第3話 国で監禁

いったい何歩歩いたことだろう。

前に進んでる気がしない。


「これいつになったら着きそう?」

梨沙が弱音を吐き始めた。


「もうすぐですよ」

マルちゃんは、ハゲ、オジ、マッチョだから体力の底がなく、スタスタと歩いて行ってしまう。


「はあはあ」

歩けども歩けども焼け野原。

異世界ファンタジーのような町並みとか、クエストのための洞窟とかの影すらなかった。


「ところでさ、この前みたいな排水溝で行けるパターンないの?」


拓也はミノタウロスに襲われる前の出来事から何とか記憶を絞り出してきた。


口をへの字に曲げながらマルディーニはこちらを見る。


「服汚れますけど、大丈夫ですか?」

笑顔が逆に怖い。


「大丈夫です。むしろ、お願いします」

拓也は深々と頭を下げた。


「では、こちらです」と真下にある土を踏みつけ、マンホール型の蓋を開けた。

(そこにあったんかい。)


「実はどこにでもあるんですか?」

「はい。歩いてきた道に等間隔で設置してあるので」


じゃあさっきの出来事怒ってんじゃん。

これは、まずい。挽回しないと何が待っているかわからないぞ。


今回は梯子がついてるのかと思い、マルディーニの後を追い、底に着いた。


排水溝の前に着くと、水が流れており、向こう岸は暗くなっていた。


「頭上に紐があるので、それを持って置いてください。持っておかないと吹き飛ばされるので」

どっからどうみても、真っ暗なウォータースライダーだった。

まずはマルディーニが入り、その後に人差し指の梨沙、最後に拓也と言う順番だった。


「最後排水溝の蓋閉めてください」

「分かりました」


重い蓋を引き、定位置に着いた。

マルディーニは頭のライトの調節をし、ベルのような音を鳴らした。


すると、やまびこのように反対側からも同じ音が返ってきた。

「これ何の音?」

間抜けな声で梨沙が聞いた。


「これは、行先に向けて、『これから行きます。』みたいな合図です。鳴らさないと、端から端まで飛ばされてしまうのでね。では行きますので、拓也殿から紐を離してください」


