」
「?」
「ああ、莉緒は知らないんだっけ」
「はい。気になってましたけど、オウリアさんは眷属なんですよね? 何が特別なんですか?」
オウリアは彼女のその質問に顎に手を当てて首をひねる。
「んー、なんといえばいいのかなぁ。ねぇ?」
「ねぇ? と私に聞かれましても・・・」
彼女はフィーリアスに聞いたのに、その彼がオウリアに聞く。オウリアは少し困った顔で、笑っていた。
「主よ、ここは私自身の特性――能力だけを説明したらいいのでは?」
「それもそうだね」
フィーリアスはオウリアの言葉に賛同した。そして、莉緒に質問する。
「莉緒、オウリアの――彼の種族はいったい何だと思う?」
「種族ですか? 人間ですよね?」
当たり前だという風に彼女が答える。
しかし対するフィーリアスの反応は首を横に振るだけだった。
「え? どういうことですか」
「確かに、オウリアは見た感じ人間だ。でもこれはそうしているに過ぎないんだよ」
「? どういうことですか」
「それは――」
「主よ、私から話します」
「おや、そうかい」
「?」
オウリアはいまだに困惑している莉緒の前に立つと、その顔を変化させる。
頭髪しかなかったその顔はもはや毛がふさふさに。
色は焦げ茶色。頭は触覚のように生えた二つの角が。
莉緒は出来上がったオウリアを見て驚愕した。
「ふ、フクロウ⁉」
鳥類独特の眼が彼女を見つめる。
「はいそうですよ莉緒様。私は梟と人から生まれた異種族。梟人(ふくろうびと)族なのです」
梟人族――梟と人間の両方の特性を兼ね備えた種族。驚異なまでの知識欲を持ち、世界のあらゆる知識を求めて、世界を旅している。故にその姿を見ることは稀であり、学者たちが徹底して探したとしても見つけることは天地がひっくり返っても困難である。
「何故ここにいるんですか?」
「僕の眼はね? 今は隠していて分からないけど、梟人族独特の魔力の痕跡とか見えるんだ」
「私のオーラが見えるみたいに・・・ですか?」
莉緒の推察に大きく頷くフィーリアス。よくできたという風に彼女の頭を撫でた。
「よしよし。見事な推理力だ。他には?」
「・・・先生の眼は包帯と眼帯で覆われているというのに、歩き方や方向が明確に分かっているようでした。もっと言えば、普通は見えないはずなのに今みたいに頭を撫でることはできません。手探りをするかのように手を無作為に動かすはず。だから・・・」
彼女の博識めいたその解説を聞き、きょとんとしていたフィーリアスとオウリアが笑い出す。
「「ハハハハハハハハ!」」
「・・・ッ! 笑わないでください!」
「いやいや、驚きを通り越してしまった。なぁ、オウリア」
「はい、主が王会議中、図書館であらゆる勉学をここまで理解するとは・・・驚愕です」
「いったい何を教わったんだい?」
「魔法や魔術関連ですが・・・」
「オウリア、何でこうなるんだい?」
「休憩時間にさらに読み進めていたようです。私の想定していたページよりもさらに読み進めていたようで」
「マジかよ・・・」
どうやらオウリアもフィーリアスもこの学習速度は想定外だったらしい。
しかし気を取り直したのか、フィーリアスが本題へ移る。
「オウリアとの出会いはまた今度ね」
「えぇ、もっと聞きたかったな・・・」
シュンとする莉緒の顔を見て可愛すぎると思ったのは僕だけじゃないと強く願ったものの、ここには王はフィーリアスだけなので、さほど意味はなかった。
「ごめんね。――さて質問だ。オウリアの――彼の特性は何だと思う?」
うーんと莉緒は若干悩んだものの、暫くして答えた。
「人間と梟の力を使うことができる、ですか?」
「まあ、有り体に言えばね。詳しく言ってごらん」
また莉緒はうーんと悩むが、思いつかない。
フィーリアスが見かねたのか、答えを言う。
「正解は、『音もなく時間などの概念に囚われず、至る所に移動できる』だよ」
「⁉」
「まあ、驚くよね。でも『こういう力』だと仮説を立てると、説明ができるんだ」
「それって――」
そこからはフィーリアスではなくオウリアが彼女に説明する。
「まず、梟と人間の力を使えるという莉緒様の見解は正解でございます。梟の力は単純でございます。本来梟とは獲物を狩る際、上空から奇襲をかけ獲物を捕まえます。その際羽音は無く無音であります」
「ええ、孤児院にあった動物の図鑑で調べたことがあります。しかし――」
「――羽は梟人族には無い。故に意味がない、と?」
「はい」
「確かに。それはあります。でもそれ故に――」
とその先を言うことが憚れるのか、彼は自分の主であるフィーリアスを見た。
フィーリアスは何事かと首を最大限にまで横に傾けていた。
「ん?」
「主よ、ここからは貴方様がご解説を」
「え~いいじゃん君のままで」
文句を言うフィーリアスだがオウリアは首を横に振った。
「私がすることに抵抗があるのです」
「ハア、分かったよ」
ひとつため息をついたフィーリアス。莉緒に謝りながら説明を続ける。
「ごめんね莉緒」
「いいえ。先生のご教授であれば嬉しいです」
「出会って数日だというのに心開きすぎだねぇ・・・」
まあいいやと咳ばらいを一つ。
フィーリアスは言葉ではこう言っているが、彼のその一つに束ねられた長い白髪が風もないのにぱたぱたと揺れている。まるで犬が嬉しそうに尻尾を振るように。
