修学旅行前夜、妄想と決意が交錯する青春譚

<第1話「修学旅行の野望」を読んでのレビューです>

物語は、主人公の男子高校生が修学旅行を目前に控え、学年一の美少女への妄想と野望を心に秘めるところから始まる。日常的な学校生活の描写と、極めて個人的な心理の細部が交錯し、文章は静かなテンションを保ちながらも、時折噴き出すような興奮が透ける。そのリズムは、読者の意識を主人公の内面に密着させ、まるで隣で息を潜めているかのような臨場感を作り出す。更に、男子更衣室での会話や掃除当番でのやり取りなど、日常的なディテールの積み重ねが、彼の思考の暴走を自然に浮かび上がらせている。

「俺はここに宣言する――修学旅行で女子の裸をこの目で拝むことを」
妄想と現実、友人たちの反応が絡み合う瞬間の淡々とした語りで提示することによる読者に強い鮮明さと同時に、青春特有の滑稽さを与える一文。

読み終えた後、作品は単なるエロティックな妄想譚ではなく、思春期の男の子の心理を丁寧に追い、日常と非日常の境界を巧みに描くことに注力していることが分かる。その描写の正確さと緻密な心理描写が、読後に柔らかな余韻を残す。

その他のおすすめレビュー

桑葉 志遊 (クワバ シユウ)さんの他のおすすめレビュー185