第22話 自動戦闘【主律星フェニス】

 リメアは身を隠しながら素早く移動する。


「おいどうした、これがそんなに気になるか?」

 

 ちらと声がする方を見れば、アーヴィが精霊の前に躍り出て注意を引きつけてくれていた。

 精霊は先程までの動きをピタリと止め、目玉もアーヴィが掲げた開霊端子に釘付けだ。

 

(リッキー、あれってなんなの!?)

「わかりませン、呼び出せるアーカイブ領域に記録されていない物質デス」

(でもおかげで精霊に隙ができた! リッキーは出てきちゃだめだからね! また精霊のエーテル妨害で消えちゃったら困るもん)

「承知しまシタ。リメア様の内側から、できる限りのサポートをいたしマス!」

(お願い!)


 乱立する放熱塔の間を走り抜け、大きく回り込んで精霊の背後にたどり着いた時。

 精霊が大きく吠える。

 ビリビリと鼓膜が痺れるほどの振動が人口太陽を揺さぶった。


「や……て! そ…………ない……で!」

「……っ!?」


 まただ、とリメアは片目をつぶりこめかみを押さえる。

 耳をつんざくような咆哮に混じり、どこからか声が聞こえてくる。

 声は遠ざかったり近づいたりと、発生源すら判然としない。

 精霊の声と重なっていること以外、いったい何なのか誰なのかも見当がつかない。

 

「んーもう! よくわからないけど、仕掛けるなら今しかない!」


 リメアは気配を消し、放熱塔に駆け上がると側面を静かに蹴った。

 エーテルの放出を行っていないため速度は遅いが、重力の軽減された人工太陽上ならジャンプの距離は大きく伸びる。

 空中を移動すれば、金属質の地面へ伝わる振動に精霊が気づく恐れもない。

 

(ここだっ!)


 ガントレットをはめた右手を大きく振りかぶり、精霊の足の1本を思い切り殴打した。


『オオオオオオオオオオオッ!』


 殴った衝撃で破断した鎖が飛散する。

 リメアは確信した。

 

(この足には、エーテルが通っていない!)

 

 ムチのように攻撃を仕掛けてくる鎖と違い、精霊の体を支えている足には、エーテルの反応が見られなかった。

 つまり殴る蹴るの物理攻撃で破壊可能ということだ。


「リメア様! 左舷より目玉ガ!」

「わかってる!」


 身を翻し、ちぎれた精霊の足の根元を足場に離脱する。

 放熱塔で視線を切り、不規則な移動を繰り返す。


「片腕はかすっちゃったけど、これなら……!」


 左手のガントレットは手の甲から先がなくなっていたものの動きに支障はない。

 精霊が視認してからエーテル遮断まで僅かなラグがある。

 それだけの時間があれば不可視の攻撃でも避けることは可能だ。

 精霊がリメアを見失ったあたりを注視している間に腹下へスライディングで潜り込む。

 

「こっちだ……よっ!」


 強烈なアッパーをガラ空きの腹部へ叩き込むと、離脱ついでに別の足を蹴り飛ばし更に1本破壊に成功。

 鎖のムチが地面スレスレを薙ぎ払う。

 精霊の目玉が腹下を覗き込むが、そこにリメアの姿はない。


「隙ありっ!」


 先ほど振り払われた鎖にしがみついていたリメアは、鎖から手を離し精霊の胴体めがけて飛びかかる。

 体と足の付根に膝蹴りと右ストレート。

 バラバラと地表にちぎれた鎖の破片が落ち、遅れて巨大な2本の足が地響きを立てて倒れる。

 10本あった足の半数を失い精霊はバランスを失う。

 ゆっくりと倒れ込みながらも、蛇のような素早い動きで目玉の鎖がリメアの前にやってきた。


「残念でした! えいっ!」


 リメアが先手を打って蹴飛ばしたのは、目玉を先端に持つ鎖の根本。

 目玉がエーテル阻害を発動する直前、鎖を伝う衝撃の波が先端に達し狙いは大きく逸らされる。

 外したエーテル阻害の余波によりリメアの後方で横一列の放熱塔から光と煙が消えた。


 地響きとともに大地に転がる精霊。

 離脱しながらリメアは声を張り上げた。


「アーヴィーッ!!」

「任せろ!」


 リメアの戦闘中身を潜めていたアーヴィはこの機を逃さず、仰向けになった精霊の腹部へ飛び移る。


「うおおおおおおおおお!」


 威勢のよい雄叫びとともにアーヴィは右手を精霊に突き刺した。


「入った!」


 空中でガッツポーズするリメア。

 そのまま1回転して着地し、近くにあった放熱塔の背後に半身を隠す。

 一時的に動きを封じたとはいえ、目玉の脅威は消えていない。

 