「離しました」

勢いで梨沙の肌に体がぶつかる。

「ちょっと、あんま体押し付けるな」

「しょうがねえだろ。なんも見えないんだから」


「それでは梨沙殿も離してもらって」

離すと、つるつるする何かに触れていた。


「今日だけは許します」

それは、マルディーニの禿げ頭だったのだ。


やらかしたと梨沙が思ったが、もう遅い。

この感じ、絶対キレてる。


「では、準備できたので行きましょう」

マルディーニが紐を離すと、すごいスピードで動き始めた。


「うわあああああああああ」

顔の頬が上空から落ちたような感覚になり、上へ下へ右に左にとすごいスピードで、動く。

そんなことを数分繰り返すと、目の前から声がした。

「おーいマルディーニ殿そろそろ準備を」


「わかったー。では皆さんそろそろつきますので、しっかり捕まっておいてください」

二人とも鼻水やよだれだらだらで、それどころではなかった。


だが、とりあえずマルディーニの指示に従い前の人に体だけは、寄せておいた。


暗い空間に明かりが射す。

どうやらあそこが、ゴールらしい。

ゴールが近づくにつれて、暗い空間に差し込む光の量も多くなっている。


どんどん黒い壁が近づいてきた。

「やばいやばい。これ目の間に追突する」

「汚い手で、お腹つままないで。おじさん」


彼女の冷たさのせいで、おしりに感じる水の冷たさが、温かく感じられた。


「それじゃあ行きますよ。脚の伸縮レッグ・ポンプ

足に筋肉を集中させ、伸縮によって衝撃を分散させてくれた。


「「わわっわわっわわ」」

それでも体に来るものがあり、二人とも体を震わせていた。


「では、こちらです」

横から手が伸びており、それに一人ずつ捕まり、外に出た。

外に出ると、たくさんの兵がマルディーニを見て、敬礼した。


王国の前かとおもったが、どうやら違うらしい。

周りが白いレンガに囲まれており、緑色のランプに照らされていた。


マルディーニは一礼をすると、周りの兵士たちは周りを取り囲み、王である彼と、歩幅を同じにした。


少し長い坂を上ると、白き王城の前に出た。


「「大きくて、きれいだ」」

あまりの大きさに開いた口がふさがらない。


「そうでしょう。先祖代々この城を守ること何百年。いまだ魔族の侵入を許していない鉄壁の城それこそが、我が城マハトン城です」


マルディーニは大きく手を広げ、城をアピールした。


兵士たちは、大きく拍手。

マルディーニが拍手の喝采を抑え、「それでは勇者殿こちらへ」


「どこへ向かうんだ」

拓也は間抜けな声でついていく。

「長旅で疲れたでしょう。ご飯を城下町で用意しておりますので、どうぞこちらへ」


「それは気が利きますな」

「ねえ、本当にありがたい」と梨沙が人差し指をくるくるする。

喜んでるみたいだ。


「いえいえ。勇者様は、この国を救ってくださる者。そんな方にはぜひ、ご飯をふるまいたいというものが多くて」


「そりゃまいっちまうぜ」


王城の門が開く。

門は荘厳なたたずまいで、黒く重々しい雰囲気を漂わせていた。


城下町は、にぎわっていた。

門が開くと一気に歓迎ムードだった。

そこら中で花火が打ちあがり、楽器の演奏が鳴り響く。

「勇者様」「こっち向いて」「向いた。きゃあー」

黄色い歓声があちこちで聞こえてくる。


ニタニタしちまうぜ。

拓也の頬を梨沙がつねる。

「なんだよ」

「あれ見て」


見ると歓声で見えなかったが、周りの細い道から、こちらを睨む男の子がいた。

「なんで、こっちを睨んでるんだろうな」

「さあ。でも、嫌な予感がするんだよね」

「まあ、心にとめておこう」


着くとそこは、外と内側をつなぐ塀だった。

ここに店があるのかと怪しくなってきたが、いままで自分たちを助けてくれたマルディーニを疑うことのなどできなかった。


塀にはそれぞれ小窓が用意されており、そこかしこから視線を感じた。

だが周りには誰もいない。


「では、こちらです」

マルディーニは塀の中の小窓の一つに手を入れ、そこを引くと、ギギギッッと鈍い音を立てながら、ドアが開く。


(何だ何だ。)

中を覗くとたくさんの異国のご飯が用意されていた。

「飯だ。久しく食べていなかった、楽しみだったわ」

拓也は、警戒心などまるでなく、入って行く。


梨沙も恐る恐る拓也について行き、机に腰を下ろし、目の前の光景によだれを止められずにいた。


「では、お二人で楽しんでください」と言って、マルディーニは戸を閉めた。


嫌な予感がよぎった。

ドアまで行くと、鍵が開かない。


「どいうことだ?」

「何がです?」


「開かない扉の件だ」


大きなため息とともに、見えぬからこそわかる怒りの口調。

「勇者はわれらにとって悪だ。魔族と同等に人を殺す」

「それとこれとに何の関係があって、俺らをここに入れておくことにどんな意味がある?」

「勇者はそれしか言わないな」


マルディーニの人を見下すようなため息が聞こえてくる。

「何のことだ?」

「勇者は神がこの世に遣わした存在?!ばかばかしい。お前らの正体は勇者ではなく災禍をこの世にもたらす存在だ。その体についた呪いは、人によっては死をもたらす。それの暴走によって人をも殺す一手となりうる。そんな奴らをこの人々が暮らす世界ににおいておくことなど不可能だ」


「だが俺たちの呪いはまだ暴走をしていないぞ?」


「まだな。そのうちすることに変わりはない」


マルディーニは「また来る」とだけ言い残し、小窓を閉じた。

話したいことが山のようにあるが、結局聞けずじまいだった。


冷めた食事の前に立つことしかできなかった。



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