第12話

「パーティー内に魔法が使える仲間がいない

 その代わりに魔法武器の属性付与を頼めないか」

 背にウォーアックスを担いだ獣人種族の女性は、そう告げた。

 魔法武器とは、その名の通り魔法が込められた武器の事だ。

 魔剣、霊装、聖具、神器といった種類が存在し、その威力は普通の武器とは

 比べ物にならないほどの力を秘めている


 だが、そのほとんどがごく少数の希少鉱物“アダマンタイト”や “オリハルコン”を

 材料に作成されており、種類によっては代償として使用者に 多大な

 代償を求める代物もある

 代償の多くは生命力だ

 しかし、“迷宮”の深層に潜る者達には、この“代償”を支払ってでも強力な

 武器を必要としている為、

 支払う事を望む者は後を絶たない

「ご希望の“武器の種類”と 要望を伺ってよろしいですか?」

 コルテンがそう尋ねる


「大剣だ」

 獣人種族の女性は 少し考えてから口を開いた

 それが希望に合った武器種類なのだろう

「大剣ですね。魔法類のご希望はございますか?

 攻撃系、防御系、補助系、回復系、妨害系の5つになりますが」

 コルテンは指折り数えながら、一つ一つ尋ねていく

「白円卓式複合魔術『スーパーマリン創造』が使えるならなんでもいい

 金貨千枚までは出せる」

 獣人種族の女性は、美しい毛並みの尻尾を左右に揺らしながら

 口を開いた

“白円卓式複合魔術”とは、西大陸に存在していた古代“魔法王国”の

 魔術師達が編み出した独自の魔術体系だ


 物理攻撃、魔法系攻撃の被ダメージを軽減、回復できる

『スーパーマリン創造』は、“水嶺神”『レフィクル』の加護を授かった遥か

 昔の“精霊使い”クフリートが編み出した独自の魔法魔術だ

 護符等の呪具に刻む事で、その威力を増大させる事も可能とあって『迷宮』

 深く潜る冒険者の間では、人気がある

 ただし“白円卓式複合魔術”が施されている護符等は、希少なため店で

 売られていても莫大な金額がする。

「“白円卓式複合魔術”には4つの位階がございます

 どの位に致しましょう?

 現在ございますのは、白円卓式位階序列第3位“神霊創造”が使える

“夜魔”と 第2位“水嶺神召喚”が使える“水仙”、

 第1位“聖湖神召喚“が使える“水龍”がございます」

 コルテンはそう答えた


「『 第2位“水嶺神召喚”』で構わない」

 獣人種族の女性は、しばらく考えてから口を開いた。

「製造素材は如何なさいますか?」

 コルテンはそう尋ねる

「獄竜石と岩狼竜の角で頼む」

 獣人種族の女性が即答で応える

“獄竜石”とは『迷宮』の地下深くで稀に発見される

 希少鉱物だ

“岩狼竜の角”というのは、『迷宮』深淵や魔境と呼ばれる

 辺境地域で棲息している亜人種の一種族である

“岩蜥蜴人(ロックリザードマン)”という強力な魔物の頭部に

 生えている三本の角の事を指している

 硬い鱗に覆われた外皮を持ち、牙には猛毒を持つ魔物だ

 2つの素材はどれも希少素材であり、入手するのに時間もかかる

 それらの希少物で創るとなると材料費だけでも、金貨1,000枚は

 軽く必要になる

 例え大金持ちの冒険者であろうとも、躊躇する金額だろう。

 だが獣人種族の女性は躊躇いもせず言い切ったのだ


「わかりました。

 オーダーメイド商品は『大剣』

 製作素材は、獄竜石と岩狼竜の角

 魔力付与『白円卓式位階序列第2位“水嶺神召喚”

 ・・・以上でよろしいですか?」

 コルテンは女性から受けた注文を書き留めながら口を開いた

「ああ、問題ない」

 獣人種族の女性は、微かに躊躇しながらも首を縦に振った

「それではお支払いは代金引換です。

 ご注文のオーダーメイド商品は、二週間ほどのお時間を頂きます

 また、受取場所をご指定頂けますとご注文の品をお届けに参ります」

 コルテンは淡々と告げつつ、リックサックから契約書を取り出して何やら羽ペンで

 書き始める

 そしてその一枚の契約書を獣人種族の女性に差し出した。

「指定場所は、この安全地帯を指定する」

 獣人種族の女性は契約書を受け取りながら、口を開いた

「こちらの羊紙に記入した下記の日付になると、購入権限が失効し

 店頭に並ぶ事になりますので、前日までにお支払いください」

 コルテンは、そう説明した


「わかった。よろしく頼む」

 獣人種族の女性は、踵を返した

「ご注文ありがとうございました」

 コルテンは画に描いたような営業スマイルを浮かべ、早足で去っていく

 獣人種族の女性の後ろ姿に向けて深々と一礼した

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