第2話 土管の底

死んだ・・・はずだった。



こぶしが拓也たちに当たる瀬戸際で、地面が開き、マッチョおじのおかげで、難を逃れた。


「俺たちは助かったのか?」

「そうみたいね」

「ちなみにここはどこなんだ。暗くてよく見えん」


おそらく地面の底なのは、わかるが。


すると、一つの光が、自然にというよりは人為的についた。


「先ほどはありがとうございます。おかげで助かりました」



小さく、しわくちゃな笑顔のおじいちゃんが、そこにはいた。


あまりにも小さくて、子供みたいだ。さっきの筋肉はどこから出したのかと思うほどだった。


「いえいえ。ご無事で何よりです。それより、はじめまして、1082代目の勇者様」


(そんなに勇者がいるのか?)


おじさんは続けて言葉を紡ぐ。


「私タルトニア国で国王代理をしております。マルディーニ・ポカロと申します。以後お見知りおきを」


「はじめまして。私は遠藤梨沙。何とお呼びすればいいですか?」


梨沙がかしこまる。


「うわあーー。どこからか女の声が?」


「ごめんな。こいつ呪いで、透明なんだ」

「そうでしたか」


「驚かないんだな?呪いと聞いても」

「ええまあ。どの勇者様も呪い持ちでしたからね」


「待て。ほかにも勇者がいるのか?」

「いましたとも」

「ぜひ、会いたいな」


「ねえー。会って、この世界のこともっと詳しく知りたいよね」


「機会があれば会えると思います」


「じゃあ楽しみにしておくか」


マルディーニは、その時の顔を見られたくないのか、顔を伏せた。


「ちなみにあなたは?」

包帯で体を巻かれた、男にも一応名前を彼は尋ねた。

「俺は高橋拓也だ。拓也って呼んでくれ。勇者様とかちょっとハズいからよ」


「わかりました。梨沙殿、拓也殿と呼ばせてもらいます」


「ところで、名前は何てお呼びすれば?」


「そうでしたね。ぜひマルちゃんとお呼びください。国民からはそう言われておりますので、それで」


「ずいぶん軽い愛称ですね。打ち首になったりしないんですか?」


梨沙の声の方へ微笑みながら、歩くよう促した。


マルディーニが前を歩き、その後ろに二人が続いた。


「私はかつて、この国の一つの村の村長をしておりました。そこから、あれよあれよと国王代理になったので、その愛称がついているのです。国民に慕われているのむしろ良いことです。そんなことで、殺したりなどいたしませんよ」


「ちなみに何で村長が、国王を?」


普通におかしいだろうと拓也は思い、聞いた。



「私の村は魔王軍によって滅ぼされ、タルトニア国に逃げるように、移り住んできました。その後、国王は、ある事件によって戦死されました。すると、国王の座が空いたことにより、身内での激しい戦いが起きたのです。残ったのは、三男のメギストリス・グラン様、3歳でございます。そんなお若い方に、この辛い世の中を背負わせるほど、この国の民もバカでは、ありません」


二人は息を呑んだ。


時折きらめく頭に注意をそがれながらも、話を何とか聞いた。


「国民の間で選挙になり、私が彼の方をお支えする剣となったのです」


(かっこよすぎる。なんだこの勇ましいおじちゃんは!ハゲだけど。)


「さて、着きました」


前を見ると、排水溝が人間のサイズでそこにあった。


「うん、これは何?」


「これは魔道具でございます。この中に入ると、水の勢いで、すぐ町まで行けるのですよ」


「汚そう、服汚れない?」

梨沙が尋ねる。

透明なのであまり気にしてなかったが、「服着てるのか?」

拓也は唐突に聞いた。


「来てるわよ。青のワンピース。こんなナイスバディなのにおじさん見れなくて残念だね」

なんでこいつこんなにも強気なんだ。


「それよりおじさん。その白い包帯で大丈夫?全身黒くなったりしないの?ぷぷ」

めちゃくちゃ腹が立ってきたわ。


「いちいちうるせんだよ」と拳を前に伸ばしたが、すかした。


「アハハ!当たってないですけど」

反対方向に次は拳を伸ばす。

カッツン。包帯のほどけてる部分が当たった。

「どうだ見たか」


拓也が息巻いていると、「勇者様痛いです」

目の前には、マルディーニが、半ギレでそこにいた。

(やばいやばいやばいやばい、どうしよう。)


「すいませんでした」

狭い空間で土下座を地面に摩擦で熱を帯びさせるくらい、額をこすりつけた。


「次はないですよ。はしゃぐなら、お二人とも無事になってからにしましょうか」

マルディーニ殿は目が笑っていなかった。


「「すいませんでした」」

ふたりで大謝罪をした。


「ところで、この包帯何か書いてありますよね」

マルちゃんは、包帯に光を集め、見た。


「そうなんです。この文字が何かさっぱりわからなくて・・・」

「これは、守護イクスという言葉ですね。我が大陸の言葉ですね」


守護・・・」

ガッーーーーーーン。

目の前の排水溝の前に大きな斧が差し込まれた。


「なぜ見つかった?」

マルディーニは驚いているようだった。

何が起きたのかと二人はたじろいだ。


「お二人、もしかしてミノタウロスに傷をつけられましたか?」

「ええ。助けてもらう前に、ミノタウロスの斧で傷を頬に」

頬をマルディーニの方へと見せた。


マルディーニは黙った。

「どうかしましたか」

「ミノタウロスに見つかりました」

「「ええっ?!何でですか?」」


「ミノタウロスにとって傷はマーキングなんです。こうなってしまったら、倒すしかありません」

「あんな化け物倒せるんですか?」と梨沙は聞く。


「わかりません」

「分かりませんって」と拓也は呆れた。


「ただ、やるしかないんです」

ドスドス。

大きな足音が近づいているのが、地下にいてもわかる。

ドスドス。


ドンドン音は大きくなる。

心臓の音も早くなる。

うおぉぉぉぉーーー!!!


