Yシャツ ─ 掌編世界(1)
安曇みなみ
Yシャツ
梅雨の湿気を吸った生乾きの服を抱え、逃げるようにコインランドリーに駆け込んだ。乾燥機が低く唸る音だけが響く空間で、私はガラス窓を叩く雨をぼんやりと眺めている。回っているのは私の将来と、彼との半端な関係と、もう何もかも。
やがて、軽やかなブザーが二つ、重なるように鳴った。
私と隣のおばあさんが、示し合わせたように立ち上がる。
それぞれの扉を開けると、混じり合った温かい空気が、二人の間を満たした。
「あら、あなたの柔軟剤、いい香りねえ」
おばあさんが、花柄のシーツを丁寧に畳みながら言った。
皺を一つ一つ伸ばす、その滑らかな手つきに見惚れてしまう。
「じめじめしたものは、いけませんね。心まで湿ってしまうわ。でもね、不思議なものよ。こうして熱で乾かして、きちんと畳んであげれば、また明日から使えるの。どんなものでも、ね」
「お先に」と小さく会釈して出ていったおばあさんを見送り、私は自分の乾燥機に向き直った。
熱いくらいの彼のYシャツを手に取って、顔にうずめる。もう、生乾きの嫌な匂いはしない。
畳む。きちんと畳む。そうしなければ。そうすればきっと──
でもどうしても綺麗な畳み方を思い出せない。なんどやっても形が崩れてしまうのだ。
Yシャツ ─ 掌編世界(1) 安曇みなみ @pixbitpoi
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