第十四夜 リベンジしたい女
自分の人生、リベンジしたいなんて思った事がありませんか?
あの時、ああしてれば、あの時に戻れたなら、もっと違う人生になったかもしれない……と。
さて、今宵は、そのリベンジのお話でございます。
では、開幕…いえ、開店。
その扉を開けた瞬間、別世界へと迷い込む店があるという。
その名を『THRILLER BAR JOKER』。
今宵も、この店の扉を開けた一人の女の運命の歯車が狂い出す。
THRILLER BAR JOKERの店の扉を開け、一人の女が入店してきた。
女は、派手なメイクをしているが服装は地味である。
かなり酒を飲んでいるのか、フラフラの足取りでカウンターまで歩いてきた女に、JOKERは、軽く会釈をする。
「いらっしゃいませ。」
女は、JOKERをチラリと見ると、カウンター席に腰を下ろす。
「何が『綺良々』よ!「お前は、見た目が地味だから、せめて名前だけでも、煌びやかでないと」だってさ〜。いくら名前を煌びやかにしても、私の地味さは、生まれた時から決まってんの!ねぇー、そうでしょ?」
女の言葉に、JOKERは、軽く瞳を閉じ、口元に笑みを浮かべた。
「そう……ですかね?」
「そうなの!決まってんの!!」
JOKERは、クスッと笑うと、女の前に、ニュッと顔を近付けた。
「御客様、あなた……人生に不満を感じていますね?」
その言葉に、女は、眉を寄せる。
「不満よ!不満!大不満!!」
「ならば、私が満足のいく人生に変えて差し上げましょう。」
「えっ……?」
訳が分からず見つめる女の目の前で、JOKERは、指をパチリと鳴らす。
その瞬間、女の意識は遠ざかっていく。
ーここは、何処?ー
キョロキョロと、女は、周りを見渡す。
ここは、何処かの屋上か……。
目の前に、制服姿の少女が今にも飛び降りそうな感じに立っている。
ーあれは…ママ?ママじゃない!?私、過去に戻ったの?!ー
空を見上げ、少女が飛び降りようとするのを女は止める。
ー駄目!死んじゃダメ!!ー
女の声に少女が驚いたように振り返る。
女は言う。
ー死なないで!あなたが死んだら、私は、どうなるの?!生きていれば、きっと笑える時もあるわ!!死なないで!人生なんて、自分で変えられるんだから…!!ー
泣き叫ぶ女に、少女は、飛び降りるのを止め、にっこりと微笑んだ。
ー良かった……。ー
ホッとした女は、再び意識を無くす。
気が付けば、暗い闇の中。
女は、フワフワと浮かんでいる。
ーここは……。ー
下を見ると、赤ん坊を抱えた女が見える。
あの時の少女だ。
ー良かった。幸せそう。笑ってる。ー
幸せそうに笑う母親……そして、その隣には、父親とは違う見知らぬ男。
ーえっ?……どういう事……?パパじゃない……。じゃあ、あの赤ちゃんは…私じゃないの?!……だったら、私は、どうなるの?!私は……私は……。私って…………誰だっけ?ー
THRILLER BAR JOKERの店内のカウンターの中で、グラスを洗いながら、JOKERは、フッと笑みを浮かべる。
「どうやら、自分の人生だけではなく、人の人生まで変えてしまったようですね。母親は、飛び降り自殺をする…しかし、未遂に終わる。そして、病院で知り合った医者……つまり、あの御客様の父親になる男性と知り合い結婚する…まぁ、本当は、こうなるはずだったのに。母親の人生を変えてしまい、母親は、別の人と結婚した……という結末になった。……あの御客様は、存在しないものになった……という事ですね。」
洗ったグラスを磨きながら、JOKERは、クスッと笑う。
「人生を楽しく生きるかどうかなんて…本人次第で、どうにでも変えられるのですけどね。……えっ?私は、人生楽しいか?ですって?そりゃあ、楽しいですよ。だって、ほら……。」
JOKERは、クスクスと声を上げ笑う。
「『人の不幸は蜜の味』……というではありませんか。」
THRILLER BAR JOKERの夜は、まだまだ続く。
ー第十四夜 リベンジしたい女 【完】ー
THRILLER BAR JOKER 深夜 幻夢 @sin-ya03
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