ファンタジー創作エッセイ集 ~ 嘘でもフェアでありたいという気持ち ~
霧原零時
第1話 『剣士vs魔法使い』――なぜ剣士は勝てるのか?
ファンタジーを書いていると、いつも心のどこかで引っかかる問いがある。
「“剣士”は、本当に“魔法使い”に勝てるのだろうか?」
これは単なるキャラクター同士の相性の話ではない。
物語を創る者として、その「勝利」をどう描くか――
もっと言えば、どう納得するかという根本的な問題なのだ。
たとえば、王道のクライマックス。
剣を携えた主人公が、塔の頂で最強の魔法使いと対峙する。
読者も、作者も、その場面を待ち望んでいる。
……だが、現実的に考えてみる。
魔法使いは、圧倒的な遠距離火力を持つ。
雷、炎、氷、空間断裂。詠唱と同時に死が届く。
対する剣士は、剣のリーチと脚力だけが頼りだ。
弓兵なら、まだワンチャンスがある。
詠唱の隙を突き、矢を放てば可能性はある。
だが剣士は? いったいどうやって、その射程に届くというのか?
だから最初は、“勝たせる理由”を必死で探した。
魔力を打ち消す剣。
詠唱を封じる紋章。
魔法を無効化する古代の加護。
地形による戦術的優位。
けれど、書いていて、ふと手が止まる。
「これは、“物語を勝たせてる”だけなんじゃないか?」
読者に納得してもらうために、世界の理をねじまげていないか?
自分自身が、ほんとうに納得して書いているのか?
歴史を見れば明らかだ。
リーチは、戦場で最も重要な要素だ。
剣より槍、槍より弓。
遠くから制圧できる者が、生き残る。
それが戦術の真理だとすれば、剣士に勝ち目はない。
では、なぜ剣士を書くのか?
魔法使いのほうが、合理的で、強くて、万能なのに。
それでも私は、剣士を主人公に選ぶ。
その問いに対する明確な答えは、今もない。
だが、ある場面を思い浮かべると、理由がわかった気がした。
焼け焦げた右腕。
折れた剣。
砕けた歯と、見えなくなった片目。
それでも、剣士はよろめきながら、魔法使いのもとへ歩を進める。
魔法使いが嘲るように言う。
「もう剣も握れまい。なぜ立つ?」
剣士は、血の混じった息で答える。
「それでも……お前の心臓までは、あと二歩だ」
その一歩に、勝利はないかもしれない。
次の瞬間、彼は灰になるかもしれない。
でも、その一歩にこそ、物語がある。
スペックでも、理屈でも、勝敗ですらなく。
それでも進もうとする者の姿に、私は目を離せなくなる。
だから、剣士は“勝たなくていい”のかもしれない。
むしろ、“勝てない”という前提の中で、
それでも進む姿こそが、剣士という存在の核心なのかもしれない。
そして私は、そんな物語を描きたい。
答えなんて、なくてもいい。
勝つ理由を探すのではなく、書かずにいられない衝動こそが、剣士を立たせる。
だから今は、それでいいのかもしれない。
答えはいつか見つかるだろうし、見つからなくても、きっと困らない。
そんな戦士と魔法使いの物語を読んだ誰かが、それで満足してくれたなら。
今は、それで十分な気もする。
ファンタジー創作エッセイ集 ~ 嘘でもフェアでありたいという気持ち ~ 霧原零時 @shin-freedomxx
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