えんまさま

茶村 鈴香

えんまさま

美菜と遊ぶって言って

弘平と遊んだ

海辺のテトラポットの下に

潜りこんだり

凪いでいる海で

石きりしたり


家に帰ったら

お母さんがこわい顔してた

「スーパーで美菜ちゃんと

会ったわよ、誰と何してたの」

お母さんは弘平と

弘平のお母さんが嫌いだ


「美菜と途中でケンカしたから

一人で海岸にいた」

疑わしそうにしてたけど

お母さんはもう何も言わなかった

弘平と半分づつ 

缶コーラ飲んだのも内緒


嘘は嘘を呼ぶ

「美菜ちゃんと仲直りするのよ」

(そもそもケンカしてない)

「宿題しちゃいなさいよ」

「いまやる」

(そもそも今日は宿題はない)

部屋でひとりになれる


えんまさま

私はいくつ嘘をついただろう

たくさん嘘をつきましたと

正直に言えば

舌を抜かれず済むのかな

えんまさま

それは都合が良すぎるね


お母さんの気に入った友達としか

遊んじゃいけないなんて

誰が決めたんだろう

テトラポットの隙間に

落ちかけた私を

引っ張ってくれた弘平の手


弘平は嘘をつかない

「うちは父ちゃんいないから」

弘平は嘘をつかない

「母ちゃん知らんヤツと出て行った」

来月はじめに

弘平は秋田の親戚に引き取られる


「あっちに着いたら“なまはげ”の

絵葉書送ってやる」

やっぱり海の近くで きっと

弘平は毎日のように石きりする

私も負けないからね

嘘をつきそうになったら

海まで走って行って石きりする


「いつかまた一緒に海に行こう」

これは嘘じゃなくて約束だからね


えんまさま


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えんまさま 茶村 鈴香 @perumi

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