スポーン
このゲームは初期スポーン地点が広大な『始まりの丘陵』というマップのどこかからランダムに選択される。
運が良ければ町のすぐ近くにスポーンできるかもしれないし、運が悪ければ最悪湖の近く、つまりは町から一番遠くのマップ中央付近にスポーンしてしまうこともある。
運営がそんなにステムを採用している理由は簡単、プレイヤー人口が多すぎて町にスポーン地点を設定してしまうと町が人で埋め尽くされ人が溢れてしまうからだ。
「だが、それにしてもだな……」
俺は目の前に広がる広大な湖、原初の古代湖を眺めながら慄いた。
ゲーム内で幸運値を盛ったとしても、こういう場合はリアルラックが反映されるらしい。
まさかその最悪を引いてしまうとはどれだけ運が悪いんだ。と、自分の運の悪さに呆れかえりながら、第一の町『モノロード』へ向けて足を進める。
モノロードまでここから歩いて大体三時間らいだろうか。このゲームのフィールドの広さはまあプラスポイントなのだろうけれどもこういうときだけは勘弁してほしい限りだ。
特性とアクセサリーで速度と持久力は盛っているから多少それよりかは早く辿り着けるだろうが、それにしても遠い距離だし、どうにかならないものかと考えたけれど、ゲームシステム以外碌に調べてもいない初期プレイヤーが裏技使ってどうこうなどできないので、おとなしくモノロードまでのマラソンを行うことにした。
マラソンを決行するにあたってモンスターに遭遇するかも知れないので、もう一度俺のステータスを確認しておこう。
――――――
『雨露』
LV-0 技術LV-0
職-召喚魔法師
HP:100(MAX+50)
MP:80(MAX+50)
スタミナ:88(+8)
筋力:70
敏捷性:80
耐久力:77(+7)
魔人適性:5%
幸運値:60%(+10%)
クリティカル率:15%
クリティカル補正:250%(対人-150%)
物理ダメージ:40%
魔法ダメージ:110%
特殊ダメージ:100%
スキル
-なし
特性
『俊敏』『強靭』『ギャンブラー』『一発逆転』『小人』『善人』
-大剣系装備の使用不可
-盾装備の使用制限
-プレイヤーへのクリティカル補正が小低下
-装備できるアクセサリーの最大数が-1
装備
武器:古びた魔導書
頭:なし
胴:旅人の服
腰:旅人の腰巻
脚:古びた短パン
足:古びたブーツ
アクセサリ(-1)
-銅のネックレス
所持金:100G
――――――
こう改めてみるとステータスは極めて高水準なのだが、やはり特性の欄のデバフが大きい。
使用不可というのはいささかやりすぎた特性を選んでしまった気もするが、まあ過ぎたことは仕方がない。
アイテムボックスから古びた魔導書を取り出し装備。
丘陵を超えた森に向かって走り出す。
「ていうかすごいなこのゲーム」
自分の身体より一回りも二回りも小さな体のアバターなのに全くと言っていいほど違和感がない。
まるで本当に自分の体であるかのようだ。
それに五感「視覚」「聴覚」「味覚」「嗅覚」「触覚」そのすべてが現実世界と同じように機能する。肌を撫でるそよ風、広がる丘陵から香る草原のにおい、手を握り大地を踏みしめる感覚。リアルに限りなく近いそれらの感覚はすでに現実世界と見分けがつかないほどであった。
流石は「まるで現実をゲームにしたかのよう」と言われるだけはある。
サササと草の擦れあうような音、振り返るとそこにはスラリとした犬と狐の中間のようなモンスターがこちらを狙っていた。
突如、手元に召還していた古い魔導書が開かれ、そのモンスターの名前を表示していた。
犬型モンスター『ブラック・クー』LV6
犬型の序盤モンスターはこういうゲームでは結構定番で、スライム、ゴブリンときて三番目くらいに位置している。
「よっと」
突進してくる犬っころの進行方向から飛び退き、木の上から石を投擲。
案の定そこらへんに落ちているオブジェクトをにも投げればダメージ判定は生まれるらしく、改めてゲームのクオリティーとリアリティーに感心した。
傷口は赤く光を放ち、ポリゴンがゆらゆらと表示されているのは流血表現だろうか?
まあリアルに表現しすぎるとR指定が付きかねないし、妥当な仕様であるといえるだろう。
ただ相手がダメージを受けているというのは分かったので、そのまま投擲による攻撃でじわじわとダメージを与えていく。
魔法職なのに投擲って……と思うかもしれないが、このゲームには初期魔法など存在しない。
魔法職は序盤お世辞にも強いロールとはいえず、何なら最序盤は魔法すら使えない。魔導書を購入し、レベルスコアと使える魔法の技術レベルを吟味しながら、少しずつプレイスタイルに合った構築を組んでいくロールである。
ただしもうすぐ来るアップデートである魔法技術が追加されて、システムが結構変わるそうで……
あ、なんだかんだ言ってる間に倒せそう。
吹き出すポリゴンの量が尋常じゃなく増え、体が殆どポリゴンに覆われたのではないかというころ、モンスターがパタリと倒れ、身体のすべてがポリゴンと化して霧散した。
「ドロップアイテムは地面に転がって出現する感じなんだな」
地面に転がるドロップアイテムに手を伸ばし拾うとアイテム名が表示される。
ドロップしたアイテムは
『ブラック・クーの毛皮』
『ブラック・クーの犬歯』
の二種。
毛皮も歯も装備に加工したり換金できたりするアイテムなのだろう。
まあ何とか記念すべきモンスター一体目を倒すことはできたが、武器なしで街にたどり着かなければならないとなると結構つらい。
なので、このゲームの自由度を存分に生かし武器を作ろう。できるかどうかはわからないがこのゲームでは試してみる価値は存分にある。
「よーし、いっちょ作りますか」
ネクストフロンティアストーリー 文月 @runishipp
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