ちいさなメルヘンたち
ふみその礼
第1話 ちいさなメルヘンたち
「夏空」
ほんのいたずらだったと思う
真夏なのに
冬がそっと空に来て
ちょっとだけ空を覆っていた
下界は何も変わらない
誰も気づかない
少年がひとりだけ
不思議そうに空を見上げた
竜がね
気づいて
体をくねり
ちいさく手を振ったよ
うれしそうだった
少年もうれしそうに
手を振り返した
遠い空で
ごろごろごろと
夏の雲が笑ってた
「種まく人」
ある日
違う家に着いた
見失ったものは
昨日という日付けの中にある
だから初めての太陽に会う
それも今まさに
帰ろうとしているよ
わたしはあわてて
手の中の籠から
ムギの種を
どうしたらいいんだ
もう人は
生まれてしまったというのに
わたしは何年
眠り
神様と約束した
わたしの
もう何も
間に合わないし
きっと役に立たない
でも
わたしは
痛みいたみ痛みながら
いのちの種を
どのひと粒も
奪われる命でないように
愛されて終えられる
命でありますように
願いながら
「道化」
道化は
誰かのための道化でなければ
いけないのでしょう
でも不思議なのは
わたしは道化を閉じた時に
道化になるのであります
わたしが道化の顔を消した時に
わたしは道化の顔になる
だから舞台を降りた時
「おつかれさま」があればいいほう
誰もほんものの道化のわたしを
見ようともしない
静かに
毎晩毎晩
なにかを
片づけています
きっと
わたしという道化は
ほんとうの未来が
見えるのかもしれない
そして
そのときに
ほんとうの道化の
わたしの役割が
やってくるのでしょう
だから
その時のために
毎晩毎晩
磨いています
きら
きら
「ひまわりと夏の思い出」
見上げても見上げても
どうしても見えない
ほど
高いんだ
ずっと空の上にいる
あの子がほんとうにひまわり?
お父さんには見える?
うん、どうにか見えるよ
見てみたいなあ
ひまわり
近くから
肩車してあげよう
大丈夫?
おいら もう五年生だよ
大丈夫だよ お前ぐらい
お前がいくつになっても
お父さんはお前を
肩車してやる
じゃ お願い
どっ………よっこらしょ………
わっ………重いな お前………
大丈夫?
大丈夫………おっせあ!………
後ろへ………倒れるなよ
うわあ!………高いなあ!
でも とどかない ひまわり
もっと上なんだ
空に近い
すごいな
ひまわり
かっこいい………
ああ
ちょっと
ひまわりが
見おろしてくれた
ちいさなメルヘンたち ふみその礼 @kazefuki7ketu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます