写真の中の少女
二ノ前はじめ@ninomaehajime
写真の中の少女
数年前、近所で殺人事件があった。
被害者は少女だった。詳細は語りたくない。しばらく児童の集団登下校が続いたのを覚えている。
花屋の娘だった。よく店の手伝いをしていた。その眩しい笑顔を覚えていて、両親が悲しみに明け暮れて店を閉めたとき、きっと彼女は寂しかっただろうと勝手に思った。
小さな青い花が咲く季節、新入生が黄色いランドセルを揺らして通学路を駆け抜けていった。防犯ブザーの着用を義務づけられていることが悲惨な事件の
風景写真を撮ることが趣味だった。一眼レフのフィルムカメラを
あえて人通りの多い場所で活動した。
自宅に
葉桜の下に散らばる花弁を
髪が長く、細い肩を剥き出しにしたキャミソールドレスを着ている。まだ
これは、
並木道の人影を見つめて、反応に困った。少女の顔は
その片手はおどけてピースサインを取っていた。
時折、その黒い少女とは写真の中で遭遇した。
彼女と趣味嗜好が近いのかもしれない。本来は園芸で
また、老婆が誰もいない場所で笑いかけているのを目撃した。まるで
生前が花屋の娘だからだろうか、町中で花を配って回っているらしい。その対象は老人や子供に限られた。どうやらこの年代の人たちは、彼女の姿が肉眼で見えており、きっと写真で見る黒い外見ではないのだろう。人物を写真に収めることはないため、そのやり取りは想像するしかなかった。
悲惨な死を迎えた少女の魂が、今もこの町を
彼女は、自分の境遇をどう思っているのだろう。未来を
洗濯バサミで干された黒い少女の写真を前に、自分はどうするべきか考えた。おそらくは正しい
こうして死んだ人間の魂が現世に留まっているのを目にしても、
迷った末に、何もしないことに決めた。
噴水広場で子供たちが
首から一眼レフのカメラを
良いではないか。あの子は、これから何十年も続くだったはずの人生を奪われたのだ。せめてこの瞬間だけでも、永遠であればいい。
普段なら人物を撮影することはない。だから子供たちにカメラを構えるのは、これが最初で最後だろう。噴水と戯れながら子供たちの輪の中にいる、見えない少女に向かってピントを合わせた。
そっとシャッターを切った。
写真の中の少女 二ノ前はじめ@ninomaehajime @ninomaehajime
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます