ひと夏の風景と心情を、繊細な感覚で切り取った詩集です。
「夢うつつ/香る月夜に/紅の橋/吸い込まれるよに/満つる灯火」
冒頭から、読者を幻想的な夏の夜へといざないます。水音や闇、郷愁や宴といった季語が瑞々しく並び、五感を刺激してくれます。
川底に揺らめく「真夏の宝石」、格子から漏れる光や、青楓の木漏れ日など、一つひとつの描写がまるで短い映画のよう。
後半の「誰かの夢」や「ターコイズブルー」では、夏の記憶が個人の心から普遍的な祈りや命のきらめきへと広がっていきます。
「そこここに溢れる/祈りの言葉」「感じるいのち」という言葉が、読後も静かに心に残ります。
短い詩行のなかに、夏の情景と、去りゆく季節への惜別、そして誰かを想うやさしさが詰まった一冊。
ページをめくるたび、胸の奥にふっと懐かしい風が吹き抜ける、そんな作品です。