謎の金
肥後妙子
第1話 考えるだけならタダ
夏休みが始まって、数週間たったくらいの時期だった。その日は父さんも家にいた。日曜だからだ。外は怖いくらいの暑さだったので、午前中から冷房の効いている居間に、俺と両親は自然と集まっていた。暑さからの避難という感じだった。
「そうだお前、この金はなんだ?」
父さんが茶封筒をポイっという感じで母さんの前のテーブルの上に置いた。
「お金?どこにあったの?」
「昨夜、寝る前に水を飲みに来たらここのテーブルの上に置いてあったぞ」
「え?知らないわよ」
お金の話という事で、マンガを寝っ転がって読んでいた俺も顔を上げて両親を見た。ふと、疑問に思ったことを質問してみる。
「父さん、お金いくらあったの?」
「千円札と、小銭で三百円か四百円」
「封筒に入ってたの?」
「いンや、まとめといた方がいいと思って、お父さんが封筒に入れといたんだ」
父子の会話を聞いて、母さんが困った表情で言った。
「お金をむき出しで置きっぱなしなんかにはしないわよ?啓太、お前がお小遣いを置いたんじゃないの?」
「ええ?知らないよ、俺。父さんは本当に心当たり無いの?」
「無いよ。父さんだって昨日はここで財布出したりして無いし」
「ええ?いやだわ、何かしら」
そのやり取りの後、父さんはちょっと考えた後、決断した。
「じゃあ母さん、母さんが仕舞えばいい」
「うーん……。他にどうしようもないから食費にでも入れるけど」
母さんは封筒を受け取った。
本当は俺の小遣いの足しになるように頼もうかと思ったんだけど、止めた。中学になっても子供っぽいというか、貧乏性というかなのだが、小銭だけならともかく、紙幣を正当な理由もなくもらってしまうのは気が引けたのだ。
こうして、千円といくらかは我が家の食費の足しになった。
でも、改めて考えると不思議だ。夜中に誰かが家に入ってきて、こっそりお金を置いたのかもしれない。可能性はゼロではない。そしてその、謎の人物が置いた謎のお金には、何か悪い事情があるのかもしれない。可能性はゼロではない。我が家は何かの証拠隠滅に利用されたのかもしれない。その可能性もゼロではない。
まあ、俺だって親のどっちがが何かの支払いのお釣りでも置き忘れたんだろうくらいに結論づけるのがいちばんだとは思う。けど、もしかしたらと考えてしまうのだ。
こう考えてしまうのも、お金にはちょっとダークな印象があるからだろう。
こんな事考えても一円の得にもならないんだけど、ちょっと不可解な夏休みの思い出として、時々思い出す。
おわり
謎の金 肥後妙子 @higotaeko
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