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 日中の砂漠は一面黄色の世界であるが、夜になると一転して薄灰色の世界になる。空と砂漠の境界は融けて混ざり合い、青灰色となって四方を円環で包んでいた。空に瞬く星の色は一様ではなく、赤色、青色、白色に黄色と様々であり、そこに濃淡が加わった結果、地表よりも遥かに賑やかである。

「月のない夜は星がよく映えますね」

 声を掛けてきたのはルシャである。マントを脱いだら腰まで届く栗色の髪が垂れて、夜風に揺れた。歩くたびに、シャン、と鳴るのは手首に付けた鈴による。踊子の衣装に身を包んだ姿は、昼間に見た姿とはまったく異なり華やかであるが、過度に華美というわけでもない。裾に縫い付けられた薄く儚い紗とは、舞ったときに手足の軌跡を美しく見せるための装飾である。

「他の連中は?」

「男二人は邪魔者が来ないように離れたところから見張っていて、マユワちゃんは別の場所で役目に就いています」

「役目?」

「冥界の門の門番に死者の魂を引き渡す役です」

「何だそりゃ」

「生あるものは死ぬとその体から魂が抜けて、魂は門番に導かれて冥界の門の先にある冥府へ行くのです」

「それは知ってるけど、そうじゃなくてだな」

「彼女はそういうことができる特別な子なんですよ」

 イトは眉を顰めた。

 死者の魂が冥界の門を通って死後の世界に旅立つということは、この地域では昔から信じられていることだが、もちろん普通は死者の魂も冥界の門も見ることのできないものである。たまに「それらが見える」と言い張る者もいるが、そんな奴らは例外なく詐欺師か狂人のいずれかだ。だから実際には、死者の魂は冥界の門を通って死後の世界へ行く、ということにしておいて、それ以上は言及しないのが普通だ。死後のことは誰にもわからないものであろう。

 ルシャはおこした火の前に座り、イトを呼び寄せる。揺れる火がルシャの頬に影を落とし、鼻梁の高さを証明していた。

 イトは火を挟んでルシャと向かい合うように腰掛ける。

「さて、始める前にお願いしたいことがあります。あなたと砂鯨の昔話を教えていただけませんか?」

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