太陽売ります

アイス・アルジ

第1話 太陽売ります

「太陽売ります」ネットに現われた広告に目が止まった。

 本当か? 


 そう言えば昔、月の土地が売られていたことを思い出した。たしか、父が月の土地を買ったと自慢して、権利書を見せてくれたことがあった。あの権利書は今、どうなっているのか? 相続を受けた記憶はないし……


 今でこそ、月の資源獲得競争が始り、国家や企業が活発に月面に探査機を送り込んでいる。月面基地が築かれるのも時間の問題だろう。父が買った土地も高騰し始めているかもしれない。

 当時、月の土地を買ったからといって、特に何の利益もなかったのではないか、そこへ行ってキャンプをすることも出来ないし、要するに詐欺のようなものだったのかもしれない(多分、自己満足のため、父でも買えるような、たいして高くない金額で買ったのだろう)、権利書は本物だったように思ったが。


 1967年に発効された「宇宙条約」の第2条には、「月その他の天体は国家による取得の対象にはならない」と明記されています。

 これは、いかなる国家も「月」を自国のものと主張することは出来ないということです。裏を返せば、企業や個人であれば、月の所有権を主張できる可能性がでてきます。(ただし月の発見者でもない限り、所有権を主張できる根拠はないでしょうが……)


 当時いち早く、アメリカのルナエンバシー社が、月の土地の売り出しを開始しました。

 ルナエンバシー社は民間企業であり、月の所有権を持っている分けではありませんが、ただ月の土地の権利書を発行するという商売を始めたということです。これは、決して「宇宙条約」には違反していません。ただ、「宇宙条約」を逆手に取って稼いでいるだけなのです。


 誰も月の所有権を持っていないので、(当然とも言えますが)この商売に対し、異議をとなえる国や企業はありませんでした。しかし将来にわたって、この権利書が有効とみなされるかどうかは分かりません。

 そもそも、意義を申し立てたところで、何の得もありませんでした。要するにヤッタ者(早い物)勝ちの商売でした。

 今日こんいちであれば、少し事情が違うかもしれません。特に月の資源については、発見者(企業、国家)が独占的使用権を主張する可能性が高いですし、土地の所有権がなくても、基地周辺の排他的権利を主張する可能性もあります。


 この状況は、月以外の星にも当てはまります。今では、火星や金星の土地も買えます。

 その気があるなら、金星よりも断然、火星の土地を買うべきです。高温で高圧、猛毒な硫酸雲に覆われ、防風雨(硫酸の雨)の吹き荒れる地獄のような金星より、少し寒いが(時には砂嵐もあるが)穏やかな、火星の方がずっと素敵です。夜空には素晴らしい星空が見えるでしょう。ピンク色に染まる朝焼けや、春には暖かな日差しが、一面に輝く霜を溶かす光景を見ることが出来るかもしれません。

 また近い将来、火星に移住する人々が現れるのは確実でしょう。


 木星や土星の衛星を買うのも魅力的かもしれません。想像してみてください、これらの衛星の空に浮かんだ、大きくて美しい木星や土星、神々しい土星の輪の姿を(ただ、実際に目にすることは出来ないでしょうが)。


 夜空に無数にある星の権利、まだ名前の付いていない星の命名権を売る会社もあります。しかしこれも、星の名を買ったところで何の利益も得られません。単なるロマン(自己満足)を満たすだけでしょう。

 それでも、星が好きなロマンチストなら、恋人にプレゼントしてもよいかもしれません。


 太陽は高温のプラズマに覆われた恒星です。当然土地はありません。どうやって、その土地を買うのでしょうか。

 「太陽迎光投資有限公司」のホームページを調べて見ると、緯度の範囲を指定して買えるようです(例えば北緯30度から31度までのように)。この会社が販売している対象範囲は、北緯南緯ともに60度以内のようです。


 太陽は巨大です、たとえ緯度で1度の範囲としても、その面積は(緯度0度付近で)日本の国土の約1万4000倍にもなります(緯度により違いがあり、60度付近では、その2分の1ですが)。

 最小購入単位、1口は1千万分の1度です。太陽全体を見れば、周囲を取り巻く細い糸のような範囲です。それは、太陽面全体のたった約5千万分の1~1億分の1の面積になります。それでも地球規模で見れば、十分広いと言えそうです。 


