新生活が始まった

 春のやわらかな光が差し込む朝。涼葉は静かにスーツケースのファスナーを閉じて、玄関に並べた。理江は早起きして、彼女の好きな卵焼きと味噌汁を用意していた。

「今日は特別な日だから、しっかり食べていきなさい」

彼女は「ありがとう」と微笑み、ゆっくりと朝食を味わった。


 直樹は「重くないか? 気をつけて行けよ」 と言いながら荷物を車に積み込んだ。涼葉は「うん、大丈夫」と答えたが、彼の大きな手が少し震えているのに気づいて、胸が熱くなった。


 出発の時、三人で玄関に立つ。

「困ったことがあったら、すぐ電話するんだよ」

「無理しすぎないでね」

「うん、ありがとう」

涼葉は深く頭を下げ、両親は静かに手を振った。


 涼葉は慣れない鍵を開け、職場からそう遠くないところにある小さなワンルームに入った。窓を開けると、春風がカーテンをふわりと揺らした。荷物をほどきながら、理江がそっと入れてくれたお守りや、直樹が書いた短い手紙を見つけた。

「困ったときは、いつでも帰っておいで」

「お前の幸せが、私たちの願いだよ」

その言葉に、彼女はそっと涙をぬぐった。


 夕方、涼葉は「無事に着いたよ」と両親にメッセージを送ると、すぐに「よかった」「がんばってね」と返事が届いた。彼女はスマートフォンを握りしめて、「離れていても、家族はつながってるんだよ」と返した。その夜、彼女は小さな部屋で新しい生活に向けて、「よし、明日からまた頑張ろう」と静かに決意するのだった。


 新しい街、新しい部屋。涼葉はまだ慣れないベッドに寝転び、天井を見つめていた。

「明日から、ちゃんとやっていけるかな……」

彼女の中で不安が胸の奥で波打っていた。


 翌朝、娘は早めに家を出て、職場へ向かった。駅までの道、満開の桜が風に舞い、

「この街にも、きっと素敵なことが待っている」

と、心の中で自分に言い聞かせた。


 職場の入口で、「おはようございます!」と元気な声が聞こえた。同じ新入りの女性が、にこやかに話しかけてくれた。

「緊張するよね。一緒に頑張ろう!」

その言葉に、涼葉の心がふっと軽くなった。


 昼休みには、先輩が「よかったら一緒にお昼どう?」と誘ってくれた。慣れない環境に戸惑いながらも、「はい、ぜひ」と勇気を出して答えた。そして社員食堂の窓際で、新しい仲間たちも加わって他愛もない会話を交わした。 「この街でおすすめのカフェは?」「休日はどこで過ごしてる?」と言った感じだった。でもお互いの表情に自然と笑顔がこぼれていた。


 帰り道、涼葉はふと立ち止まって、

「今日は、ちょっとだけ自分をほめてあげよう」

と小さくつぶやいた。


 新しい出会いは、少しずつ涼葉の世界を広げていっている。家族の温もりを胸に、

彼女はまた、明日へと歩き出すのだった。


 涼葉は新しい街での生活にも、少しずつ慣れてきた。最初は不安でいっぱいだった毎日も、今では自分から挨拶をし、困っている人がいれば声をかけられるようになった。


 ある日、職場で後輩がミスをして落ち込んでいた。涼葉はそっと隣に座り、

「私も最初はうまくいかなかったよ。一緒にやってみよう」

と優しく声をかけた。その言葉に、後輩の表情が少し和らいだのを持て彼女はほっと一息ついた。


 久しぶりに家族とZoomをした夜のこと。「最近、どう?」と理江が尋ねると、

「毎日忙しいけど、楽しいよ。少しずつだけど、自分の居場所ができてきた気がする、と涼葉は明るく答えた。直樹は画面越しに、「お前、大人になったな」としみじみつぶやいた。涼葉は照れくさそうに笑い、「二人が支えてくれたからだよ」と静かに言った。


 新しい環境で悩みながらも、人の優しさや自分の強さを知った涼葉は、今、しっかりと自分の足で未来を歩き始めていっている。



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熟年で結婚、育児しました。 数金都夢(Hugo)Kirara3500 @kirara3500

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