第9話王との邂逅

そんなことがあったものの、晩餐は滞りなく進んだ。しかしそれでも、フィーリアスの食事は、栄養ドリンクとゼリーだけだった。

「⁉ シルフィア⁉ またこのパターンかい⁉ 研究室の物を勝手に持ち出すんじゃない! 研究用の夜食が減るじゃないか」

『知りません。餓えて死んでください』

「おっと辛辣だね⁉ だがそんなことでへこたれる不明王ではない!」

「・・・言葉と体が合致してないぞ。悲しくて震えてるじゃないか」

「おぉっとここで横やりが僕に刺さる‼ バルディス、これは寒いだけだよ決して悲しいんじゃないあーあったかい食事が食べたいなー!」

「先生、私こんなに食べられないんで・・・、食べます?」

「おおぅっと、ここで慈愛の一言! やっぱり食事はみんなでするに限るね~」

 そんなこんなで今宵の晩餐は盛り上がった。

 食事のあと、莉緒のもとに二人の王が来た。バルディスとウルバトロクである。

「初めまして。愛しき我らの花嫁よ。私は厳格王バルディス・ヘルドという。以後よろしく頼む。そしてこちらが―――」

「ウルバトロク。ただのウルバトロクです。会えて嬉しいです」

「ああ・・・、こちらこそ。・・・・・・ん? ただの?」

 自分の名前を言おうとしたが、そこでふと違和感を覚えた莉緒。ウルバトロクが姓を名乗っていないのだ。しかも「ただの」と付けた。どういうことなのかさっぱりわからない。

「『ただの』とはどういうことですか?」

 ウルバトロクは言いづらそうにしながらも、やがて苦笑しながら言った。

「自分は元々、孤児だったんです。それをとある人に助けてもらって・・・。それまでは孤児は孤児でも戦争孤児の身分だった自分は、周りから虐げられて生きてきたんです。だから名前はあっても、姓はなかったんです」

 莉緒は聞いてはいけないことを聞いてしまったと思った。自分だって孤児だったから教会で過ごしてきた。何の不自由もなく。なんで自分には親がいないんだろうとは思ったが、幸せだった。フィーリアスからあの教会が人体実験をしてること、自分を解体し、殺そうとしたことなど聞かされたことはきりがないが、その時彼女は助けられてホッとしていた半面、恐怖していた。しかし、安心が勝っていたのだ。多少の被害も当たり前のような日常だったと思っていた。

 しかし、輪廻王である彼は違った。戦争で家族を失い、生きるために汚れ役を請け負い、それ故に周りの人間からは蔑まれ、見下され、足蹴にされた。それでも彼は這い続け、立ち上がり、ここまでやってきたのだ。

「・・・大変だったんですか?」

「そりゃあもう。でもあの過去があったからこそ、輪廻を知ることができた。世界に生を受けた者は、時代と共に、経験、性格、過ち、後悔などの人が人を形成するものこそが、輪廻というカギになるんだと思うと、こうなることもあり得たことだったんだなって」

 その言葉を聞くと、莉緒は優しく微笑み、こう言った。

「貴方に幸せあれ。私は先生のもとにいなければいけませんが、私は王であるあなたのその心を高く尊敬します」

「「「ッ‼‼」」」

 その微笑みの爆弾に、王であるウルバトロク、バルディス、フィーリアスが前にいきなり倒れる。決して、気分が悪くなったという訳ではない。花嫁の魔力は外見では分からない。その内面。オーラや気といった体内に流れているものも含めて、全てにおいて美しく感じる。外見や内面を見てしまうが故に、王たちは倒れてしまうほどの衝撃を受けてしまう。

「「「⁉ お、王ー!」」」

「えっと、わ、私何かしました?」

「・・・無自覚とは。恐るべし」

『いずれ目を覚まします。寝室に行きましょう』

「えっ? えっ?」

 倒れた三人の王に慌てて駆け寄るそれぞれの眷属。無自覚な莉緒。呆れているディートリヒとシルフィア。一見カオスだった。

 ちなみに、ウルバトロクは鼻から血を吹き出し多量出血により意識が遠くへ飛んで行った。残りの二人は照れ死であった。無論、王なのですぐ生き返る。

 ウルバトロクが意識不明の重症――だが嬉しそう――なのを余所に、フィーリアスとバルディスは居間のソファにて話し込んでいた。照れ死してから一時間後、莉緒は寝室にてベットに潜りこんでいた。そして王たちは――

「いいのか? ウルバトロクを待たなくて」

「彼にも聞かれたら、新世代の情報網で知られてしまう可能性があるからね。万が一起きた際、対処してもらうようにオウリアを見張りにつけてる。保険はかけた」

 ――居間で話し込んでいた。

 バルディスははあ・・・とため息をつき、訝しそうにフィーリアスを見た。

「・・・なぜそこまでそこまでする必要がある? 花嫁を我が物にするためか? いったい何を企んでいる?」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・だんまりか・・・。何か言え、フィーリアス・・・!」

「・・・・・・お願いがあるんだ」

「お願い?」

 フィーリアスは包帯と眼帯に包まれたその顔で、真剣な口調で話す。表情は分からないので、バルディスからしてみれば怪しいと思うが、口調だけじゃなく魔力やオーラが真剣味を帯びていたので、怪しいと思うことはなかった。

「どんなお願いだ」

「・・・天空王に『王狩り』を受理してもらいたいんだ」

「なっ・・・!」

 王狩りとは、王が別の王を殺すこと。また、その者の国と民を皆殺しにすることである。

 王とは本来、不老不死であり、永遠の時間を生きる存在である。眷属においても不老不死だが、技量、力などにおいて王には劣る。それでも、王も眷属も不老不死であるということに変わりはない。

 しかし例外も存在する。

 王を殺すためだけに生まれた『王殺し』。そして『王』自身である。

 王は王であるが故に、絶対的な力を有する。しかし、ここで疑問を感じた者がいた。

 当時神の上に立っていた王について調べていた学者たちである。彼らは王について書かれた文献という文献を読み漁り、仮定条件を導き出した。

一、王とは絶対的な力を持ち、その力は神をも超える。

二、王は王殺しという存在に亡き者にされる。

三、前述『二』において、それは王殺しと王は同等の力を持つ故に決定される。

 ――だがここにとある学者が疑問を持った。

「王同士が殺しあえば、王は死ぬのだろうか」

 単純な話、王殺しには殺されるのならば、他の王でも殺されるのではないかということだ。

 その結果――

「議会に刃向かった王達は皆、俺たちに殺された・・・」

「そう。まあ、基本僕が殺したんだけどね」

「ああ、そうだったな。その時に生まれたのが『王狩り』。

 ――未然に防ぐことで議会の権威や王の威厳を保つ王特有の断罪行為」

「・・・・・・頼めないかな?」

「・・・・・・それ頼むようなことか? なあ、王議会代表理事会が一人、断罪執行長フィーリアス・アルディバート」

 バルディスはフィーリアスを軽く睨みつける。しかしそれに怯むことなく、フィーリアスは話を切り出す。

「今は無理だ」

「? 何故だ? 独断でやったとしても、罪には問われんだろう」

「そうじゃない」

「? どういうことだ」

「実は―――」


 そうして夜は更け、翌朝―――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る