ロール選択
そういえばこの前買った……いや買ってもらったゲーム、プレイしてなかったな。
あれから一週間ほどが経ち、夏休みが始まって予定も特になく、暇を持て余していたところ、不意に修二に買ってもらった例のゲームのことについて思い出した。
別にだらだら言い訳をするつもりはないのだが、一つこのゲームを放置するに至った理由を一つ述べさせてほしい。
別のゲームをやっていたのだ。
ピクセルクリエイト、ブロックを積んで建築したりするあれだ。あのゲームは時間が無限に溶けていく。
今日も朝からそのゲームをしようと思ったのだが、さすがに宿題に手を付けなければまずいと正気に戻り、数時間ほど課題を消化してから今の状況に至ったわけだ。
課題を終わらせた後、俺はどうにも何をやるにもやる気が起きず、あれだけ熱中していたピクセルクリエイトも、起動するだけの気力がないし、なんだかやる気も起きない。
だが、何かしたい。
退屈と怠惰の間で葛藤していたその時、ふと、あのゲームのことを思い出したのだ。
NFS3、修二に買ってもらったゲーム。
その瞬間、自分でも驚くくらいに自分の中の好奇心とやる気が活発化し始め、すぐさまスマートフォンを手に取り、事前リサーチを始める。
MMORPG、言わずもがな最初に行うことは一つである。
『ロール選択』
おまけのキャラメイクとかはぶっちゃけどうでもいいが、これはゲームプレイの快適度を左右する重要な要素である。
「よし決めた」
リサーチを終えた俺は電光石火の勢いでVRゴーグルとNFSのソフトを手に取り、起動。遅々としたダウンロードを今か今かと待ちぼうけした末に、ようやくキャラメイクを開始した。
俺がこういう系統のゲームで作るアバターは一貫している。
とにかく当たり判定を小さく、だ。
体が小さければ小さいほど俺にとってはアドだからである。
物理演算がしっかりとしているこのゲームでは小さいアバターだと大剣や長物の銃などは当然のごとく扱えない。
装備している剣にも当たり判定があり、剣先が地面をすり抜けるなんてことは決してないので、小さいアバターであれば小さいアバターであるほど持ち歩くことすら困難になるだろう。
だが、俺が今回選択するロールは『
魔法職が扱う杖や魔導書はこのゲームであれば宙に浮かせることができるらしいし、敵の攻撃を回避しやすくするためアバターを小さくするのは妥当な選択といえる。
そしておまけに、アバターが小さいと相手プレイヤーから情けをかけてもらいやすいというのもポイントだ。
常識を持った人間であれば、ゲームの中とはいえ普通小さな子供のアバターに暴行を働くというのは躊躇われるものだ。
これが女児であればなおさらであろう。
一応このゲームはPKが存在しているらしいので、用心しておくに越したことはない。
念には念を入れて儚げな表情がよく似合いそうな顔にしておこう。
次に特性。
このゲームには初期にのみ設定することのできる(一部例外を除く)特性なる要素があるらしく、それぞれの特性にはバフデバフがある。
例えば病弱、一見デバフにしか思えないこの特性だが、最大体力と運動能力、デバフへの耐性が下がる代わりに、最大魔力量が大幅に増えたり魔人適性なる値が大幅に上昇したりなど様々なバフがある。
このようにバフとデバフを天秤にかけ、どのようなビルドを組むかを熟考する。これはこのゲームの最も面白い点の一つといえる要素であろう。
そして俺が選択した特性がこれ。
『俊敏』+速度と跳躍力が大幅に強化される。
-装備できるアクセサリーの最大数が-1
『強靭』+耐久力・筋力・スタミナが特強化、デバフへの耐性が特強化
-盾の使用制限
『ギャンブラー』+スキル・魔法のダウンタイムの短縮
クリティカル確率の小補正
-アイテムを使った体力・魔力回復の値がランダム化
『一発逆転』+クリティカル確率の大補正
-基礎物理ダメージの大幅低下
『小人』+最大魔力量の大幅上昇
-大剣の使用不可
『善人』+幸運値に中補正
-プレイヤーへのクリティカル補正が小低下
この特性のビルドはとにかく「速度と耐久力で攻撃をしぶとく耐え、チクチク魔法と召喚魔法で相手を攻撃し、クリティカル補正と高い幸運値やクリティカル率でワンチャン必殺を狙う」
題してラッキーゴキブリ構築、略して『LG型構築』だ。
基本プレイヤーにはケンカを売らないので善人の特性をつけ、幸運値にわずかながらの補正をかけているのもポイントだ。
相手にしたモンスターに心があるなら印象は最悪だろうが、モンスターには心がないので関係ないだろう。
次に、初期装備。
まあ言っても初期装備なので、これより強いものが結構序盤で手に入るらしい。
なので適当に軽くて動きやすそうなものを選んで、アクセサリーは町に早くたどり着くために『銅のネックレス(スタミナを小強化)』を装備して、武器は『古びた魔導書』をチョイス。
『魔力の籠った短い杖』という選択肢もあったが、『古びた魔導書』のほうが売却時の金額が高かったためこちらを選んだ。
「最後にプレイヤーネームか……」
ロールや見た目、特性などの要素はある程度の方針が定まっていたためスムーズに決まったが、プレイヤーネーム。これはそう簡単にはいかない。
プレーヤーネームとはすなわち見た目に並ぶほど第一印象を決める大きなファクターとなる。
たとえば「✟Kirito✟」なんて名前を付けようものならその瞬間終わりだ。そいつに人権はない。
まあそれはさすがに極端な例ではあるが、それくらいにプレイヤーネームとはオンラインゲームをプレイするにおいて重要な要素だ、と俺は考えている。しらんけど。
よってここは熟考に熟考を重ねて……
「『雨露』に決定」
ちなみにこの名前に至った経緯は
田中柳生
↓
柳生
↓
英語で柳はウィロー、生はロウ
↓
繋げてロウウィロー
↓
略してロウロ
↓
もっと略してウロ
↓
漢字変換して雨露
↓
そのまま読んで「あまづゆ」だ。
これでアバターの見てくれにあった名前にもできたし、決定。
ゲームスタートだ。
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