「どうなったかな!?」


 少しだけ顔を出し様子をうかがった。

 倒れ込んだ精霊に動きはない。

 腹の上に乗ったアーヴィへ視線を戻せば、険しい表情を浮かべている。


「……クソッ、こいつ、鎖で本体ががんじがらめに覆われてやがる! 開霊端子が……届かねぇ!」

「アーヴィ!! 後ろっ!!」


 慌てて叫んだが1拍遅かった。

 

「ぐあっ!」


 鎖のムチがアーヴィを背後から襲った。

 吹き飛ばされた少年は力なく宙を舞う。

 

「っ!」


 精霊に見つからないよう、リメアは身を低くしながら落下地点へ駆ける。

 起きあがろうと躍起になった精霊は吠えながらやたらめったらに鎖を振り回している。

 どうやらかなり怒らせたようだった。

 足の数が足りず、精霊はうまく立てずにもがき続ける。

 アーヴィを助け出すなら今しかない。

 推定される落下地点付近にたどり着くと、リメアはさっと周囲を見回した。

 大きな血溜まりから続く血痕に目が止まる。

 考えるよりも先に足が動いた。

 痕跡を頼りに数十メートル進むと、放熱塔を背に座り込んだアーヴィを見つける。


「アーヴィ、大丈夫!?」

「あ、ああ。心配してくれてありがとよ。鎖のダメージはもう回復している。だが、やべぇな……」


 彼の呼吸は荒く、皮膚が赤く爛れている。

 水ぶくれも確認でき、その症状はまるで重度の火傷。明らかに鎖のダメージとは別。

 そこでリメアは初めて気がついた。

 このドーム内の気温が、徐々に上昇していることに。


「……やられたな。さっきので決めるべきだった。やけに悠長な攻撃をしてくると思っていたが、奴がノロかったんじゃない。端からこれは持久戦だったんだ」

「まさか! リッキー、今の気温ってどれくらい!?」

「現在測定したところ、外気温240度、床の金属部は50度を超えていマス! サウナどころの話ではありまセン! 鉄板焼きデス!」

「……声だけ聞こえるが、そこにいんのか? あの銀色の玉ッコロはよ。なぁ頼む、教えてくれよ。ヘイ、リッキー。この状況の打開策」

「リメア様の視覚情報から分析するに、質問者様にハ深刻な脱水症状が見受けられマス。適度な水分補給ヲ」

「悠長にジュースでも飲めってかよ……。あ゛ー、万事休すか? これ……」


 項垂れたアーヴィの額から、ボタボタと汗が滴った。落ちた水滴は地表で泡立ち、すぐに蒸発してしまう。


 遠くから一際大きな地響きが聞こえた。

精霊が立ち直ったのかもしれない。

 リメアは唇に手を当て逡巡する。


「さっきの作戦が厳しいなら、もう1回精霊のお腹を強く叩いて鎖を剥がせば……。あ、でもアーヴィがもう動けなくて……。じゃあ、逃げたほうがいい、のかな……?」

「……はっ、どこにだ? ここら一帯全面鎖で覆われてんだぞ?」

「うん……、でももしあの外壁にエーテルが通ってなかったら拳で壊せるはず。穴さえ開ければなんとか」

「じゃあ、そこまでどうやって行くんだ。ふぅ、あぢぃ……。跳躍ってやつも使えねぇんだろ? 走って壁際まで行くか?」

「でも現状、できることってそれくらいしか」

「おい――」


 アーヴィがやけに驚いた様子で、腫れた目を大きく見開いた。


「リメア、いつからその髪の色なんだ……?」


 ハッとして手を上に伸ばした瞬間、足から力が抜け崩れ落ちた。

 手をついたが支えきれず、そのまま倒れ込み頭を地面にぶつけ、ゴン、と低い音が鳴った。

 地面に押し付けられたほっぺからジリジリと熱を感じる。


「ぐっ……!」


 地面を押し返し、重い体を持ち上げてなんとか顔を上げた。