オウリアはその揺れる白髪を見て、
(あっ、嬉しそう)
と心の中で思っていた。
そんなことを部下が思っていることは露知らず、フィーリアスは莉緒に梟人族について再度解説を、授業を始めた。
「さて、梟人族は羽がない。それ故にその無音が進化して彼らの力となった」
「それって――」
「そう。あらゆる動き――動作の無音化。それが彼らの――梟人族の梟としての力さ」
「では、人間としての力とは・・・?」
「あらゆる状況化における空間と時間の接続・分離さ」
莉緒は信じられなかった。状況にもよるというが、空間と時間の接続・分離とはいわばその二つを使い支配するということである。
空間の接続は点と点をつなげるかのようにつなぐことである。瞬間移動がいい例だろう。そして時間の接続とは未来や過去における事象に己を存在させることである。つまりは「こうなるはずの未来」に己という存在を加えることで全く違う未来にできるということだ。
逆に、空間の分離とは何か。「そこにある空間をまったく別の空間に置き換える」ということである。ちなみにこの力は、オウリアが図書館から本を取り出す際に空間が分離することで発生するひずみを他空間を接続するという橋渡しのような作用もある。そして時間の分離は己に関わる全てと事象との時間を切り離し、なかったことにするというもの。
細かくフィーリアスに説明された莉緒は頭がパンクしそうになりながらも、全て聞けた。しかし、少しばかり目が回っているように見えるのは気のせいだろうか。
「ん~~~?」
「あらら。ちょっと詰め込みすぎたかな?」
「仕方ありません。それほど自分の存在は特異だということです」
「そういうことを言うもんじゃありません」
「申し訳ありません」
数分後、莉緒が回復した。
「平気かい?」
「は、はい。なんとか・・・」
莉緒はオウリアから渡されたお茶を飲みながら、一息ついた。
「ふぅ」
「リラックス効果のある薬草を調合してみました。落ち着きましたか?」
「はい。おいしいです」
莉緒とフィーリアスはオウリアから入れてもらったお茶をまったりと飲みながら、色々話した。
そこへバルディスとウルバトロクが眷属を侍らせてやってきた。
「フィーリアス、我らはここで失礼させてもらう。もう昼前だ。仕事も溜まっておるかもしれんからな」
「そういうことっす。自分らも此処でお暇させていただきます!」
「ん? ああ、もうそんな時間かい? 分かった。また来てね。莉緒も喜ぶから。ねぇ、莉緒?」
「はい! また来てくださいね!」
お土産にと莉緒から、紙袋を一つずつ渡される。
「おい、これは?」
「私が調合したお茶です。色々混ぜてみたんで、よろしければどうぞ」
「監修は僕だから安心してね。リラックス効果が期待できるかも」
「おお、ありがたい」
「多分今夜王の仕事でお世話になりますね」
満足そうにその茶葉を受け取った王の二人は、眷属の二人に合図し魔法を発動させる。
「では師匠、莉緒さん。自分はこの辺で失礼します!」
「ああ、また来てね」
「はい!」
ウルバトロクはフィーリアスたちに向かって敬礼すると、光となって消えていった。
バルディスもふぅとため息をつき、フッと笑いながら光に包まれる。
「ではなフィーリアス、莉緒殿。莉緒殿、こいつはちゃらんぽらんで掴みどころがあまりない。頑張るのだぞ」
「はい!」
「フィーリアス。あの話は一応通してやるが、結果は知らんからな。そう思っておけ」
「それで十分さ。ありがとう」
頷きあう二人の王に、周囲は皆首を傾げた。
「「「⁇⁇」」」
「・・・・・・」
しかしオウリアだけが何かしらの予感があるようで考え込んでいた。
「ではな諸君。また会おう!」
そう言い残し、とうとう光となって消えた。
客人がいなくなったからなのか、莉緒は寂しそうな顔をする。
そんな彼女を見たフィーリアスは彼女のあと間を撫でる。
「⁉」
「そんな悲しい顔をしなさんな」
「でも――」
「多分明日も客は来るからね」
「え?」
「ああ」
オウリアはポンと手を打つと納得したかのように頷き、かすかに笑う。
「三王がまだですもんね」
「三王?」
「僕らの上司で王会議を仕切っている一番から三番の王達だよ」
「⁉ どんな方なんですか」
莉緒はキラキラと目を輝かせて聞く。
グイグイ来る彼女に、フィーリアスは若干引きながらも答えた。
「三番目は大地を司る大地王。二番目は大海――海を司る大海王。一番目は天空を司る天空王だね。大海王は亡霊王と同じで女性の王様だよ」
「な、なるほど」
「さあ、そうと決まれば早速準備だ。オウリアお願いね? 莉緒もオウリアの手伝いね? シルフィアは部屋のデザインとか色々任せるよ」
「主よ、あなたは?」
「少ししたら行くよ」
「『かしこまりました』」
「はい。分かりました」
莉緒、シルフィア、オウリアはその場を立ち去って行った。残ったのは、フィーリアスただ一人。
そして彼は、耳元を軽く押さえ話し始めた。
「僕だ。今すぐコード000の準備をしろ。いつでも動けるようにしとけ」
何を話しているのか。今は誰にも分からなかった。
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