第13話

 その後も、安全地帯で休息している幾つかの冒険者パーティーが商品

 を求めコルテンへと近寄ってきた

 彼らの半数以上は、この地下7階層まで潜れる実力者揃いの冒険者達だった

 それ故か、地上で販売している値段より割高でもある商品でも、必ず

 必要となる商品に関しては、決して“安い”とは言えない値段であっても

 迷い無く購入していく

 その中には初めてこの階層に踏み入れた冒険者パーティーも含まれており、

“安い”とは言えない

 値段であっても購入する冒険者達の姿が見て取れる。


「 この階層まで潜れる同業者なら買えない事はないが、この筋肉強化効果もある

『リフレッシュ・ポーション』は、層の“迷宮商人”や外の商店より、断然高いぜ」

 剣士装備の冒険者が、商品を一通り眺めていた後そう言葉を吐いた

“リフレッシュ・ポーション”とは、地下5階層に生息する魔獣の体内で

 生成された 体液と薬草を調合した商品だ

 体内に溜め込まれた回復系魔力が、一気に放出される事で疲れや傷、

 魔力欠乏などが一瞬で解消される代物だ

「この『開錠セット』や『応急手当セット』も上層や地上商店より高いわね」

 魔術師らしき女性冒険者は、並べられている商品の値段を見比べて、

 そう呟いた

『開錠セット』商品は『迷宮』深層でのみ生息する魔獣から取れる

 素材を使って製造しているため地上商店や上層の“迷宮商人”が販売している

 商品よりも高い

 鍵穴や宝箱の鍵穴にこれを差込み回せば、開錠が可能だ

『応急手当セット』は、戦闘や探索によって受けた傷を治す 塗り薬や

 飲み薬を収納した携帯用の箱だ


 2つの商品とも、上層の“迷宮商人”や地上商店が販売している値段よりも

 高額だが、納得できるほど性能が良い

 地下7階層まで潜れる実力者揃いの冒険者達は、浅い階層で狩りをしているような

 普通の冒険者達とは違うため、迷わず割高な商品であっても購入している

 上層の“迷宮商人”や外の商店より 断然高いと不満を零す者は、大概が初めて

 地下7階層へ潜ってこれた冒険者達である場合が多い

「ヴィンダムを拠点にする同業者は、よっぽど稼いでるんだろうな」

 剣士装備の冒険者は、ヴィンダムを拠点とする冒険者に妬みを混じえた

 口調で そう呟きつつ、ふっと眼に止まった商品に視線を移す


「店主、この石って『転移石』 ?」

 魔術師らしき女性冒険者も、その冒険者の呟きに釣られて 並べられている

 商品の一つに視線を向けた。

 それは拳大の大きさの石だった

 色は灰色で光沢があり、表面が滑らかだ 一見するとただの“石ころ”にしか

 見えない

 しかし、冒険者稼業を続けている皆は知っている

“転移石”は、迷宮深く潜り探索する冒険者達に取っては地上へと一瞬で

 移動できる魔法具でもある品は、喉から手が出る程欲しい品だ

 貴重な素材を加工して製造する代物であるため、地上においても“転移石”は

 高値で取引されている。

 駆け出し冒険者パーティーではおいそれと購入できるほど

 安価なものではないが、『迷宮』深層まで潜り探索できる険者パーティー

 であれば幾つか常備している



 高価な“転移石”が通常の二倍ほどの価格で販売している事に魔術師らしき

 女性冒険者は、疑問を覚えた

 しかも、その販売定価は地下7階層まで潜れる冒険者パーティーならば

 決して購入できない金額ではない

「 『1パーティーに一個まで』?なんだこれ」

 剣士装備の冒険者が、その石に書かれている注意書きを読み上げながら

 首を傾げた

「何分仕入れが難しい商品ですので、一つで金貨2,000枚の

 値が付いております。

 申し訳ありませんが、複数パーティーでのご利用は

 お断りさせていただきます」

 コルテンは、営業スマイルを浮かべつつ頭を下げた。


 剣士装備の冒険者は、そんな説明を聞きながら値段を見て

 驚いたような貌を見せる

 確かに高いが、この階層まで潜れる実力者なら払えない金額ではない

「ここの迷宮って、まだ10階階層まで誰も行ってないのよね?

 地下8階から9階層の魔物相手なら“転移石”が無くても大丈夫なんじゃない?」

 魔術師らしき女性冒険者が、剣士装備の冒険へ尋ねる

「ヴィンダムの『迷宮』は、アヴァロニアやランザッドの迷宮に比べて

 全体的に深い

 ・・・ “転移石”を持っていれば心強い」

 剣士装備の冒険者は、溜め息交じりに応えた。

“転移石”があれば、一瞬で地上へと帰還できるが、地下8階から出現する

 魔物相手に“転移石”を使用すればそれだけで金が吹っ飛んでいく

 使わずに進めるところまで進みたいというのが本音だ

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迷宮商人 大介丸 @Bernard

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