「そんな……精霊はまだこっちに気づいてないはずなのに……!」


 足音も、鎖の音も聞こえていない。

 リメア達は放熱塔の影に隠れたままだ。

 こちらからも精霊は見えないが、あちらからも見えないはず。

 なのにどうして、とリメアの頭がぐるぐると回る。

 

 アーヴィは周囲を見回し、ドームの天井を見上げた瞬間、口を半開きにしたまま固まった。

 同じ方向を見たリメアの背中に戦慄が走る。

 

「こんなのって……」


 カラカラの喉から飛び出した掠れ声に、混じる絶望。


 2人の目線の先、ドームの天井からはおびただしい数の鎖が垂れ下がっており、そのすべての先端で目玉がギョロギョロと動いていた。


 今までひとつしかなかった、精霊の監視眼。

 視野に入らなければエーテル阻害は受けない、という作戦の前提条件。だからこそ成り立っていた今までの行動。

 それらが今、すべて瓦解する。

 

「このドームの中に、もう精霊の死角はねぇぞ。ゴホッゴホッ、マジでやべぇ――」

 

 刹那、アーヴィの姿と一緒にリメアの視界に映る世界が、大きくブレた。

 遅れて体側を中心に激しい痛みが脳天まで走り抜ける。

 

「あぐっ!」


 打ち付けられた熱を帯びた鎖が、腕に食い込んでいた。息ができない。どちらが上下かもわからない。

 ミシミシと腕が悲鳴を上げている。

 鎖はさらに速度を上げ、身動きが取れない。

 

「うっ、がぁっ!」


 なんとか鎖のムチから体を引き剥がすも、そのままの速度で放熱塔に叩きつけられる。


「……かはっ!」


 エーテルで膜も張れず、減速も衝撃吸収もできなかった。

 大きくひしゃげた鉄塔の中腹からリメアは転がり落ちる。


「リメア! 避けろぉっ!!」


 うつ伏せに倒れたリメアの耳に、遠くから誰かの叫び声が折り重なって反響した。


 視界が波打つ。

 音がぼやける。

 思考が回らない。


 直後、背中を割くような衝撃が炸裂する。


「ああ゛っ!!」


 声をこらえきれないほどの痛みと同時に、轟音と舞い散る金属片。

 苛烈過ぎる鞭打に、体が地面から浮き上がる。


 状況を処理するよりも速く、次の攻撃が飛んで来た。

 視界の端で生き物のようにうねる鎖。

 身を守ろうと腕を上げるも、左腕が言うことを聞かない。

 五体をバラバラにするほどの運動エネルギーが、リメアを激しく打ちつける。


 力なく持ち上げた右手は、ガードの意味をなしていなかった。

 視界が、明滅する。



 やっと目の焦点が戻った時、リメアは地面に両手両足を投げ出すように転がっていた。

 痛みも、熱も、音も、すべてが鈍く、遠い。

 視界がだんだん狭く、暗くなっていくのがわかった。


 軽い足音が、近づいてくる。


「リメア! 返事をしろ! おいリメア! クソッタレ!! あれを使うか!? いやそれだと……」


 何とか開く片目を動かして見れば、慌てふためくアーヴィと目が合った。

 彼の顔には隠しきれない動揺と、迷いが見て取れる。


(なんだ、アーヴィまだなにか隠し持ってたんだ……)


 リメアはホッとした。まだ策はあるんだと。

 アーヴィのためらうような視線で理解する。

 負傷した自分が、今この戦場では足手まといになっているんだと。


 このまま意識を手放せばきっと、アーヴィは迷わなくて済むんじゃないかな、とリメアの中で小さな気の迷いが生まれた。


 それを皮切りに、四肢から一気に力が抜けていく。


「おいバカ! 諦めるな!!」

(アーヴィだけでも、逃げて……)