ミノタウロスの雄たけびで拓也は腰が抜けた。

あんなの勝てるわけない。

自分の身長の少なくも10倍あるやつだぞ。


倒れていると、地面がいつの間にか濡れていた。

「かかかか勝ってこないよ。あんなの・・」梨沙の震えが伝わってきた。



「はあ、それじゃあ、分かりました。私があいつを引き留めます。その間に逃げてください」

マルディーニはそれだけ二人に言う。

「筋肉解放。第一形態 脳筋ブレイン パワー

マルディーニは雄たけびを上げたと思ったら、見る見るうちに、腕も足もそして頭さえも筋肉がもりもりついた。


さっきのハゲてて小さなおじいちゃんの姿はなく、マッチョで大きな背中の大人の姿しかなかった。


「では、二人とも両手を力こぶに」

「は・・い」

「わかりました」

二人ともがっしり掴んで、離れないようにした。


「ではいきますよ。マッスル」

伸ばしていた腕を縮め、力をためる。

「パンチ」と言って、上の土を拳で破壊し、地上に出た。


(そのまんまかよ。)

拓也は、必死に食らいつきながら、腕に捕まっていた。

梨沙は、腕が引きちぎれそうだったが、離せば死ぬと思い、地上に足がついてからようやく、シビレた腕を離した。


目の前には、ミノタウロスが向かってきていた。

先ほどとは違い、目が赤い。

「目が赤いんですけど」

「あれが、マーキングです」とマルディーニは、目の前のモンスターと闘うために構え始めた。


「あの眼が赤い時、もう逃げることはできません」

「じゃあ、さっきの逃げてくださいは何だったんですか?」と拓也が言う。


「気休めです」

「「えええええええーーーーー」」


「さあ。きますよ」

ミノタウロスが拓也目掛けて突っ込んでくる。

その横にマルディーニはスライドし、高く、頭上にジャンプした。

空中で足を回転させ、頭へと食らわせる。


「大殿筋のレッグプレス

地上へと叩きつける。

ミノタウロスの頭部が地面にめり込んだ。


「バケモンかよ。マルちゃん」

「でも、これで・・・勝ったん・・・じゃない」

梨沙は震えながら、言葉を探す。


煙の中からほぼ無傷のミノタウロスが頭を震わせていた。

「このままだと、全員死にますね」

「死ぬってマジかよ」


逃げても死ぬ。この場に止まっても死ぬ、どうしたらいいんだよ?!


(そういえば、さっき教えてくれた言葉をここで使えばいいんじゃね。)


「ここは、俺に任せろ」と拓也は強気に胸を張った。

「何馬鹿なこと言ってるの、マルちゃんですら、勝てない相手に何ができるのよ」


「まあ見てろって」

女神もこの能力を使えば力を得られるかもって言ってたし。


「行くぞ、守護イクス

すると、腕に赤い小手が装着された。

小手の上部には、銀色で出来ている腕を守るための物が装着されてるだけだった。


「こんなんで、どうやって勝つんだよ」

やっぱりこうかと、片方の拳を前に出して、ファイティングポーズをとる。


ミノタウロスは、そんなに待ってくれず、こちらへとまた突っ込んできた。

もはや角が付いた新幹線だった。

突っ込む瞬間・・・

「筋肉の守りマッスルガード

マルディーニが筋肉で私たちを守ってくれた。


だが、その筋肉を突破して、ミノタウロスが突っ込んできた。

(もうだめだな。)

けど何としても梨沙だけは守ると決めて前に出た。

「なにしてんの。殺されちゃう」


梨沙が叫んだのも、つかの間、拓也に突っ込んでおり、拓也は小手を抱えたまま

腕を交差させた。


「っ?!」

痛いと思ったが、丸みを帯びたシールドが拓也を包んでいた。

「死ん・・・だと思った」


だが、ミノタウロスは目の前におり、交差した手が若干重かった。

「重いわ」


交差した手を前に突き出すと、小手の上部から、斬撃が飛び、ミノタウロスの首をはねた。


「勝ったのか」

「勝ったね」

何かに頬を突っつかれた気がして、後ろを振り返ると、人差し指がそこにはいた。


「梨沙指が見えてるぞ」

「本当?!呪いを解いたおかげじゃん」


やったー!と二人でハイタッチをした。


「ご無事でしたか」

マルディーニは、ハゲチビに戻っていた。


「小さくなってる」

「力の時間切れですね。では、奴も倒したことですし、我々の国にご案内いたします」

マルディーニは歩きはじめ、二人もそれに続いた。


そして僕らは、マルディーニの頭の輝きの無さを見て、もう日が出てないことを知った。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る