 現在、熱帯雨林を保有している諸国が、酸素の使用料の請求を検討していることをご存じでしょうか。先進国と熱帯地域諸国の、いわゆる南北格差は、今だに続いています。

 世界の熱帯雨林では、人間の活動に使われる貴重な酸素の多くを生み出しています。そして、酸素を多く消費しているのは先進国です。そこで、熱帯地域諸国が国際協力し、「その国の酸素使用割合に応じた使用料金を請求できる」条約決定に向けて、準備が進められています。


 酸素が、ただでは使えない時代が到来しようとしています。太陽にも同様の理屈が成り立つかもしれません。



 ―――太陽迎光投資有限公司の広告によると—――


「投資目的として、太陽を買うことをお勧めします。太陽を買えば、太陽エネルギーを利用している国々に、使用料を請求できます。

 太陽光発電、農業、林業をはじめ、生活に欠かせない光(明るさ)熱など、ありとあらゆる経済活動は、太陽エネルギーがなければ成り立ちません。従って太陽の権利を所有すれば、膨大な使用料を請求できると考えております。弊社はそのお手伝いをさせていただきます」


 ――ここに請求書の見本をお見せいたします。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 【太陽エネルギー請求書】


 アメリカ合衆国大統領○○殿


 当方は宇宙条約に則り、公正に太陽面の1千万分の1の権利を所有しました(別途添付した、権利書のコピーをご確認ください)。

 

 御国家は昨年、地球に降り注ぐ太陽エネルギーの20%を使用されました。「管理会社の計算式」による使用料「2千$」と、太陽エネルギーが御国家の経済に与えた適正な貢献度「GDPの10%」の1千万分の1(0.00001%)に相当する金額「50万$」、「50万2千$」を、1年間の使用料として請求することと決定いたしました。これは当方の正当な権利であり、使用料の詳細な計算式は、次頁以降に記載してあります。国土のきさ、経済規模を考慮し、各国に平等な使用料を設定しています(数年に一度更新予定です)。


 ご理解の上、期日までに、指定口座に振り込んでいただきますよう申し上げます。


 疑問等は、管理会社の顧問弁護士団が対応いたします。連絡先は……


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 現在、1口、500万ドルという破格の価格で販売中です(全世界の国々から、年間100万ドル以上の収入が十分見込めます)。

なお、これは個人向けの販売となります(企業、団体等への販売は行いません)

 低緯度からの販売です、早い者勝ちとなります。どうですか、投資として太陽を買う気はありませんか。


 ――高緯度地域ですか? 

 若干お安くできる予定ですが、エネルギーの貢献率請求(収入金額)も下がります。低緯度地域がお得かと……

 

 ――はあ、使用量を払わない国家には、どうすればよいかですか?  

 ――そのためには、各等級の核兵器を取り揃えております。安心のため、合わせての、ご購入を検討いただければと思います。う。


 ――相手国も核兵器を保持している? ごもっともです。

 弊社の特許技術を使い、宇宙空間に極薄いアルミの膜を浮かべる実験を開始しています。 数年以内に、この薄膜の連続体を使い、使用料未払いの相手国への太陽光を減らすことができるようになります。

 価格および管理につきましては、別途……


 ――いかがでしょうか。




<後書>

 むかし、ある科学系の雑誌で、宇宙旅行ができる懸賞?があったと記憶があります。当時、宇宙旅行は夢物語でした。この懸賞が本当だったのか?ジョークだったのか? 定かではありませんが(読者が信じまいと、本気だと書いてあったはずですが)。その後、この雑誌は廃刊になったと思います。あの時の宇宙旅行の権利はどうなったのでしょうか?


 今や、近い将来、宇宙旅行の商業化が実現しようとしています。宇宙ビジネス(商業化)はもう始まっているともいえるでしょう。いち早く月を売り出したあの会社は、先見の明があったのでしょうか。宇宙条約の不備を利用した、ジョークなのでしょうか? 

 太陽にも宇宙条約が適応するのでしょうか(土地を所有しなくとも権利を主張できる)? 早い物勝ちという、人類の古典的ルールが生かされそうです。


   (2025/09/05 アイス・A)


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