 言葉にしようとしたが口が言うことを聞かず、小さく息を吐き出すことしかできない。

 精霊がまた、大きく叫んでいた。

 

「……に……い! 間に……ない……!」


 音を失ったはずの耳に、再び聞こえてくる霞がかった声。

 ただ、すべてがもう手遅れだった。

  

(あ……)


 思考が粘る泥沼に沈んでいき、もうなにも、考えられない。

 ぷつんと頭の中で音がしたように感じたのと、視界が闇で覆われたのは、ほぼ同時だった。

 

 

  *



「この状況、俺ひとりじゃ荷が重すぎるぜ……ケホッ、ケホッ!」


 口の中はカラッカラ。

 汗も枯れ果て、アーヴィの気分は最悪だった。

 頼みの戦力は失われ、精霊は怒髪天を衝いている。

 鎖の鎧を突破する方法はなく、周囲の気温は上昇を続けている。

 手のひらに浮かんだ水疱を見るに、活動限界も近づいていた。

 アーヴィは唇を噛み締めた。鉄の味が口内に広がる。


 リメアを失ったのは、大きな誤算だった。

 彼女の戦力を、過剰に見積もっていた。


 本来ならば、この星で精霊を打倒しておく必要があった。

 それが凪の水面に投げ込む最初の石になるはずだったのだ。

 宇宙全体へと波紋は広がり、散り散りになった味方たちが呼応する。そして大いなる戦線が、長い時を経て復活するのだ。

 そんな算段だった、はずなのに。

 

「こいつを見捨てて、退散するか……? いや、だめだ」


 少年は首を振る。

 アーヴィ単体では、武力に乏しい。

 戦争が終結して久しいこの時代では、兵器集めも容易ではない。

 たとえこの場をしのいだとしても、次の手がなければ意味がない。

 ちらとアーヴィはうつ伏せに倒れた少女を見る。


 リメアの力は圧倒的だった。

 空を駆け、物体を生成し、精霊の鎖を砕く。

 体が小さい分隠密にも長ける。

 比較するのは野暮だが、少なくとも戦艦1隻分の戦闘力は有していると言っても過言ではない。

 やや反発的なのが玉に瑕だが、話せば説得、洗脳も可能だと見ていた。

 封印から目覚めたばかりの無名の反逆者は、彼女の力を大きく必要としていた。


 だが今。

 手札の限られた現状、リメアを回収して撤退することすらままならない。

 打つ手がなさすぎる。

 

「くそっ、どうすりゃいい……!」


 頭を抱えたその時だった。

 背後からやけに明瞭とした涼しい声を、アーヴィの耳がとらえる。


「エーテル残量危険領域。セーフモード、起動」

「リメア……?」


 振り返ると、虚ろな目をした少女がゆらりと立ち上がる。

 

「5次元空間からのエーテル摂取、失敗。残存エーテル更に低下。自己貪食オートファジー開始。エーテル膜、強制展開」


 矢継ぎ早に繰り出される言葉は、いつもの少女からかけ離れたものだった。

 機械じみた言動の最中、傷だらけになっていた左腕が突如粒子に変わり、少女の体に吸収されていく。

 すると即座に、失った腕の分だけ白銀の髪がスルスルと腰のあたりまで伸びたのだった。

 同時にバチバチと音を立てて少女のまわりに光の膜が形成されていく。

 膜は損傷と修復を高速で繰り返しており、精霊のエーテル阻害に対抗しているように見えた。


 呆気にとられたまま見つめていると、少女は首だけを動かしアーヴィへと視線を向けた。


「な、何だ……?」


 身構えるアーヴィの右手を凝視したまま、整然とした言葉を並べるリメア。


「知識回路展開。禁忌領域データへのアクセス開始……承認。データ展開。対象は記憶内のメルキオルの壊霊端子と73%のみ形状一致――メルキオル欠陥個体と推定」


 腫れた少年の目は限界まで見開かれ、唇が震える。


「欠陥……だと……? なんでおまえが、それを……」


 漏れた小声を聞き留めることなく、リメアはドームを見上げる。


「脅威個体分析開始……完了。小型精霊、脅威度――低」


 先程までのリメアとはもはや別人だった。

 多少驚きはしたが、彼女の精霊に対する脅威度判定を聞いた途端、アーヴィは破顔する。


「は、ははは! そうか、そうか! とうとうブチ切れたんだな! いいぞ、リメア! その片腕だけで精霊は倒せそうか? 倒せそうなんだな!?」


 アーヴィの問いかけにリメアは目もくれることなく端的に返した。


「可能。効率的な排除に向け、協力を要請」

「ああいいぜ、何をすればいい!?」

「壊霊端子の行使、妨害エーテル帯への介入権限奪取を希望。脅威個体の外殻剥離はこちらで完遂する」

「ははっ! いいぜ、どれくらい時間がかかる?」

「自立戦闘回路起動。エーテル消費量から継続戦闘可能な時間を逆算。……最大30秒」

「はっ、上等! こっちも暑さでそろそろ限界だ。短期決戦は望むところだ!」


 ズシン、と大地が揺れる。

 放熱塔をなぎ倒しながら、身体を引きずる精霊がふたりの前に立ちはだかる。

 足が減り機動力が減った分、振り回される鎖鞭の数は増え、得物を叩き潰さんと恐ろしい音を立てて空気を切り裂いている。


 アーヴィは無言で隣へ目線を送る。

 残った右手に両刃の剣を生成した少女は、表情ひとつ変えず、軽く腰を落とす。


「行動……開始」


 それは短い合図だった。

 直後リメアの蹴った床が弾け飛び、爆風が巻き起こる。


「うおっ!?」


 放熱塔に手をかけていなければ、吹き飛ばされてしまうほどの風圧。

 顔を上げればすでに、リメアは音を置き去りにする速度で精霊の眼前に迫っていた。


 待っていたとばかりに振り下ろされる鎖鞭。先端で発生したソニックブームが大気を震わせる。

 リメアは剣を構え、迎え撃つ。

 

 火花とエーテル粒子が中空に咲き乱れた。

 鈍色の刃が踊り、純白のワンピースが風を孕む。薄闇に閃光が瞬き、少女の横顔は極彩色に染まる。

 

 追い打ちとばかりに襲いかかる2波、3波の鎖。

 それらはリメアに届く直前で、同形の鎖に打ち払われる。

 少女の右手に剣はなく、切り口がまだ赤熱したままの鎖が代わりに握られていた。


 アーヴィがリメアの頭上を見上げれば、クルクルと舞う投擲された剣が瞳に映る。

 リメアは上体をグンと捻り、鎖を振り回した反力を用いて空中で更にもう一段高く跳び上がった。

 鎖を手放し片手で器用に剣を掴むと、迫る鞭撃を返す刃で斬り伏せた。

 

「……ははっ、曲芸師かあいつは!」

 

 走りながらアーヴィは血痰を吐き出す。

 過熱された大気は気道を焼き尽くしている。

 取り込める酸素も極めて薄い。

 だが、口元は笑っていた。

 ここで止まるわけにはいかない。

 灼熱の床が足裏を焼き、熱波に目が霞もうとも、ここが正念場。

 

 リメアが切り開いた道を、端子を庇いながらただひたすら真っすぐに疾走する。

 切断された鎖が背後で立て続けに落下し、地響きを轟かせる。

 

 「あと、10秒ッ!」


 自重を乗せて上空から突き立てられた少女の剣が、精霊の胴体を穿つ。

 鎖が弾けた数珠のように地面に広がった。

 地面を蹴り、精霊の脚部を駆け上がるアーヴィ。

 

 リメアは即座に剣を引き抜くと、ためらいなど微塵も見せず袈裟懸けに振り抜く。


 何度も、何度も、何度も。


 止まぬ斬撃は積層した鎖鎧を1枚、また1枚と剥ぎ取っていく。

 最奥から巨大なカンラン石に似た核が顔を出し、緑色の光を放った。


 飛び上がった少年の影がリメアに覆いかぶさり、両者は場所をスイッチする。

 アーヴィの右手で、開霊端子がひときわ青く輝いた。

 

「3、2、1――届けぇぇぇッ!!」


 伸ばされた開霊端子の枝先が、精霊の核壁に突き刺さる――。

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